事業承継のメリット5選と関係者への波及

「会社を譲るのは自分だけの問題」と感じている経営者の方は、少なくありません。譲渡や引退の判断を先延ばしにしてしまう背景には、こうした罪悪感や迷いがあるのではないでしょうか。

事業承継のメリットは、経営者個人にとどまりません。従業員の雇用、後継者の事業基盤、取引先のサプライチェーン、地域経済まで、関係者全員に恩恵が広がります。

本記事では、50〜80代の経営者の方に向けて、事業承継のメリットを5つの視点で整理しました。帝国データバンクや中小企業庁の公的データを引用しつつ、廃業との比較や承継方法ごとの利点も解説します。

事業承継とは何を指すか

事業承継とは、経営者が築いてきた会社の経営権・資産・知的財産を、後継者へ引き継ぐ一連の取り組みのことです。会社を次世代へつなぐ、最も重い経営判断の一つといえます。

引き継ぐ3つの要素

中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継で引き継ぐ要素は3つに整理されています。経営権だけでなく、目に見えない知的資産まで含まれる点が特徴です。

要素 具体的な内容
人(経営権) 経営者の地位、株式、役員ポジション
資産 事業用資産、不動産、預貯金、自社株式
知的資産 顧客との信頼、技術、ブランド、ノウハウ

事業承継と事業継承の違い

読者の中には「事業承継」と「事業継承」のどちらが正しいか迷う方もいらっしゃるのではないでしょうか。法令・行政文書では「事業承継」が正式表記として使われています(出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」)。「継承」は権限や財産を引き継ぐ広い意味で用いられ、ビジネス文脈では「承継」が標準です。

📋 この章のまとめ
事業承継は「人・資産・知的資産」の3要素を後継者へ引き継ぐ取り組み。行政文書では「承継」が正式表記。

経営者個人のメリット

経営者ご自身にとって、事業承継には経済面と精神面の双方でメリットがあります。引退後の生活設計を組み立てる土台にもなります。

譲渡対価で老後資金を確保

帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査(2024年)」によれば、後継者問題への対応策としてM&Aを検討する企業は20.3%にのぼり、前年から3.6ポイント上昇しました。会社の譲渡対価は株主である経営者個人の手元に残るため、退職金や老後の生活資金として活用できます。

参考
譲渡対価にかかる税金や引退後の暮らし方を具体的に知りたい方は、事業承継後の経営者個人の税金と生活設計もあわせてご覧ください。

廃業を選んだ場合は、残存資産から負債や清算コストを差し引いた残余財産しか手元に残らず、譲渡対価ほどのまとまった資金は確保しにくくなります。

経営責任からの解放

中小企業庁「2024年版中小企業白書」によれば、70歳以上の中小企業経営者のうち約半数が後継者未定の状態にあります。経営から退くことで、長年負ってきた連帯保証や日常的なプレッシャーから解放され、家族との時間や健康管理に充てられるようになります。

参考個人保証の解除手順については、個人保証付きでも会社を売る方法と解除手順で詳しく解説しています。
📌 ポイント
経営者個人保証の解除は、中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」運用以降、譲渡先選定の重要論点として整理されてきました。譲渡の具体的な流れは 事業承継のフロー をご参照ください。
📋 この章のまとめ
経営者個人には、譲渡対価という金銭面と、経営責任から解放される精神面の両方の利点がある。

従業員への5つの恩恵

事業承継は、経営者の意思決定でありながら、最も具体的な利益を受けるのは従業員かもしれません。

雇用継続と労働条件の維持

中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、譲渡契約時に「雇用維持」を条件として明記することが標準実務として位置づけられています。廃業を選ばずに承継すれば、従業員は同じ職場で働き続けられます。

地方の中小企業の場合、廃業後に近隣で同等の職場を見つけることは容易ではありません。皆さまの会社では、従業員が次の職場を見つけられるか、想像されたことはあるでしょうか。

成長機会と福利厚生の拡大

譲渡先が大規模グループの場合、研修制度や福利厚生、昇進機会の幅が広がるケースがあります。単独中小企業では実施しにくい教育投資が、グループ全体のリソースを使って可能になるためです。

従業員が事業承継で得られる主な恩恵は、次の5点に整理できます。

  • 1

    雇用継続による生活基盤の維持

  • 2

    親会社グループの教育・研修制度の活用

  • 3

    福利厚生の拡充(健康保険・休暇制度など)

  • 4

    経営の透明化とコンプライアンス強化

  • 5

    キャリアパスの明確化と昇進機会

📋 この章のまとめ
従業員にとって事業承継は、雇用継続と成長機会の両方を守る選択肢。

後継者側の利点を整理

事業を譲り受ける後継者側にも、ゼロから創業するのとは大きく異なる利点があります。

既存資産による初期負担の軽減

既存の顧客・取引先・従業員・設備をそのまま引き継げるため、ゼロから創業する場合と比べて事業の立ち上げ負担が大幅に減ります。日本政策金融公庫総合研究所「2024年新規開業実態調査」によれば、新規開業時の平均開業費用は1,027万円。譲渡型の事業承継では、既存事業のキャッシュフローがそのまま使えるため、投資回収の見通しが立ちやすくなります。

参考
後継者の資金調達を後押しする制度については、事業承継の融資4選と補助金活用で詳しく解説しています。

事業承継税制という選択肢

中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」を活用すれば、後継者にかかる相続税・贈与税が、要件を満たせば全額納税猶予の対象となります。同制度の特例承継計画の提出件数は、2023年度時点で累計約2万件規模に達しています(出典:中小企業庁公表データ)。

参考税制の最新動向については、事業承継税制の延長を待つリスクと対処法で詳しく解説しています。

ただし特例措置の事前申請には提出期限が設けられているため、活用を検討する場合は早めに最新の中小企業庁告示を確認してください。

📌 ポイント
事業承継税制の活用可否は、後継者の手取りに大きく影響します。税理士・公認会計士など事業承継税制に強い専門家と早めに相談しましょう。
📋 この章のまとめ
後継者は「既存資産」と「税制活用」の2点で、創業と比べて有利な事業スタートが切れる。

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私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先として活動しています。譲渡をご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。

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取引先と地域経済への波及

意外に思われるかもしれませんが、事業承継のメリットは社外の関係者にも広く及びます。1社の存続が、サプライチェーン全体と地域経済を支えているからです。

取引先のサプライチェーン維持

廃業すれば取引が打ち切られ、納品先や仕入先の経営にも影響が及びます。中小企業庁の試算では、休廃業・解散の進行による経済損失(GDP寄与額)が累計約22兆円、雇用喪失が約650万人に達する可能性が指摘されてきました(出典:中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センターの取組について」)。

地域経済と税収への寄与

東京商工リサーチ「2024年休廃業・解散企業動向調査」によれば、休廃業・解散件数は近年高水準で推移しており、業歴30年以上の老舗企業の割合も高い状況が続いています。地方経済では、1社の休業が地域の雇用・税収を直接縮小させる傾向があります。

事業承継・引継ぎ支援センターの2023年度の成約件数は2,191件で、過去最多を記録しました(出典:中小企業庁「2024年版中小企業白書」)。地域の中小企業を残す取り組みが、確実に成果を上げ始めています。

✅ 実践ポイント
取引先・地域への影響を「見える化」することが、承継判断の最初の一歩です。取引先別の売上比率、地域内雇用人数、地元金融機関との関係性を一度棚卸ししてみると、自社の社会的役割が定量的に見えてきます。
📋 この章のまとめ
1社の承継は、社内外を含めた数百〜数千人規模の関係者に波及する社会的意義を持つ。

方法別のメリット比較

事業承継には主に3つの方法があり、それぞれに固有のメリットがあります。自社の状況に合わせた選択が重要です。

承継方法 主なメリット
親族内承継 心理的な納得感、税制上の選択肢が広い、従業員・取引先への説明が容易
社内承継(従業員・役員) 経営理念や企業文化を継続、取引先・従業員の安心感
第三者承継(M&A) 譲渡対価の確保、後継者候補の幅が広い、グループ資源の活用

親族内承継から第三者承継へのシフト

帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2024年)」によれば、後継者不在率は52.1%まで低下し、過去最低水準を更新しました。低下の主要因として、M&Aによる第三者承継の活用拡大が挙げられています。

参考
なぜ多くの中小企業が第三者承継へ向かうのかは、後継者不足50.1%、中小企業が選ぶ第三者承継で背景を掘り下げています。

選び方の判断軸

承継方法に絶対的な正解はなく、後継者候補の有無・経営者の希望・財務状況によって最適解が変わります。皆さまの会社では、後継者候補は社内・親族・社外のどこにいらっしゃるでしょうか。

⚠️ 注意
親族内承継では、相続人間の遺留分配慮を怠るとトラブルの種になります。事前に弁護士・税理士など専門家を交えた合意形成を進めてください。
📋 この章のまとめ
3つの承継方法はそれぞれ異なる強みを持つ。自社の人材・財務・経営者の希望から選ぶ。

廃業との比較で見える価値

事業承継のメリットは、廃業との比較によって一段とくっきり見えてきます。実は、廃業企業の多くは黒字経営です。

黒字廃業という構造的課題

東京商工リサーチ「2023年休廃業・解散企業動向調査」によれば、休廃業・解散企業のうち、直前期決算で黒字だった企業は約半数にのぼります。黒字でも後継者がいないために廃業を選ぶ「黒字廃業」は、日本の中小企業の構造的な課題として議論されてきました。

参考廃業との比較で迷われている方は、廃業検討中の経営者必見!黒字企業が選ぶべき事業承継の道筋もあわせてご覧ください。

事業承継で残せる無形資産

廃業すると、長年積み重ねたブランド、技術、顧客との信頼、職人の技などの無形資産は消滅します。承継できれば、これらの無形資産が次世代へ引き継がれ、社会全体の資産として残ります。

廃業判断の前に踏んでおきたい3つのステップを整理しました。

  • 1

    自社の資産・負債を整理し、廃業コストを試算する

  • 2

    第三者承継の可能性を、1社以上の譲渡先候補と直接相談する

  • 3

    廃業コストと譲渡対価を比較し、家族・従業員の希望も踏まえて判断する

📋 この章のまとめ
廃業か承継かの判断は、無形資産の価値評価と廃業コスト試算で大きく変わる。

承継しない場合のリスク

事業承継のメリットを生かさず、判断を先送りした場合、何が起こるのでしょうか。リスクは時間とともに増加していきます。

判断の先送りで失う選択肢

承継準備には、後継者の選定・育成、株価評価、ステークホルダーへの説明など、相応の時間がかかります。中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」では、事業承継には5〜10年単位の準備期間が想定されると示されています。判断の先送りは「選択肢が減る」ことに直結します。

参考
いつ動き出すべきか迷われている方は、何歳から動く?事業承継のベストタイミングもご参照ください。

経営者の体調・寿命というリスク

経営者の急逝や病気による事業停止は、計画的な承継と比べて従業員・取引先への影響が桁違いに大きくなります。お気づきでしょうか。事業承継は、健康なうちにこそ取り組むべきテーマです。

⚠️ 注意
70歳を過ぎてから準備を始めると、時間との戦いになるケースが目立ちます。承継準備は早ければ早いほど、選べる手段が増えます。
📋 この章のまとめ
先送りはリスクを増やすだけ。健康なうち、経営判断ができるうちが最善のタイミング。

※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。

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監修:株式会社SDアドバイザーズ 事業承継グループ
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自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。

「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。

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