サーチファンドで顔の見える事業承継を選ぶ
「子も社員も継げない。でも、ファンドや大企業に会社を売り渡すのはためらう」。事業承継のご相談で、そう打ち明けてくださる小規模会社のオーナーは少なくありません。屋号や取引関係をそのまま残したいお気持ちが、決断を難しくしていると思います。
近年、新しい選択肢として広がってきたのがサーチファンドによる事業承継です。経営を志す個人(サーチャー)が投資家から資金を集め、自ら承継先の会社を探し、次の経営者として引き継ぎます。株式譲渡のスキームを使うのが典型で、会社の法人格はそのまま、株主だけが交代します。屋号・取引関係・雇用は原則として継続しやすい形ですが、法的な保証ではありません。
この記事では、「顔の見える個人に託す」というサーチファンドの考え方と、事業承継との相性、選ぶ・断る権利、注意点までを、譲り受ける側の視点も交えて整理します。私たち株式会社SDアドバイザーズは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、事業を譲り受ける側として経営者の方をお迎えしており、「4040 VISION(40人の社員がいる会社を40社つくる)」を掲げて活動しています。
目次
サーチファンドとは
まず、言葉の輪郭をつかみます。サーチファンドは、経営志望の個人が主人公になる承継の仕組みです。
個人が経営者として承継する形
サーチファンドとは、経営を志す個人(サーチャー)が投資家から資金を調達したうえで承継先の会社を自ら探し、買収し、次の経営者として引き継ぐ形態です。業界では1984年に米国スタンフォード大学で生まれた仕組みとして広く言及されており、日本では2014年ごろから紹介が広がってきたとされます。登場人物は三者。会社を譲りたいオーナー、経営者になりたいサーチャー、そのサーチャーに資金を出す投資家。三者がそれぞれの目的をひとつの承継案件のなかで組み合わせます。

M&Aの一形態としての位置づけ
サーチファンドは、第三者承継の一形態、つまり広い意味でのM&Aに含まれます。買収資金を集めて株式を取得し経営権を引き継ぐ構造は通常のM&Aと共通しており、違うのは買い手が事業会社やファンドそのものではなく、経営を志す「個人」である点です。
取引の器としては、株式譲渡のスキームで行うのが典型です。株式譲渡では会社の法人格はそのまま、株主だけが交代します。相続や合併のような包括承継ではありません。会社が結んできた契約や雇用は、原則として会社に残ったまま動きます。
サーチファンドは、第三者承継(M&A)の一形態です。株式譲渡の器を使うため、会社の法人格はそのままで、屋号・取引関係・雇用はそのまま継続しやすい傾向にあります。ただし、法的に保証された仕組みではありません。
選ばれる背景の変化
なぜ今、個人による承継が注目されているのか。背景には、後継者不在の長期化と、譲り渡す相手に対するお気持ちの変化があります。
後継者不在の構造的な長期化
民間調査でも、後継者不在は依然として広く残る課題として報告されています。帝国データバンクの2025年調査では、全国の後継者不在率は50.1%とされました(前年から2.0ポイント低下)。出典:帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/。
また、東京商工リサーチの2025年調査では、後継者不在の割合が62.60%と報告されています(出典:東京商工リサーチ「2025年『後継者不在率』調査」 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201982_1527.html)。両調査は調査対象企業や集計方法が異なるため数値をそのまま並べて比較はできませんが、いずれも後継者難が広く残る現状を示すデータと読めます。
「顔の見える承継」への希望
後継者不在が続くなかで、譲渡先の選び方にも変化が出てきました。「会社は残したい。でも、顔の見えない大きな組織に吸収されるのは寂しい」。こうしたお気持ちを持たれる経営者にとって、経営を志す個人が引き継いでくれる形は、心理的に受け入れやすい面があります。サーチャーは承継後に自ら現場に入り、社員と向き合い、取引先にも自分の顔でご挨拶をしていきます。距離の近さが「顔の見える承継」と呼ばれる理由です。
PEファンドとの違い
「ファンド」と付くと、いわゆるPEファンド(プライベート・エクイティ)を連想されると思いますが、両者は目的も関わり方も違います。

誰が経営に入るかの違い
PEファンドは複数の投資先を持つ運用会社です。買収した会社の運営は既存の経営陣や外部から招いた経営者に任されることが多く、運用会社そのものが現場に張りつくわけではありません。サーチファンドでは、資金を集めた個人(サーチャー)がそのまま次の経営者として会社に入ります。承継後の会社の「顔になる人」が、投資家ではなくサーチャー個人である点が大きな違いです。
時間軸の違い
PEファンドは業界慣行として3〜7年程度で保有株式を売却し、投資家に資金を返す設計が多いといわれます。サーチファンドはサーチャー個人が経営者として腰を据える前提のため、比較的長い時間軸がとられやすいとされます。ただし投資家の意向や事業環境で早期売却されるケースもあり、必ず長期保有されると言い切れるものではありません。想定期間は契約前に共有しておくべき論点です。
オーナー側の実際的な利点
譲り渡す側であるオーナーの立場で、何が実際的なメリットになるのか。

屋号・取引関係が動きにくい
株式譲渡のスキームでは、株主が交代しても会社の法人格は同じです。会社名義の契約、取引先とのつながり、社員との雇用契約は、会社側の主体が変わらないため、原則として継続しやすいといえます。屋号や商号を変えるかどうかも、原則として新しい経営者側の判断にゆだねられます。ただし、取引先が経営者交代を理由に契約を見直す場合や、許認可業種で株主変更に伴う届出・審査が必要になるケースもあります。業種ごとの手続きは必ず個別に確認してください。
選ぶ権利・断る権利がある
見落とされがちなのが、オーナー側の主導権です。サーチャーから打診を受けたからといって、必ず引き受けなければならないわけではありません。経歴、経営者としての考え方、承継後の方針、投資家の顔ぶれを確認したうえで、合わないと感じれば断って構いません。「良さそうな人だから」と情に流されて即決するのは、承継後の摩擦のもとになります。
たとえば、地方の電気工事業者や小さな和菓子製造、地域密着型の建設業のように、技術や顧客関係が経営者ご自身と強く結びついている会社では、サーチャーとの相性が特に問われます。承継後に業種経験のある方を経営顧問として一定期間残す設計にしたり、最初の面談で業種経験の有無を必ず確認するといった段取りが、屋号と雇用を守る現実的な一手になります。当社の受け入れ事例でも、業種特性と承継後の体制設計をあらかじめ擦り合わせておいた案件は、引継ぎ後の混乱が抑えられる傾向がありました。
サーチャーからの打診を受けた段階で、次の3点を紙に書き出してください。承継後の役員体制、屋号や社名の扱い、投資家の主要な顔ぶれ。この3点が明確に語られない打診には、いったん距離を置く判断があってよいと思います。
知っておきたい注意点
ここまで利点を見てきましたが、当然ながら万能ではありません。「個人だから安心」と早合点すると、承継後にご自身と会社が苦しむことになりかねません。

成功は確約されない
サーチファンドで承継したからといって、会社の未来が保証されるわけではありません。サーチャーの意欲は高いものの、業界経験や実際の経営経験には差があります。一定期間、前経営者が相談役として引き継ぎに関わる契約や、重要取引先への同行挨拶といった段取りが、結果として会社と雇用を守ります。
万一、承継後にサーチャーが経営に行き詰まった場合、投資家が介入して再売却や事業再編に動く可能性は否定できません。だからこそ契約前に、投資家の顔ぶれと承継後の売却方針(早期売却の可能性の有無)を確認しておくことが、オーナーとして取れる最大の備えになります。
雇用・許認可の扱いに慎重に
株式譲渡の器を使うため社員の雇用契約は原則として会社に残り、継続しやすいのは事実です。ただし制度として保証されるわけではなく、経営者交代を機に組織再編や条件変更の話し合いが起きる可能性はあります。許認可も、株式譲渡なら「そのまま使える」と一律には言えません。建設業・産業廃棄物処理業・宅建業などでは株主構成の変化がチェック対象となることがあり、事前に行政書士・弁護士へ確認したうえで進める必要があります。
「サーチファンドなら屋号・雇用・許認可がすべてそのまま残る」という説明を鵜呑みにしないでください。株式譲渡は器の話であり、契約や許認可の実務は業種・取引先ごとに個別対応が必要です。契約締結前に、業種所管の届出・審査を専門家と一緒に洗い出してください。
売却代金と税金の一般論
個人であるオーナーが自社株を売って利益(譲渡益)が出た場合、一般に申告分離課税が適用され、税率は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)とされます。ただし取得価額の算定、名義株の整理、退職金との組み合わせなど、個別事情で税負担は変わります。契約設計と同時に税理士へ試算を依頼してください。サーチファンド案件では売却代金の一部を業績達成に応じて後から受け取るアーンアウト条項が用いられることがあります。金額の大小より、算定期間・達成条件・紛争解決手続きの中身をよく確認することが大切です。
他選択肢との併走
サーチファンドは有力な選択肢のひとつですが、唯一の答えではありません。他の選択肢と横に並べて比べる目線が要ります。
選択肢の全体像
事業承継の選択肢は、親族内承継・社内(役員・従業員)承継・第三者承継・廃業の並びで整理できます。サーチファンドは第三者承継のうち「個人が主体になる形」に位置づけられます。会社の規模、業種、財務内容、経営者のご意向によって、向き不向きは変わります。中小企業庁は事業承継の全体像や公的支援策を体系的に案内しており(出典:中小企業庁「事業承継」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html)、第三者承継の実務は同庁の「中小M&Aガイドライン」もあわせてご覧ください。
公的な支援策の位置づけ
サーチファンド型の承継を後押しする公的な仕組みも整いつつあります。独立行政法人中小企業基盤整備機構は、サーチファンド型ファンドへの出資を通じ、地域の中堅・中小企業の第三者承継を支援しています(出典:中小機構「サーチファンド型ファンド」 https://www.smrj.go.jp/sme/funding/fund/favgos000001y4w4.html)。「公的支援がある=安心」ではなく、「公的な後押しがある選択肢のひとつ」として位置づけるのが実務的です。
私たち株式会社SDアドバイザーズはM&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先(譲り受ける側)として活動しています。サーチファンドを含めた第三者承継の選択肢を、会社の状況にあわせて整理する段階からご相談いただけます。譲渡を急かすことはいたしません。
実行までの現実的な流れ
最後に、行動の順番を整理します。慌てて進めるとうまくいきません。

面談から契約・引継ぎまで
おおよその流れは次のとおりです。
-
1
サーチャー・支援機関との初回面談。経歴・経営方針・投資家の顔ぶれを確認
-
2
会社の情報開示と、譲渡条件(価格・引継ぎ期間・アーンアウトの有無)の擦り合わせ
-
3
デューデリジェンス(=会社の内容を詳しく調べる工程)と、株式譲渡契約の締結
-
4
クロージング後の引継ぎ期間。前経営者が顧問・相談役として関わることが多い
とくに大切なのは④の引継ぎ期間の設計です。当社が支援した事業承継の中でも、半年から2年程度、前経営者が顧問として関わり橋渡しをするケースが多くありました。役割・報酬・退任時期を、契約前に必ず文書で確認してください。
相性の見極めが最後の砦
実は成否を分けるのがサーチャーとの相性です。ご自身の会社に合うかどうかは、面談を重ねなければ見えてきません。もし案件が成立しなかった場合でも、私たちのように事業を譲り受ける第三者への承継を並行して検討しておくと、いざというときの選択肢が広がります。当社の受け入れ方は事業承継の流れ、実際の事例は実績・事例紹介でご覧いただけます。
まずは「なぜ承継したいのか」「残したいもの(屋号・雇用・取引先)」「譲れない条件(価格帯・引継ぎ期間)」の3点をA4一枚に書き出してみてください。この一枚があれば、サーチャー、支援機関、譲受候補のいずれと話すときも、判断がぶれずに進められます。
私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。経営者様のお考えと、私たちのグループとの相性を、一緒にじっくり見極める時間を大切にしています。
私たち株式会社SDアドバイザーズはM&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、事業を譲り受ける側として経営者の方をお迎えしています。サーチファンドを含む第三者承継の選択肢を並べて検討されている段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。
サーチファンドは、子も社員も継げない状況で、会社と雇用を残しながら「顔の見える個人に託す」ための新しい選択肢です。屋号や取引関係は動きにくい傾向にありますが、法的な保証ではありません。相性の見極めと引継ぎ期間の設計、他選択肢との併走。この三つを揃えれば、承継の質はぐっと上がります。
・中小企業庁「事業承継」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
・中小企業庁「中小M&Aガイドライン」 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
・中小企業庁「2025年版中小企業白書 事業承継」 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_9.html
・中小機構「サーチファンド型ファンド」 https://www.smrj.go.jp/sme/funding/fund/favgos000001y4w4.html
・帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
・東京商工リサーチ「2025年『後継者不在率』調査」 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201982_1527.html
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲り受ける側として活動しています。
当社が掲げるビジョン「4040 VISION(40人の社員がいる会社を40社つくる)」のもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。株式譲渡益の税負担、許認可の取り扱い、アーンアウト条項の設計は、会社の状況・業種・契約内容によって異なります。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。