【2026年7月号】会社を譲渡すると、個人の保証責任はどうなるのか――整備されてきた「保証解除」の道筋
「会社の借金を個人で保証しているから、売ることを考えにくい」という声は、事業承継の現場でよく聞かれます。今月号では、M&Aを踏みとどまらせることがある個人保証の問題と、その出口として整備されてきた制度の話、7月24日に締め切りを迎える第15次補助金の最終案内、そして80歳で一人で支援センターを訪れた経営者の実例をお届けします。
目次
特集コラム:会社を譲渡すると、個人の保証責任はどうなるのか――整備されてきた「保証解除」の道筋

中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることが長年の慣行となってきました。いわゆる「経営者保証」と呼ばれるものです。資金調達を支えてきた仕組みである一方、会社を手放したときに自分の個人保証はどうなるのかという不安が、事業承継の決断を遠ざける要因にもなってきました。
この問題に対して、制度は少しずつ整備されてきています。2014年には「経営者保証に関するガイドライン」が適用開始となり、経営者保証なしの融資や、既存保証の見直しを検討する際の考え方が示されました。2022年12月には金融庁・経済産業省・財務省が「経営者保証改革プログラム」を策定し、2023年4月から改正監督指針が適用されました。これにより、金融機関が個人保証を求める場合には、保証が必要な理由などについてより個別具体的な説明・記録が求められるようになっています。
M&Aとの関係では、2024年8月に改訂された「中小M&Aガイドライン(第3版)」(中小企業庁)において、M&Aに伴う経営者保証解除の支援や留意点がガイドライン上で明確化されました。M&Aを機に保証解除を目指す際の考え方が、整理されてきています。
ただし、M&Aをすれば個人保証が必ず解除されるわけではありません。金融機関等への早期相談や審査・協議が必要であり、買い手側の財務状況や事業内容なども判断材料になります。また同ガイドラインでは、売り手の保証が買い手側に移行・解除される想定だったにもかかわらず、実際には移行・解除されないといった不適切な事例も問題として指摘されており、専門家の関与の重要性が強調されています。
個人保証の問題は、一人で抱え込まず、早い段階で税理士や支援機関、取引金融機関などに相談することが、選択肢を広げる第一歩になります。「保証があるから動けない」と感じている方にとって、こうした制度が整いつつあることは、知っておいて損はない情報かもしれません。
出典:中小企業庁「経営者保証」
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
出典:金融庁「『経営者保証改革プログラム』の策定について」(2022年12月23日)
https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/20221223-3.html
事業承継・M&A補助金 第15次公募、締切は7月24日――申請がまだの方へ

6月19日から受付が始まった事業承継・M&A補助金の第15次公募は、2026年7月24日(金)17時をもって申請受付が終了します。まだ申請の準備ができていない方は、残り時間を確認の上、早めの対応をご検討ください。
電子申請にはGビズIDプライムアカウントが必要です。取得には1〜2週間程度、混雑時にはさらに時間がかかる場合があります。締切直前では間に合わないケースもありますので、未取得の方は今すぐご確認ください。また、第15次公募の説明会アーカイブ動画が7月24日17時まで期間限定で配信中です。各枠の内容を改めて確認したい方はご活用ください。
今回の公募では、小規模事業者等がM&Aにより会社や事業を第三者に引き継ぐ際の専門家活用費用を補助する「小規模売り手支援類型」(補助上限450万円)が新設されています。詳細は公式サイトの公募要領でご確認ください。
出典:事業承継・M&A補助金公式サイト
https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/
第三者承継事例:「誰にも迷惑をかけないで辞めたい」80歳の決断――和歌山県・中野健三商店

この事例は、中小機構の事業承継・引継ぎポータルサイトに第三者承継事例として紹介されています。
和歌山県の中野健三商店は、牛用ロープの製造に始まり、その後、化学繊維素材のカーペットやゴム製雨具、前掛けなどの製造に転換した会社です。創業以来70年余り、多くの取引先と信頼関係を築いてきました。
典子さんは、夫の隆行さんを60歳という若さでがんで見送り、思ってもみなかった形で3代目に就任します。前掛け材料の仕入れ先である大手素材メーカー本社を訪ね、メーカー社員に取引先訪問への同行を依頼するなど自ら営業活動に踏み出し、借金を完済するまでに事業を安定軌道に乗せました。
その典子さんが80歳を迎えた2020年7月、一枚の案内チラシを頼りに、和歌山県事業承継・引継ぎ支援センターを一人で訪ねました。手には、過去3年間の売上台帳がありました。「勝手に廃業したら多くの取引先が困る。誰にも迷惑をかけないで辞めたかった」という典子さんの言葉が、この訪問の動機を物語っています。
センターの支援を受け、取引先のひとつであった防水衣料メーカー・フレックへの事業譲渡が実現しました。70年以上にわたって培ってきた取引先との関係は守られ、「立つ鳥跡を濁さず」という思いは形になりました。
長年の取引先に迷惑をかけたくないという責任感が、動き出す力になることもあるのだと感じさせる事例です。
出典:事業承継・引継ぎポータルサイト「中野健三商店」第三者承継事例紹介
https://shoukei.smrj.go.jp/case/ca015.html