【2026年8月号】後継者は「守る」だけではなく「挑む」人でもある――アトツギ甲子園から見る、事業承継のもう一つの側面

事業承継というと「会社を無事に引き継ぐ」ことに目が向きがちですが、承継は同時に、次の世代が新しい挑戦を始める起点にもなります。今月号では、8月3日にエントリーが始まった「アトツギ甲子園」(後継者が家業の経営資源を活かした新規事業アイデアを競うピッチイベント)を切り口に事業承継の前向きな側面を、第15次補助金の締切終了と今後に向けた話、そして家業を継ぐと決めた後継者がアトツギ甲子園入賞を経て承継に踏み出した実例をお届けします。

特集コラム:後継者は「守る」だけではなく「挑む」人でもある――アトツギ甲子園という取り組み

中小企業庁が、後継者を対象としたピッチイベント「第7回アトツギ甲子園」のエントリー受付を2026年8月3日に開始しました。

アトツギ甲子園は、39歳以下の後継予定者が、家業の既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競い合うイベントです。2020年度から続く取り組みで、代表権を持たない後継予定者が対象となっており、親族外承継も含まれます。決勝大会では経済産業大臣賞や中小企業庁長官賞などが授与されます。

このイベントが示しているのは、事業承継が単なる「引き継ぎ」ではないということです。中小企業庁は、事業承継を進める上での最大の課題として現経営者・後継者の双方が「後継者の経営能力」を挙げていることを踏まえ、新規事業を通じた戦略立案能力や実行力の育成が重要だと位置づけています。

会社を継ぐことは、これまで築いてきた技術や取引先との関係を「守る」ことであると同時に、後継者が自らの発想で新しい事業に「挑む」ことでもあります。この二つは対立するものではなく、既存の強みを土台にしてこそ新しい挑戦も生きてきます。長年会社を育ててきた経営者にとって、後継者候補が新しい挑戦の意欲を持っているかどうかは、承継を考える上での一つの視点になるかもしれません。

一方で、身近に後継者が見当たらない場合でも、事業をあきらめる必要はありません。M&Aによって、その会社の技術や事業に新たな可能性を見出す第三者へ引き継ぐという道もあります。承継の形は一つではなく、会社の状況に応じて選ぶことができます。

なお、8月31日と9月1日には、「アトツギSUMMER CAMP」も開催されます(事前申込制)。対象は中小企業の後継者・後継予定者、支援機関、自治体、金融機関などで、事業承継を控えた後継者や、周囲で支える立場の方にとって参考になる場となりそうです。

出典:中小企業庁「アトツギ甲子園・後継者育成」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/atotsugi-koshien.html
出典:アトツギ甲子園公式サイト
https://atotsugi-koshien.go.jp/

事業承継・M&A補助金 第15次公募が締切――今後の公募に備えて準備を

6月19日から受付が行われていた事業承継・M&A補助金の第15次公募は、7月24日をもって申請受付が終了しました。

この補助金はこれまで年間を通じて複数回の公募が実施されてきました。今回申請が間に合わなかった方や、これから事業承継・M&Aを検討する方は、今後の公募に備えて準備を進めておくことが、いざというときの選択肢を広げます。

具体的な準備として、まず電子申請に必須となるGビズIDプライムアカウントの取得が挙げられます。GビズIDプライムはマイナンバーカードを利用したオンライン申請に対応しており、書類郵送よりも短期間で取得できる場合があります。申請方法や審査状況によって所要期間が異なるため、余裕を持って準備しておくと安心です。また、専門家活用枠では、M&Aの仲介・FA費用については、M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者への支払いが補助対象となります。相談先を早めに検討しておくことも有効です。

第15次公募では、小規模事業者等がM&Aで会社や事業を第三者に引き継ぐ際の専門家活用費用を補助する「小規模売り手支援類型」(補助上限450万円)が新設されました。公募内容は回によって変更される可能性がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。

出典:事業承継・M&A補助金公式サイト
https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/

親族内承継事例:アトツギ甲子園入賞を経て承継が具体化――京都府・株式会社三木盛進堂

この事例は、中小機構の事業承継・引継ぎポータルサイトに親族内承継事例として紹介されています。

京都市に本社を構える株式会社三木盛進堂は、1957年創業、京友禅の染色に欠かせない粘着テープや刷毛などの副資材を扱う会社です。取引先の要望に応じて、名刺や伝票の印刷も手掛けています。

大学卒業後に別の業界へ就職していた社長の長男・幸太郎さんが家業に入社したのは5年ほど前のこと。当初は承継の意思が明確にあったわけではありませんでしたが、働くうちに「自分ならもっと伸ばせるのではないか」と感じ、会社を継ぐことを決意します。

継ぐ決意を固めたころ、幸太郎さんは「アトツギ甲子園」の存在を知り、自身の経験と家業の印刷技術を組み合わせたトレーディングカードゲームの事業計画でエントリーしました。ファイナリストまで残り、入賞を果たします。この入賞も一つのきっかけとなり、長年同社を支えてきた京都信用金庫と京都府事業承継・引継ぎ支援センターの連携により、事業承継が具体的に動き出しました。

注目したいのは、幸太郎さんがこの新規事業を、別会社としてではなく本業の中の新しい取り組みとして進めることを選んだ点です。この新事業は既存事業と直接強く結びつくものではありませんが、それでも幸太郎さんは新会社の設立を選びませんでした。「今まで会社を支えてくださった方とか今までの仕組みを守ることが大事。それが後継ぎの社会性だと思うんです」と幸太郎さんは語っています。既存事業と取引先との関係を守ることを土台としながら、その上で新しい事業にも挑んでいく。2023年11月には親子間で事業承継計画に合意しました。事例では、5年をめどに代表権の移転と株式の贈与を予定していると紹介されています。

守ることと挑むこと。その両方を大切にする姿勢が、この事例からは伝わってきます。

出典:事業承継・引継ぎポータルサイト「株式会社三木盛進堂」親族内承継事例紹介
https://shoukei.smrj.go.jp/case/ca034.html

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