事業承継の経営者保証、銀行別データはどう読むか

「息子に代表を譲るとき、銀行はまた保証を求めてくるのか」。そう気になる経営者は少なくありません。金融庁の2025年度集計では、保証を一切求めなかった割合が16.7%、旧経営者だけが39.7%、新旧の双方から取る二重徴求(新旧両方から保証を取られること)は3.0%と少数です。ただし誰が保証するかは、銀行ごとに大きく異なります。

この記事では、金融庁が公表する金融機関別データの読み方と、面談前に整理したい情報を、事業承継の視点でまとめます。

「代表者交代で保証は動くか」の解説図
出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」令和8年6月26日公表をもとに当社作成

この記事で扱うのは、公表データの読み方と面談前の情報整理です。保証を外す手順・条件を知りたい方は、以下をご覧ください。
保証を外す条件と手順を知りたい →事業承継で経営者保証を外す3つの条件と手順
M&A取引で個人保証を解除する流れ → M&A時の個人保証を解除する方法と手順
保証解除制度の全体像を知りたい → 会社を譲渡すると、個人の保証責任はどうなるのか

代表者交代で保証は動くか

結論から言えば、代表者が交代しても、経営者保証(会社の借入を経営者個人が保証すること。個人保証・連帯保証とも呼ばれます)が自動的に新経営者へ引き継がれるわけではありません。保証を誰から取るかは、そのつど金融機関が判断します。

ここを「代表が変われば保証も付いてくる」と思い込むと、面談で相手の説明が頭に入ってきません。代表者交代のときに起こることは、保証を誰から取るかによって、次の4つの型に分かれます。

交代時に分かれる4つの型

金融庁は、代表者交代のあった融資を、保証の取り方で4つの型に分けて集計しています。徴求(ちょうきゅう。銀行が保証を求めること)の相手が、誰なのかによる区分です。

区分 意味
保証徴求なし 前経営者・新経営者のどちらからも保証を取らない
新経営者のみ 後継者だけが保証する。前経営者は外れる
旧経営者のみ 前経営者の保証が残る。後継者は保証しない
新旧両経営者 前経営者と後継者の双方が保証する

引き継ぎは自動ではない

この4つの型があるということは、代表を譲れば保証も一律に付いてくる、という単純な話ではないことを意味します。実際の数字は後の章で見ますが、旧経営者だけに保証が残る型と、後継者だけに移る型と、双方から取る型が、それぞれ一定の割合で存在します。皆さまの会社では、どの型を想定されているでしょうか。

📋 この章のまとめ
・代表者が交代しても、経営者保証は自動では移らない
・保証を誰から取るかは、そのつど金融機関が判断する
・交代時の取り方は「なし・新のみ・旧のみ・新旧両方」の4つに分かれる

二重徴求と特則の関係

4つの型のうち、多くの経営者が気にするのが「新旧両方から取られる」型、いわゆる二重徴求です。これは、原則として避けるべきものという考え方が示されています。ただし「絶対に禁止」ではなく、例外が明記されている点に注意が必要です。

特則が示す原則と例外

金融庁は令和元年12月、「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」を公表しました。ここでは、事業承継時の保証をめぐり、原則として前経営者・後継者の双方から二重には保証を求めないこと、例外的に二重に求めることが真に必要な場合には、その理由や条件を双方に十分説明し理解を得ること、とされています(出典:金融庁「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」金融庁ページ)。

ここでいう二重徴求とは、同一の債権に対して前経営者と後継者の双方から保証を取っている状態を指します。たとえば、交代前の既存の借入は前経営者、交代後の新規の借入は後継者、というように分かれている場合は、二重徴求には当たりません。

⚠️ 注意
この特則を含む「経営者保証に関するガイドライン」は、法律ではありません。法的な拘束力を持つものではなく、金融機関が自主的に尊重するルールとされています。したがって「二重徴求は違法だからありえない」とは言えず、例外に当たると判断されれば、双方から保証を求められることもあります。
「二重徴求と特則の関係」の解説図
出典:金融庁「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」令和元年12月公表をもとに当社作成
📋 この章のまとめ
・特則は二重徴求を「原則禁止」とし、例外も明記している
・既存借入は前経営者、新規借入は後継者、なら二重徴求ではない
・ガイドラインは法令ではなく、自主的に尊重されるルール

機関別に公表される実績

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。多くの解説記事は、全国をまとめた集計値だけを紹介します。ところが金融庁は、全体集計に加えて、金融機関ごとの実績まで一覧で公表しています。自分の取引銀行の傾向を、名前で確認できるのです。

2つの公表資料がある

手がかりになるのは、次の2つの資料です。1つは全体の集計、もう1つが金融機関別の実績です。

資料 分かること
活用実績(全体集計・令和8年6月26日公表) 民間金融機関529機関を合算した、全国の傾向
個別金融機関等の実績(令和8年7月31日更新) 個々の金融機関ごとの割合と、取組方針の公表状況

全体集計の対象は、主要行等9行・その他銀行24行・地域銀行97行・信用金庫255・信用組合144を合わせた529機関です(出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」令和8年6月26日公表金融庁ページ)。全国の平均像をつかむのに向いています。一方で、自分の銀行がその平均どおりとは限りません。そこで役立つのが、機関別の実績です。

📋 この章のまとめ
・金融庁は全体集計と、金融機関別の実績の2つを公表している
・全体集計は529機関を合算した全国の平均像
・自分の取引銀行の傾向は、機関別の実績で名前から確認できる

数字は何を語るのか

先に答えると、全体では、後継者だけに保証を求める型と、前経営者に保証を残す型が、ほぼ同数で並んでいます。二重徴求に当たる新旧両方の型は少数です。まず全体集計から見ていきましょう。代表者交代のあった融資で保証をどう取ったかの割合を、2024年度と2025年度で並べます。

区分 2024年度 2025年度
保証徴求なし 7,296件(16.6%) 6,710件(16.7%)
新経営者のみ 18,043件(41.1%) 16,304件(40.6%)
旧経営者のみ 17,238件(39.3%) 15,932件(39.7%)
新旧両経営者 1,288件(2.9%) 1,224件(3.0%)

読み取れるのは、後継者だけに保証が移る型(40.6%)と、前経営者だけに残る型(39.7%)が、ほぼ拮抗しているという構図です。二重徴求に当たる新旧両方の型は3.0%にとどまります(出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」令和8年6月26日公表)。「代表を譲れば必ず息子も保証させられる」という不安は、全体の数字を見るかぎり、そこまで一般的なものではありません。

「数字は何を語るのか」の解説図
出典:金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」令和8年6月26日公表をもとに当社作成

主要行の実績を並べて読む

次に、金融機関別の実績です。ここでは公表されている主要行4行を取り上げます。「新規融資に占める、経営者保証に依存しない融資の割合」と、代表者交代時の4区分を並べました。数字は同じ4区分でも、銀行によってかなり違うことが分かります。

金融機関 保証に依存しない新規融資 徴求なし 新のみ 旧のみ 新旧両
みずほ銀行 60.9% 6.8% 12.2% 78.3% 2.7%
三菱UFJ銀行 67.9% 16.9% 29.5% 50.4% 3.2%
三井住友銀行 71.9% 12.5% 48.3% 34.2% 5.1%
りそな銀行 65.7% 15.8% 38.1% 45.8% 0.3%

同じ「旧経営者のみ」でも、みずほ銀行は78.3%、三井住友銀行は34.2%と、倍以上の開きがあります。逆に「新経営者のみ」は、みずほ銀行が12.2%、三井住友銀行が48.3%。前経営者の保証を残す傾向が強い銀行と、後継者へ切り替える傾向が強い銀行がある、という構図が見えてきます(出典:金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績等について(個別金融機関等の実績及び取組方針の公表状況)」令和8年7月31日更新金融庁ページ)。

「主要行の実績を並べて読む」の解説図
出典:金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績等について(個別金融機関等の実績及び取組方針の公表状況)」令和8年7月31日更新をもとに当社作成
📌 ポイント
これらの数値は、原典で小数点以下第2位を四捨五入して示されています。金融庁も「今後の精査によって変動し得るものであり、各行の公表値とは差異がある場合がある」と注記しています。実績がない場合は「-」、その区分に該当する実績がない場合は「0.0%」と表記される点も、読み違えないようにしたいところです。

件数ベースであることに注意

もう一つ押さえておきたいのが、「経営者保証に依存しない融資」の割合の中身です。これは金額ではなく件数ベースで数えられています。全体では2024年度の52.9%から2025年度は55.7%へと上がりました(上期55.8%・下期55.6%)。なお、この55.7%は新規融資全体を母数とする指標で、代表者交代のあった融資を母数とする「保証徴求なし16.7%」とは、母数も対象も異なります。同じ「保証なし」でも、別々の物差しである点に注意したいところです。この中には、通常の無保証融資だけでなく、停止条件付・解除条件付の保証契約(財務内容などの条件に応じて、保証の効力が生じたり外れたりする契約とされるもの)や、ABL(動産や売掛金を担保にする融資)といった代替的な手法も算入されています。「新規の半分以上が完全な無保証になった」と読むと、実態からずれます。

📋 この章のまとめ
・全体では後継者のみ40.6%と前経営者のみ39.7%がほぼ拮抗、新旧両方は3.0%
・同じ「旧経営者のみ」でも、みずほ78.3%と三井住友34.2%で銀行差が大きい
・「保証に依存しない融資」は件数ベースで、代替的手法も算入されている

「銀行との面談を待つ前に、譲り先という選択肢も並べておきたい」——その整理から、一緒に考えませんか。

株式会社SDアドバイザーズは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる事業を譲り受ける側として活動しています。代表交代や保証の相談を金融機関にする前の段階でも、当社グループとの相性から、ご相談いただけます。譲渡を急かすことはいたしません。

取組方針という情報源

機関別の資料には、実績の数字だけでなく、もう一つの手がかりが載っています。「取組方針の公表状況」です。実績は過去の結果を示す数字ですが、取組方針は、その銀行がこれから経営者保証にどう向き合うかの姿勢を示します。

方針から読めること

取組方針の公表状況は、金融機関が経営者保証にどう向き合うかの考え方を、自ら明らかにしているものです。数字だけでは分からない、その銀行のスタンスを補う情報として使えます。実績と方針の両方を合わせて見ると、面談で相手が何を重視しそうかの見当がつきやすくなります。

ただし、公表されているのはあくまで金融機関側の一般的な姿勢です。実績の割合も全国や各行の集計値であって、個々の融資条件は、財務内容や担保の状況を踏まえて金融機関が個別に判断します。「この割合が、そのまま自社に当てはまる」とは考えないほうが安全です。

📋 この章のまとめ
・機関別資料には実績に加え「取組方針の公表状況」がある
・実績は過去の記録、方針はこれからの姿勢を示す
・集計値は目安であり、個別の融資条件は金融機関が個別に判断する

面談の前に整える情報

ここまでの公表データは、どれも無料で、誰でも見られます。相談窓口に行く前に、まず自分の手元で整理できることがあります。面談は、その整理を持って臨むと、限られた時間を有効に使えます。

手元でできる4つの準備

✅ 実践ポイント
面談の前に、次の順で情報を整えておくと、話がかみ合いやすくなります。

  • 1

    取引銀行の名前を書き出し、金融庁の機関別実績のページで自行の4区分を確認する

  • 2

    自社の借入を「交代前からの既存借入」と「今後の新規借入」に分けて一覧化する

  • 3

    後継者に保証を移すのか、前経営者に残すのか、自社としての希望を言葉にしておく

  • 4

    承継後の資金繰りや設備投資の予定を整理し、必要になりそうな融資額の見当をつける

「面談の前に整える情報」の解説図
面談前の4つの準備ステップ(当社作成)

4番目の資金面では、事業承継そのものにかかる費用や、後継者側の資金不足への備えも合わせて考えておきたいところです。

参考
承継時の資金対応と補助金の使い方は、事業承継の融資4選と補助金活用で具体的に解説しています。

整理した先で相談する相手

手元での整理が終わったら、次は専門家との相談です。保証の取り扱いは、財務内容や事業計画とも密接に関わります。取引金融機関の担当者はもちろん、事業承継に詳しい税理士や、認定経営革新等支援機関に、整理した内容を持ち込んで確認するのが現実的です。準備した情報があるほど、相談の密度は上がります。

📋 この章のまとめ
・公表データはすべて無料。面談前に手元で整理できることがある
・自行の傾向・既存/新規の借入・保証の希望・必要資金を先にまとめる
・整理した内容を、金融機関や税理士・支援機関に持ち込んで確認する

データを面談に活かす

代表者交代のときに、銀行が新経営者へどこまで保証を求めるか。その傾向は、感覚や噂ではなく、金融庁が公表するデータで確かめられます。全体では、保証を一切求めなかった型が16.7%、旧経営者だけが39.7%、新旧両方はわずか3.0%。そして自分の取引銀行の傾向は、機関別の実績から名前で読み取れます。

数字はあくまで平均であり、最後は個別の判断です。それでも、平均像と自行の傾向を知って面談に臨むのと、何も知らずに臨むのとでは、受け止め方がまるで変わります。今日できるのは、金融庁のページで自分の取引銀行を1行、名前で探してみることです。自行の傾向が分かれば、代表交代の話し合いに、ずいぶん落ち着いて臨めるようになります。

会社を託す相手を選ぶ、その前のお話から。

私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。

株式会社SDアドバイザーズは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではありません。事業を譲り受ける側として、ともにグループの未来を築く経営者の方をお迎えしています。当社は「4040 VISION(40人の社員がいる会社を40社つくる)」というビジョンのもと活動しています。代表交代や保証の相談を銀行にする前に、グループ入りも一つの道として知っておきたいという段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。

参考文献・出典
・金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」令和8年6月26日公表https://www.fsa.go.jp/news/r7/ginkou/20260626/20260626.html
・金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績等について(個別金融機関等の実績及び取組方針の公表状況)」令和8年7月31日更新https://www.fsa.go.jp/policy/hoshou_jirei/jisseki_kobetsu.html
・金融庁「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」令和元年12月24日公表https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20191224-1.html
・経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」平成25年12月5日公表・平成26年2月運用開始https://www.fsa.go.jp/news/25/ginkou/20131209-1.html

監修:株式会社SDアドバイザーズ 事業承継グループ
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく、事業を譲り受ける側として活動しています。

「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。

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※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。掲載の数値は本記事執筆時点(2026年8月)に金融庁が公表していた資料に基づきます。

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