類似業種比準方式は廃止か 事業承継への影響
「類似業種比準方式は廃止されるのか」とご心配の経営者は少なくありません。結論から申し上げると、2026年8月時点で廃止は決まっていません。国税庁の有識者会議で自社株評価の抜本的な見直しが議論され、第5回会議でたたき台が示された段階です。
この記事では、見直しが動き出した背景と現在の議論、事業承継やM&Aで自社株を扱う経営者への影響、そして評価額が変わる前に今できる備えを、会社を譲り受ける側の視点で整理します。

目次
廃止は決まったのか
まず、多くの方が気にされている点にお答えします。類似業種比準方式(=上場している同業種の株価を指標に、非上場株式の相続税評価額を算出する方法)は、2026年8月時点で廃止が決定した事実はありません。
いま起きているのは、国税庁が設けた「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」での見直し議論です。第5回会議(2026年8月20日)で見直しの方向性を示す「たたき台」が提示されました。ただし、これは制度を再設計するための検討の入口であり、廃止や新方式への切り替えが確定したものではありません(出典:国税庁 有識者会議 会議資料ページ)。
「廃止」と「見直し」は分けて考える
報道では「大幅な見直し」「本格的な改正」といった言葉が先行しがちです。実際には、長く使われてきた財産評価基本通達の評価の考え方を、時代に合わせて組み直す作業が始まったところです。完全な廃止を含む選択肢が議論の俎上にあるのは事実ですが、断定するには早い段階と受け止めるのが正確です。
「類似業種比準方式が廃止された」「残余利益方式に変わることが決まった」といった断定的な情報を見かけても、うのみにしないでください。制度の変更は今後の税制改正や通達改正の手続きを経て初めて確定します。現時点は議論の途中です。
見直しが動いた理由
では、なぜ長く使われてきた方式に見直しの手が入ったのでしょうか。きっかけは、外部からの一つの指摘でした。会計検査院が、現行の評価が課税の公平性を損ないうると問題提起したのです。
評価額の大きなかい離
会計検査院の令和5年度決算検査報告では、類似業種比準方式で求めた株価の中央値が、純資産価額方式(=会社の資産と負債を相続税評価額で洗い直して株価を出す方法)で求めた株価の中央値の27.2%にとどまる、という数字が示されました(出典:会計検査院 令和5年度決算検査報告)。同じ会社の株でも、選ぶ方式によって評価額が大きく開くことになります。
この差が、事業承継対策として「意図的に低いほうの評価を引き出す」動きを生みやすくしていました。課税の公平という観点から、看過できないという判断につながったわけです。
配当が指標として効いていない
もう一つの論点が、比準要素の一つである「配当」です。類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の3つを上場会社と比べて株価を導きます。現行の比重は配当1:利益3:純資産1で、利益が3倍重視されています(出典:国税庁 財産評価基本通達180条)。ところが、中小企業には配当を出していない会社が多く、配当という指標が実態を映していないという指摘が有識者会議で挙がっています。
・会計検査院が評価のかい離(中央値で27.2%)を問題視
・低い評価を引き出す対策が広がっていた
・配当という指標が中小企業の実態と合っていない

株価を決める仕組み
見直しの中身を理解するには、いまの仕組みを押さえておくと話が早くなります。取引相場のない株式(=上場していない自社株)の相続税評価は、会社の規模に応じて主に3つの方式を組み合わせて決まります。
3つの評価方式の役割
大会社ほど類似業種比準方式の比重が高く、小会社ほど純資産価額方式に寄る設計です。それぞれの位置づけを整理します。
| 方式 | 考え方 | 主に使う会社規模 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 上場する同業種の株価に、配当・利益・純資産を比準させる | 大会社の比重が高い |
| 純資産価額方式 | 資産・負債を相続税評価額で洗い直して1株価額を出す | 小会社の比重が高い |
| 配当還元方式 | 配当を基に株価を出す(少数株主などが対象) | 同族外の少数株主向け |
類似業種比準方式では、業種ごとの株価に比準割合を掛けたうえで、しんしゃく率(大会社0.7など)で調整します(出典:国税庁 財産評価基本通達180条〈類似業種比準価額〉・179条〈会社規模別の評価方法〉 通達本文)。この0.7という係数が、大会社の評価を相対的に低く抑える一因になってきました。
「通達」であって「法律」ではない
ここで一点、誤解しやすいところを補足します。財産評価基本通達は、国税庁長官が税務当局向けに発する行政通達であり、法律や政令ではありません。ただ実務上は事実上の評価基準として機能しており、通達と異なる評価で申告するには客観的な根拠が要ります。だからこそ、通達の見直しが自社株の評価額に直結する可能性を持つわけです。
有識者会議での議論
現在の議論は、どこまで進んでいるのでしょうか。会議の経緯を時系列で確認しておきます。
第1回から第5回までの流れ
この会議は2026年4月に設置され、8月20日までに全5回が開催されました。回を追うごとに、評価のかい離、配当要素の扱い、代替方式の是非へと論点が深まってきました。
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1
第1回(2026年4月20日)〜第2回:見直しの必要性と現状の課題を共有
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2
第3回〜第4回:比準要素の見直し、代替方式の是非を検討
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3
第5回(2026年8月20日):見直しの方向性を示すたたき台を提示
会議には税理士会や商工会議所などの立場も加わり、実務負担や事業承継への配慮をめぐって意見が分かれている点も報じられています。一本の結論に収れんしたわけではない、というのが現在地です(出典:国税庁 有識者会議資料)。

残余利益方式という案
意外に思われるかもしれませんが、議論の焦点は「配当要素をどう直すか」だけにとどまりません。評価の体系そのものを入れ替える案も、代替候補の一つとして俎上にのぼっています。その一つが残余利益方式です。
超過利益に着目する考え方
残余利益方式は、投下した資本から期待される以上に稼いだ「超過利益」の現在価値を積み上げて企業価値を測る考え方です。会社の稼ぐ力をより直接的に反映しやすい一方、将来の利益見通しをどう置くかで結果が動きます。
ただし、繰り返しになりますが、これは議論されている選択肢の一つです。採用が決まったわけではなく、複数の案が並立している状況です。計算の考え方も専門的で、中小企業が自力で扱うには負担が大きいという声もあります。実際の試算は税理士など専門家の関与が欠かせません。
残余利益方式は「稼ぐ力」を映しやすい反面、将来予測に左右されます。有力候補として名前は挙がっていますが、確定情報として扱わないことが、いまの正しい向き合い方です。

株式会社SDアドバイザーズは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、事業を譲り受ける側として活動しています。譲渡をご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。
いつから変わるのか
気になるのは適用時期でしょう。先に見通しをお伝えすると、仮に見直しが実現する場合でも、早くて2028年1月1日以後の適用が視野、という段階です。今日から評価が変わるわけではありません。
確定していないスケジュール
制度の変更は、有識者会議のとりまとめ、税制改正のプロセス、通達の改正という段階を踏みます。以下はあくまで現時点で見込まれる流れであり、公式に確定した日程ではありません。時期も内容も、今後の審議次第で動きます。
| 時期(見込み) | 想定される動き |
|---|---|
| 2026年秋〜冬 | 有識者会議のとりまとめ、意見募集など |
| 2027年ごろ | 税制改正の議論、通達改正の検討 |
| 早くて2028年1月1日以後 | 新ルール適用が視野(未確定) |
言い換えれば、いま自社株の状況を点検し、方針を固めておく時間はまだあるということです。あわてて動くよりも、現行制度の間に落ち着いて準備を進めるほうが得策です。
・早くて2028年1月1日以後の適用が視野
・日程・内容とも未確定で、審議次第で動く
・現行制度の間に準備を整える時間はある
M&Aへの影響を読む
ここからは、会社を譲り受ける側の視点を交えて考えます。競合記事の多くは相続する側・保有する側の目線ですが、M&Aで自社株の評価に向き合う経営者には、別の読み解きが要ります。
取引価格と相続税評価額のかい離
M&Aの取引では、独立した当事者どうしが交渉した価格が使われます。一方で相続税評価額は、これまで類似業種比準方式によって取引の実勢より低く出やすい傾向がありました。この差が、贈与や相続を絡めた株価差の活用を成り立たせてきた面があります。
評価方式の見直しで相続税評価額が実態に近づけば、こうした差は縮む方向に動くと考えられます。評価額が上がる方向に振れれば、承継時の税負担も増えうるということです。ただし影響の向きと大きさは、会社の配当・利益・純資産の構成によって変わります。一律に「上がる」「下がる」とは言えず、個別の試算が欠かせません。
譲り受ける側はどう受け止めるか
会社を引き受ける立場からは、評価額の水準が実態に近づくことは、必ずしも不利な話ばかりではありません。取得の根拠となる価格の考え方が整理され、譲る側・譲られる側の認識がそろいやすくなる面もあります。私たちが譲受側として経営者の方と向き合う際も、株価の前提が透明であるほど、その後の話し合いは進めやすくなります。

今できる備えを探す
最後に、確定していない制度を前に、経営者が手元でできることを整理します。ここでの原則は「急がず、しかし放置せず」です。
まず自社の現在地を把握する
制度がどう転んでも、出発点は自社株の現状評価です。いまの評価額、会社規模の区分、利益や純資産の構成を税理士とともに把握しておけば、方式が変わった場合の影響も試算しやすくなります。まだ一度も評価したことがなければ、そこが最初の一手です。
・直近決算をもとに、現行制度での自社株評価を税理士に依頼する
・会社規模の区分(大・中・小)と各方式の比重を確認する
・見直し後に影響が出やすい要素(利益水準・純資産)を洗い出す
承継の方針そのものを見直す
ここで見落としがちなのが、評価対策と承継方針は別物だという点です。株価を抑える工夫に気を取られるあまり、そもそも誰に会社を託すかが後回しになるケースは少なくありません。後継者が社内にいない場合、第三者への譲渡やグループ入りも現実的な選択肢になります。
実際、事業承継の土台には後継者不在という構造的な課題があります。全国の後継者不在率は52.1%と、依然として過半を占めます(出典:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2024年)」)。かつて中小企業庁は、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人にのぼり、うち約127万人が後継者未定になると試算していました(出典:中小企業庁「事業承継・創業政策について」2018年)。この試算から時は経ちましたが、評価方式の議論の裏側で、承継そのものの待ったなしの状況は変わっていません。
なお、ここまでは一般的な進め方の話です。当社(株式会社SDアドバイザーズ)が譲受側としてどのように会社を引き受けるかは当社の事業承継の流れで、実際の歩みは当社の実績・事例紹介でご覧いただけます(いずれも当社グループのご紹介です)。
・出発点は現行制度での自社株評価の把握
・評価対策と承継方針は分けて考える
・後継者不在という土台の課題は変わらない
・国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」 https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/
・国税庁 財産評価基本通達 第6章(類似業種比準価額・純資産価額等) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/03.htm
・会計検査院 令和5年度決算検査報告(取引相場のない株式の評価をめぐる指摘)
・帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2024年)」
・中小企業庁「事業承継・創業政策について」(2018年・中小企業経営者の高齢化と後継者不在の試算)
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲受側として活動しています。
「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。制度の見直し状況は2026年8月時点の情報に基づきます。