相続税を抑える事業承継の自社株の株価引き下げ策
「うちの株が、まさかこんなに高く評価されるとは」。事業承継の準備を始めた経営者の方から、よく聞く言葉です。手元に現金はないのに、自社株の評価額だけがふくらみ、相続税や贈与税の負担に驚く。そんな段階かもしれません。評価額が高いままだと、後継者が株を受け取るときの税負担も重くなりがちです。だからこそ、渡す前に株価を見直しておく意味があります。
結論から申し上げます。取引相場のない株式(=上場していない会社の株式)の評価額は、渡す前の準備しだいで下げられる余地があります。役員退職金、純資産の圧縮、配当の見直し——手立てはいくつもあります。ただし、下げ方を誤ると逆効果になったり、渡した後に評価が戻ったりする落とし穴も潜みます。
この記事は、事業承継をお考えの経営者の方に向けて、自社株の株価を引き下げる代表的な手法と、着手のタイミング、そして渡した後に評価が戻るリスクまでを整理します。後継者を納税で苦しませないための地図として、お使いください。
目次
自社株評価の三方式
まず、自社株がなぜ高く評価されるのか。その仕組みを知らないままでは、引き下げの手立ても選びようがありません。
取引相場のない株式の評価には、大きく三つの方式があります。国税庁のタックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」に沿って、順に見ていきましょう。
三つの評価方式の役割
評価方式は、会社の規模や株主の立場によって使い分けられます。相続や贈与で後継者が株を受け取る場面では、多くの場合で次の二つが軸になります。
| 評価方式 | 評価の考え方 | 高く出やすい会社 |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式(=上場している同業種の株価をもとに評価する方法) | 配当・利益・純資産の3要素を、上場企業の平均と比べて算定 | 利益や配当が大きい会社 |
| 純資産価額方式(=会社の正味財産で評価する方法) | 資産を相続税評価に置き換え、負債と法人税等相当額を引いた正味財産で算定 | 含み益のある不動産・有価証券が多い会社 |
| 配当還元方式(=配当金額をもとに評価する簡便な方法) | 受け取る配当をもとに評価。ほかの二方式より低く出やすい | 少数株主など、支配権のない株主が取得する場合 |
会社の規模(大会社・中会社・小会社)によって、比準方式と純資産方式のどちらを、どんな割合で使うかが決まります。つまり、この二つの数字を動かせれば、評価額も動きます。手立ての全体像は、次章以降でひとつずつ見ていきます。

・自社株評価の軸は「類似業種比準」と「純資産価額」の二方式(出典:国税庁 No.4638)
・比準方式は配当・利益・純資産、純資産方式は正味財産で決まる
・この数字を渡す前に整えることが、引き下げの基本になります
株価はなぜ高いのか
「特別なことはしていないのに、なぜ株価がここまで上がったのか」。この問いに正面から答えます。
答えは、長年の黒字経営で積み上げた利益と資産が、そのまま評価額に反映されているからです。毎期の利益は内部留保として純資産を厚くし、含み益を抱えた不動産や有価証券があれば、純資産価額はさらに押し上げられます。会社が健全に成長したことの、いわば裏返しなのです。
「渡す前」に整える意味
皆さまの会社では、いかがでしょうか。評価額が高いこと自体は、経営の成果です。問題は、その高い評価のまま後継者へ渡すと、納税資金が用意できないという一点にあります。相続税には現金一括納付という原則があり、株は売れないのに税金だけがのしかかる。ここを渡す前にほぐしておくことが、後継者を守る準備になります。
株価が高いのは「悪いこと」ではありません。高いまま渡すと納税で苦しむ、という構造をどう和らげるか。視点をそこへ移すと、打てる手が見えてきます。
株価を下げる主な手法
では、具体的な手立てに入りましょう。評価額を引き下げる手法は、突き詰めると「利益を圧縮する」「純資産を圧縮する」「配当を見直す」の三方向に整理できます。代表的な6つを、効果の出どころとともに一覧にしました。
| 手法 | どこに効くか | 効果が出る時期の目安 |
|---|---|---|
| ① 役員退職金の支給 | 利益・純資産の両方を圧縮 | 支給した事業年度の決算後 |
| ② 役員報酬の適正な引き上げ | 毎期の利益を圧縮 | 複数期の積み重ねで効く |
| ③ 配当の見直し | 比準方式の配当要素を下げる | 配当実績が反映される期以降 |
| ④ 不動産などの取得 | 純資産価額を圧縮 | 取得から3年超の保有が前提 |
| ⑤ 生命保険の活用 | 利益・純資産を圧縮 | 契約形態により異なる |
| ⑥ 高収益部門の切り出し・含み損の実現 | 比準要素・純資産を調整 | 再編・売却が完了した期以降 |

③配当の見直しという打ち手
類似業種比準方式は、配当・利益・純資産の3要素で評価額が決まります。このうち配当の水準が高いと、比準方式の株価も押し上げられます。記念配当や特別配当のように毎期継続して行うわけではない配当は比準計算の対象外とされるため、通常配当と特別配当の区分を整理し、配当政策を見直すことで、配当要素を落とせる余地があります。ただし配当は株主への還元でもあり、下げること自体が目的化すると本末転倒です。あくまで実態に即した範囲で検討します。
⑥高収益部門の切り出しと含み損の実現
高い利益を生む部門を会社分割などで別会社に切り出すと、もとの会社の利益水準が下がり、比準方式の利益要素をならせる場合があります。また、含み損を抱えた資産を売却して損失を実現すれば、その期の利益と純資産をともに圧縮できます。いずれも事業再編の一環として、採算構造の見直しと一体で進めるのが本筋で、株価対策だけを狙った不自然な再編は否認リスクをともないます。
手法選びは会社の顔ぶれで変わる
どの手法が効くかは、会社の中身しだいです。利益が大きい会社なら①②⑤で利益を、含み益の資産を抱える会社なら④⑥で純資産を狙う。自社がどちらのタイプに近いかを見極めることが、最初の分岐点になります。
効き方は、会社の規模や後継者の顔ぶれによっても変わります。会社規模が大会社・中会社・小会社のどれに区分されるかで、類似業種比準方式と純資産価額方式をどんな割合で使うかが変わり、同じ手法でも株価への響き方が違ってきます。また、後継者が親族内か、それとも親族外(MBOや従業員承継など)かによって、低く出やすい配当還元方式を使えるかどうかも分かれます。同じ手立てでも、自社の顔ぶれ次第で効き目は変わる——ここを踏まえて、次章から効き目の大きい順に掘り下げます。
利益を圧縮する手立て
もっとも効果が大きく、実務でよく使われるのが、役員退職金です。なぜ効くのか、順に見ていきましょう。
役員退職金が二方向に効く理由
創業経営者が勇退時に退職金を受け取ると、その支給額は損金(=税務上の費用)になります。すると、その期の利益が大きく圧縮され、比準方式の利益要素が下がります。同時に、支払った現金の分だけ純資産も減り、純資産価額も下がる。利益と純資産の両方に効くため、株価の引き下げ効果が大きいのです。
受け取る側の税負担も抑えめです。退職金は退職所得として、勤続20年以下は1年あたり40万円、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)の退職所得控除を差し引けます(ただし控除額が80万円に満たない場合は最低80万円)。さらに、控除後の金額を2分の1にして課税する仕組みです(出典:国税庁 No.1420「退職所得」。勤続5年以下の役員等は2分の1課税の対象外)。
役員報酬の引き上げという地道な一手
退職金ほど劇的ではありませんが、役員報酬を適正な範囲で引き上げると、毎期の利益が抑えられます。比準方式の利益要素は複数期の平均で見るため、効き目はゆっくり。渡す時期から逆算し、数期前から手をつける地道な一手です。
役員退職金は、いくらでも損金にできるわけではありません。功績倍率法(=最終報酬月額×勤続年数×倍率で適正額を見る考え方)などに照らして過大と判断された部分は、損金に算入できない場合があります。役員報酬の引き上げも、不相当に高額な部分は同様です。金額の妥当性は、税理士に確認しながら決めてください。
・役員退職金は利益・純資産の両方に効き、受け取る側の税も抑えめ(出典:国税庁 No.1420)
・役員報酬の引き上げは、数期前から仕込む地道な手
・いずれも過大な部分は損金にならないため、適正額の見極めが要ります
私たち(株式会社SDアドバイザーズ/4040 VISION)は、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先です。譲渡をご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。
純資産を抑える工夫
含み益のある資産を抱えた会社では、純資産価額が株価を押し上げます。ここを抑える工夫を見ていきますが、実は落とし穴がいちばん多い領域でもあります。
不動産取得と「3年ルール」の壁
純資産価額は、資産を相続税評価額に置き換えて計算します。時価より相続税評価が低くなりやすい不動産を取得すると、その差額の分だけ純資産が圧縮される、という理屈です。ところが、ここに壁があります。
純資産価額の計算では、取得後3年以内の土地・建物は、相続税評価額ではなく「通常の取引価額」で評価する取り扱いがあります(財産評価基本通達185による純資産価額計算上のルールで、一般的な不動産の相続税評価とは別の話です)。つまり、渡す直前に不動産を買っても圧縮効果は出ません。効かせるには、取得から3年超の保有が前提になります。時間を味方につける手法なのです。
評価額を下げることだけを目的にした、事業と無関係な資産の取得は、租税回避とみなされ否認されるリスクがあります。あくまで事業上の合理性がある範囲で。ここを外すと、対策そのものが崩れます。
生命保険という選択
積立型の生命保険を活用すると、支払保険料の一部が損金となり、利益と純資産をならす効果が見込めます。ただし、保険商品ごとに損金算入のルールは細かく分かれます。「保険なら下がる」と単純化せず、契約形態ごとに効果を確かめてください。
・不動産による純資産圧縮は「取得から3年超の保有」が前提
・事業と無関係な資産取得は否認リスクがあり、合理性が要る
・生命保険は契約形態で効果が変わるため、個別確認を
持株会社という選択
もう一段踏み込んだ手として、持株会社(=事業会社の株式を保有する親会社)を使う設計があります。ここでは全体像だけを、かいつまんで。
間接保有で評価を和らげる仕組み
後継者が設立した持株会社に事業会社の株式を持たせ、株を間接保有に切り替える。この形をとると、事業会社の価値上昇が持株会社の株価にそのまま直結しにくくなり、将来の評価上昇を和らげる効果が期待できます。組織再編をともなうため、設計と実行には専門的な検討が欠かせません。
株式等保有特定会社(=資産に占める株式等の割合が一定以上の会社)や比準要素数1の会社(=配当・利益・純資産の3要素のうち、直前期末で2つ以上がゼロに近い会社)などは「特定の評価会社」とされ、原則として純資産価額方式でしか評価できません。持株会社化のやり方によっては、この区分に該当して比準方式が使えなくなり、かえって評価が上がることもあります。国税庁の財産評価基本通達に沿った慎重な設計が要ります。
いつ動くかで決まる
手法を知ったうえで、最後にもっとも大切な問いが残ります。いつ、どの順で動くか。株価対策は、タイミングで成否が分かれます。
効果が出るまでの「期ずれ」を読む
見落とされがちなのですが、手法にはそれぞれ、効果が出るまでの時間差があります。役員退職金は支給した事業年度の決算後に効き、不動産は取得から3年を超えて初めて効く。役員報酬や配当の見直しは複数期の平均に反映されるため、さらに時間がかかります。渡したい時期から逆算して、数期前から仕込む——これが実務の勘所です。
類似業種比準方式は直前期末などの決算数値を用いるため、「いつの決算で株価が固まるか」を意識すると、贈与や相続のタイミングを設計しやすくなります。株価は下げられる、と同時に、下げた状態を渡す瞬間に合わせる。ここまで含めて対策です。

制度改正と期限という時間の圧力
もう一つ、外側からの時間の圧力があります。事業承継税制(=一定要件のもとで自社株の贈与税・相続税の納税を猶予する制度)の特例措置です。この制度は、猶予であって即座の免除ではない点に注意が要りますが、要件を満たせば納税猶予の割合は100%にのぼります(出典:国税庁 No.4148「法人版事業承継税制」)。
そして、この特例措置には期限があります。対象となるのは、平成30年1月1日から令和9年(2027年)12月31日までの贈与・相続です(出典:国税庁 No.4148)。執筆時点の2026年7月から見れば、残りは1年半ほど。なお、特例措置を使うには事前に「特例承継計画」の提出が要りますが、その提出期限(令和8年3月末)はすでに経過しています。延長の有無を含め、最新の取扱いは中小企業庁や税理士に必ず確認してください。加えて、非上場株式の評価方法そのものが将来見直される可能性も指摘されています。制度が動く前に、という時間感覚を持っておくと安心です。
株価を下げる手法と、事業承継税制のような制度を組み合わせると、後継者の納税資金計画は大きく変わります。暦年課税(=年110万円の基礎控除が使える贈与の課税方式。出典:国税庁 No.4408)や相続時精算課税との使い分けも、渡し方の設計に直結します。両者は選択適用で、いったん相続時精算課税を選ぶと暦年課税へは戻せません。
なお、2024年1月以後の暦年課税の贈与は、原則として相続開始前の生前贈与加算の期間が、これまでの3年から段階的に7年へ延長されつつあり、2031年以降は7年に完全移行する見込みです(相続税法19条に基づく取り扱い)。少しずつ株を渡していく設計は、早く始めるほど加算の影響を避けやすくなります。
渡す前に整える視点
ここまでは、株価を下げて「渡す」前提のお話でした。最後に、視点を一つ広げます。株価を整えることは、後継者への承継だけでなく、外部への引き継ぎでも生きてくるのです。
整えた会社は引き継ぎでも評価されやすい
役員退職金や不採算部門の切り出しといった対策は、要は「会社の姿を整える」作業でもあります。無駄をそぎ、事業の輪郭をはっきりさせた会社は、後継者にとってはもちろん、譲り受ける側から見ても引き継ぎやすい。渡す前の設計を整えておくことは、承継の選択肢そのものを広げます。
私たちのように事業を譲り受ける側から見ると、相続税評価のために整えられた株価と、M&Aで値づけされる価格は、必ずしも一致しません。自社だけでは伸ばしきれない事業を、より活かせる相手に託すという選択も、渡す前の準備の延長線上にあります。株価をどう整えるかを考える過程は、そのまま「会社の未来を誰に託すか」を考える時間にもなるはずです。
なお、ここまでは一般的な進め方の解説です。当社(株式会社SDアドバイザーズ)が譲り受ける側としてどう会社をお迎えするかは当社の事業承継の流れでご覧いただけます(当社グループのご紹介です)。
専門家に相談する前に、手元でできる準備があります。
・直近3期分の決算書(利益・純資産の推移がわかるもの)を並べる
・自社の資産に含み益のある不動産・有価証券がどれだけあるかを書き出す
・後継者を誰にするか、いつ渡したいかの希望時期を仮に置く
この3点を整理してから税理士に相談すると、どの手法が自社に効くかの話が一気に進みます。
今日からできる準備
最後に、要点を振り返ります。自社株の株価は、渡す前の準備しだいで引き下げられる余地があります。ただし、下げ方とタイミングを誤ると効果は出ません。
「株価は下げられる」その次へ
・評価の軸は「類似業種比準」と「純資産価額」。この数字を渡す前に整える(出典:国税庁 No.4638)
・役員退職金は利益・純資産の両方に効き、効果が大きい(出典:国税庁 No.1420)
・不動産は取得から3年超の保有が前提、事業と無関係な取得は否認リスク
・特例事業承継税制の対象は令和9年12月末までの贈与・相続(出典:国税庁 No.4148)
・下げた状態を「渡す瞬間」に合わせるタイミング設計までが対策
「株価は下げられる」と分かった今、次の一歩は、評価のタイミングと渡し方を専門家と描くことです。そして、誰に会社を託すか。その問いも、あわせて温めておいてください。一人で抱え込まず、まず現状を並べてみるだけでも、進む道は見えてきます。
私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。経営者様のお考えと、私たちのグループとの相性を、一緒にじっくり見極める時間を大切にしています。
私たち(株式会社SDアドバイザーズ/4040 VISION)は、M&A仲介・アドバイザリー会社ではありません。事業を譲り受ける側として、ともにグループの未来を築く経営者の方をお迎えしています。
「どのような会社にバトンを渡すべきか」を検討されている段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。
・国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
・国税庁 タックスアンサー No.1420「退職所得」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1420.htm
・国税庁 タックスアンサー No.4148「法人版事業承継税制」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
・国税庁 タックスアンサー No.4408「贈与税の計算と税率(暦年課税)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
・国税庁 タックスアンサー No.4102「相続税がかかる場合」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm
・国税庁 財産評価基本通達(第1章 総則、185(純資産価額)ほか) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01/01.htm
・国税庁 タックスアンサー No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」(相続税法19条・生前贈与加算) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
・中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。
「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況や制度改正によって異なる場合があります。