事業承継の融資4選と補助金活用|後継者の資金不足を解消する方法
「息子に会社を継がせたいが、株式を買い取る資金がない」「番頭格の社員に任せたいが、MBO(マネジメント・バイアウト=経営陣や従業員による自社買収)の資金をどこから調達すればいいかわからない」——事業承継をご検討の経営者の方から、こうした資金面のご相談は非常に多くいただきます。
後継者の資金不足は、事業承継が行き詰まる最大の原因のひとつです。しかし、公的融資・信用保証・補助金・税制優遇といった支援制度を組み合わせることで、多くのケースで解決の道が開けます。
本記事では、事業承継で活用できる融資制度4種類と補助金・税制の活用方法を、50〜80代の経営者の方にわかりやすく解説します。資金問題を整理し、承継を前に進めるための第一歩としてお役立てください。
目次
事業承継で融資が必要になる「3つの場面」

事業承継における資金問題は、大きく3つの場面で発生します。それぞれの場面によって必要な融資の種類や金額が異なるため、まず自社がどの状況に当てはまるかを確認することが重要です。
場面①:後継者が株式・事業を買い取る資金
親族承継やMBOでは、後継者が現経営者から株式または事業を買い取ることになります。中小企業の株式評価額は数千万円〜数億円に上ることもあり、個人の貯蓄だけでは到底まかなえないケースがほとんどです。帝国データバンクの調査(2024年)によると、後継者不在率は53.9%に達しており、その背景には「継ぎたくても資金がない」という現実も含まれています。
場面②:承継後の設備投資・運転資金の確保
承継完了直後は、後継者が経営を軌道に乗せるために追加の設備投資や運転資金が必要になることがあります。特に製造業・建設業などの設備産業では、承継後の生産体制整備に多額の資金が必要です。また、取引先や金融機関との関係を再構築する過程で、運転資金の需要が一時的に増加することもあります。
場面③:個人保証(経営者保証)の解除と借り換え
中小企業の経営者の多くは、会社の借入に対して個人保証(経営者保証)を負っています。後継者にこの個人保証を引き継がせることが難しい場合、既存の借入を「経営者保証が不要な融資」に借り換えるための資金が必要になります。金融庁・中小企業庁・全国銀行協会が策定した「経営者保証に関するガイドライン」(2013年策定、2023年改訂)では、一定の条件を満たす場合に個人保証の解除や移行ができると定められています。
・事業承継の資金需要は「株式取得」「設備・運転資金」「個人保証の借り換え」の3場面で発生する
・後継者不在率は53.9%(2024年・帝国データバンク)に達しており、資金問題は承継失敗の主因のひとつ
・状況に応じた融資制度を選ぶことが、承継成功のカギとなる
日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」とは
事業承継の資金調達で最初に検討すべき選択肢が、日本政策金融公庫(略称:日本公庫)の融資制度です。政府系金融機関である日本公庫は、民間銀行では対応が難しい場合でも融資を受けやすい点が特徴です。
制度の概要と対象者
「事業承継・集約・活性化支援資金」は、事業の譲渡・合併・株式取得などにより会社や事業を承継・集約する中小企業者を支援する融資制度です。承継を受ける側(後継者・買い手)だけでなく、承継をおこなう側(現経営者・売り手)も対象になる場合があります。対象となる資金の使い道は、株式・事業の取得資金のほか、承継後の設備投資資金、運転資金など多岐にわたります。
中小企業向けの「国民生活事業」と、比較的規模の大きな「中小企業事業」の2種類があり、会社の規模によって利用できる窓口が異なります。詳細な融資限度額・金利・返済期間は事業規模や業種・資金使途により異なるため、最新情報は日本政策金融公庫の公式サイトでご確認ください。
日本政策金融公庫の融資は、担保・保証人なしで利用できるケースもあります。民間銀行よりも審査基準が柔軟であることが多く、後継者の自己資金が少ない場合でも選択肢になり得ます。
生活衛生事業者向けの特別制度
飲食業・理美容業・旅館業など、生活衛生関係の事業を営む事業者には「生活衛生 事業承継・集約・活性化支援資金」という専用の融資制度も設けられています。業種の特性に応じた資金調達が可能なため、対象業種の経営者は必ず確認しておきましょう。
申し込みの流れと準備書類
日本政策金融公庫への申し込みは、最寄りの支店窓口への来店、または郵送・インターネットによる申し込みが可能です。申し込みには、決算書(直近2〜3期分)・事業計画書・借入申込書などの書類が必要です。事業承継に詳しい税理士や中小企業診断士などの専門家に書類作成を依頼すると、審査通過の可能性が高まります。
・日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」は、承継する側・される側の双方が対象
・株式取得資金・設備資金・運転資金など幅広い資金使途に対応し、担保不要のケースもある
・融資条件は公式サイトで確認し、専門家のサポートを得て申請するのが有効
信用保証協会の事業承継保証制度を活用する
信用保証協会は、中小企業が民間金融機関から融資を受けやすくするために「保証」を提供する公的機関です。事業承継に特化した保証制度が複数用意されており、後継者の資金調達を強力にサポートします。
事業承継特別保証制度とは
「事業承継特別保証制度」は、中小企業が事業承継を契機として経営者保証(個人保証)のない融資を受けられるよう支援する保証制度です。承継前後の一定期間に、信用保証協会が民間金融機関の融資に対して保証を提供することで、後継者が個人保証なしで借り入れをおこなえるようになります。この制度の最大のメリットは、承継のハードルとなりがちな「個人保証の引き継ぎ問題」を回避できる点です。
事業承継サポート保証など複数の制度
信用保証協会が提供する事業承継関連の保証制度は複数あり、M&A(第三者承継)に活用できるものも含まれます。具体的な制度の種類・保証限度額・保証料率は、都道府県ごとの信用保証協会によって異なる場合があります。お近くの信用保証協会または取引金融機関へお問い合わせください。
個人保証の解除と承継のスムーズな移行
「経営者保証に関するガイドライン」では、一定の条件(法人と個人の資産・経理が明確に分離されている、財務情報が適切に開示されているなど)を満たせば、承継時に個人保証を解除できると定めています。信用保証協会の保証制度と組み合わせることで、現経営者の保証解除と後継者の無保証融資の両立を目指すことが可能です。
信用保証協会の保証制度は、日本政策金融公庫の融資と組み合わせて活用することも可能です。「公庫融資+信用保証」を組み合わせることで、より大きな資金を個人保証なしで調達できるケースがあります。
・信用保証協会には事業承継特別保証など、承継専用の保証制度がある
・個人保証なしで融資を受けられる仕組みがあり、後継者の負担軽減につながる
・「経営者保証に関するガイドライン」を踏まえた金融機関交渉が重要
4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。融資・補助金の活用方法から承継全体の設計まで、ご状況を丁寧にお伺いした上でご提案いたします。
民間銀行・自治体の融資制度と選び方

日本政策金融公庫・信用保証協会に加えて、民間銀行や地方自治体も事業承継向けの融資制度を設けています。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合った制度を選ぶことが重要です。
民間銀行の事業承継ローン
メガバンク・地方銀行・信用金庫などの民間金融機関は、「事業承継ローン」と呼ばれる専用の融資メニューを提供していることがあります。取引実績のある金融機関であれば、会社の財務状況をすでに把握しているため、審査がスムーズに進む場合があります。また、融資に加えてM&Aのマッチングや専門家の紹介など、総合的な事業承継支援を提供している金融機関も増えています。
地方自治体の制度融資
都道府県・市区町村が独自に設けている「制度融資」も、事業承継に活用できます。自治体が金融機関・信用保証協会と連携し、低金利・長期返済など有利な条件での借り入れを可能にする仕組みです。地域によって制度の内容が大きく異なるため、地元の商工会議所や各都道府県の「事業承継・引継ぎ支援センター」に問い合わせると、利用可能な制度を確認できます。
以下の表は、主要な融資制度の特徴を比較したものです。自社の状況と照らし合わせ、最適な選択肢を検討してください。
| 融資先 | 主な特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 政府系・比較的低金利・担保不要のケースあり | 小規模事業者・自己資金が少ない後継者 |
| 信用保証協会+民間銀行 | 個人保証なし融資が可能・保証制度が充実 | 個人保証の解除・引き継ぎを避けたいケース |
| 民間銀行(既存取引先) | 取引実績で審査がスムーズ・総合支援も | 長年の取引実績があり財務内容が良好な場合 |
| 地方自治体の制度融資 | 低金利・長期返済・地域密着の支援 | 地方の中小企業・地域密着型事業 |
複数の融資を組み合わせる戦略
実際の事業承継では、ひとつの融資制度だけでなく複数を組み合わせることで、必要な資金を調達するケースが多く見られます。たとえば「日本政策金融公庫から株式取得資金を借り入れ、地方自治体の制度融資で承継後の運転資金を確保する」といった方法です。どの組み合わせが最適かは、承継方法・金額・後継者の財務状況によって異なります。税理士や中小企業診断士などの専門家に相談しながら資金計画を立てることをお勧めします。
・民間銀行・地方自治体にも事業承継向けの融資制度がある
・各制度の特徴を比較し、自社の規模・状況に合った選択をおこなう
・複数の融資制度を組み合わせることで、必要額を確保できるケースが多い
返済不要の補助金:事業承継・引継ぎ補助金とは

融資(返済が必要)と異なり、補助金は返済不要の資金支援です。事業承継の際に活用できる代表的な補助金が、中小企業庁が所管する「事業承継・引継ぎ補助金」です。
補助金の概要と3つの事業類型
「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継や事業引き継ぎ(M&A)を実施した中小企業が、承継後の新たな取り組みや専門家費用を補助する制度です。大きく以下の3つの事業類型があります(中小企業庁)。
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1
経営革新事業:承継後に新たな取り組み(新商品開発・販路開拓・業務転換など)をおこなう費用を補助します。承継を機に事業の幅を広げたい後継者に向いています。
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2
専門家活用事業:M&A(第三者承継)の際に必要な専門家費用(仲介手数料・デューデリジェンス費用など)を補助します。譲渡側・譲受側の双方が対象です。
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3
廃業・再チャレンジ事業:M&Aとあわせて既存事業を廃業する際の廃業・清算費用を補助します。事業の一部を整理しながら承継を進めるケースに活用できます。
補助上限額と採択のポイント
補助上限額は最大800万円(中小企業庁・公募回・事業類型により異なる)で、設備投資・システム導入・専門家費用などの経費が補助対象となります。ただし、補助金は「後払い」であることに注意が必要です。先に経費を支出し、事業完了後に申請・精算する仕組みのため、一時的な立替資金の確保が必要になります。
事業承継・引継ぎ補助金は公募制で、採択されなければ受給できません。採択率を上げるには事業計画書の質が重要です。認定支援機関(税理士・中小企業診断士など)のサポートを受けて申請することをお勧めします。補助金の公募情報は中小企業庁または事業承継・引継ぎ支援センターでご確認ください。
補助金と融資の組み合わせ戦略
補助金は採択から入金まで数ヶ月かかることが多く、タイミングによっては先行して融資で資金を確保し、補助金入金後に返済するという方法が有効です。「融資で当面の資金を確保しながら補助金を申請する」という組み合わせは、資金負担を最小化する実践的なアプローチです。
・事業承継・引継ぎ補助金は最大800万円の返済不要の資金支援(中小企業庁)
・経営革新・専門家活用・廃業再チャレンジの3類型があり、M&Aにも活用できる
・後払い・公募制のため、融資との組み合わせが現実的
事業承継税制の特例措置で税負担を軽減する
資金調達と並んで、事業承継における大きな負担が「税金」です。株式を親族に引き継ぐ際の贈与税・相続税は、対策なしでは数千万円〜数億円規模になることもあります。こうした税負担を大幅に軽減できるのが「事業承継税制(特例措置)」です。
事業承継税制(特例措置)の概要
「事業承継税制(特例措置)」は、中小企業の事業承継にかかる贈与税・相続税を猶予・免除する制度で、2018年度の税制改正で創設されました(中小企業庁)。現経営者から後継者へ株式を引き継ぐ際、一定の条件を満たせば贈与税・相続税の100%が猶予(最終的に免除)されます。
事業承継税制(特例措置)を利用するには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事へ提出し、2028年3月31日までに贈与・相続を実施する必要があります(中小企業庁・2024年時点の情報)。期限が近づいているため、早期の税理士相談が不可欠です。
税制優遇と融資の連動効果
事業承継税制を活用することで、後継者が株式取得時に負担する税金が大幅に軽減されます。その結果、後継者が融資で調達すべき資金総額も圧縮できるため、融資審査の通過しやすさにもプラスの影響があります。税制と融資制度を組み合わせることで、後継者の総合的な資金負担を最小化することが可能です。
株式評価の事前対策も重要
事業承継に関わる税務(株式評価・みなし贈与・退職金の取り扱いなど)は複雑であり、専門知識が必要です。特に「株式の評価額をどのように算定するか」は、承継前の財務改善や組織再編によって合法的に低減できる場合もあります。できれば承継の5〜10年前から計画的に取り組むことが理想です。
・事業承継税制(特例措置)で贈与税・相続税の100%が猶予・免除の対象になる(中小企業庁)
・特例措置の利用には期限があり(計画提出は2027年12月31日まで)、早期対応が必須
・税制優遇と融資制度を組み合わせることで後継者の総資金負担を最小化できる
後継者が融資審査を通過するための準備ポイント

融資制度が存在しても、審査に通らなければ資金を調達できません。後継者が融資審査をスムーズに通過するための準備を、事前に経営者と後継者が一緒に進めておくことが重要です。
審査で見られる3つのポイント
金融機関が融資審査で重視する主な項目は以下の3点です。第一に「事業の収益性と継続性」です。会社の直近の業績・財務内容が健全であること、承継後も売上・利益が維持できる見通しがあることが求められます。第二に「後継者の経営能力」です。業界経験・社内での実績・マネジメントスキルなど、後継者としての信頼性を示す資料を用意することが重要です。第三に「返済計画の実現可能性」です。借入額に対して無理のない返済計画を、事業計画書に落とし込むことが必要です。
必要書類と事前準備のチェックリスト
以下は融資申し込みに際して一般的に必要となる書類です。事前に揃えておくことで審査がスムーズになります。
□ 決算書(直近2〜3期分)
□ 事業計画書(承継後5年間の売上・利益見通しを含む)
□ 借入申込書
□ 会社の登記簿謄本・定款
□ 株主名簿・組織図
□ 後継者の職歴・保有資格などの経歴書▶ SDアドバイザーズの実績・事例紹介はこちら
専門家チームを活用すべき理由
事業承継の融資申請は、一般的な設備投資向けの融資申請とは異なる点が多くあります。税理士・中小企業診断士・弁護士・事業承継専門のアドバイザーを組み合わせた「専門家チーム」を構成することで、融資審査の準備から申請まで一貫したサポートを受けることができます。国が設置する「事業承継・引継ぎ支援センター」では、専門家の紹介・マッチング支援を無料で受けることも可能です。
SDアドバイザーズでは、自社が譲渡先として事業承継・M&Aに実際に取り組んできた立場から、経営者の方の承継準備に関するご相談も承っております。詳しくは事業承継の流れ・サポート内容のページをご覧ください。
・融資審査では「事業の収益性」「後継者の経営能力」「返済計画」の3点が重視される
・必要書類を事前に揃え、事業計画書の質を高めることが審査通過のカギ
・事業承継・引継ぎ支援センターへの無料相談や専門家チームの活用が効果的
まとめ:資金調達の不安を解消して承継を前に進めよう
後継者の資金不足は、事業承継が止まってしまう最大のハードルのひとつです。しかし、本記事で解説したとおり、日本政策金融公庫・信用保証協会・民間銀行・自治体の融資制度、さらに返済不要の補助金や事業承継税制を組み合わせることで、多くのケースで資金問題は解決できます。
帝国データバンクの調査(2024年)では後継者不在率が53.9%に達していますが、その裏には「資金があれば承継できた」というケースも多く含まれています。支援制度の存在を知らないまま廃業を選択するのは、経営者にとっても従業員にとっても最も避けるべき結末です。
実際の承継事例についてはSDアドバイザーズの実績・事例紹介ページもご参照ください。
① 日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」(株式取得・設備・運転資金)
② 信用保証協会の事業承継特別保証制度(個人保証なし融資が可能)
③ 民間銀行の事業承継ローン・地方自治体の制度融資(取引実績・地域密着)
④ 事業承継・引継ぎ補助金(最大800万円、返済不要・中小企業庁)
⑤ 事業承継税制(特例措置)による贈与税・相続税の100%猶予・免除(2028年3月末まで)
融資・補助金の活用方法から後継者探しまで、事業承継の専門家がご支援いたします。
4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。また、各融資制度・補助金・税制の内容は変更される場合があります。最新情報は各制度の公式サイトまたは担当機関でご確認ください。