M&A・事業承継補助金とは?申請の仕組みと注意点
「M&Aを動かすには費用がかかる」——そう聞いてから動きを止めている経営者の方は、少なくありません。しかし実際には、国が費用の一部を補助する制度があり、それを活用した上で事業承継を進める経営者が増えています。
事業承継・M&A補助金は、中小企業庁が所管する公的補助金です。補助枠によって最大2,000万円の補助を受けられます。「専門家に頼むと高くつく」という先入観があるかもしれませんが、M&A仲介費用や専門家費用の一部を国が肩代わりしてくれる仕組みがあります。
この記事では、補助金の4つの枠の内容、補助率・補助額、申請の流れ、そして見落とされがちな注意点を、売り手(譲渡を検討している)経営者の視点で整理します。費用の不安から動き出せていない方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
目次
名称変更と主な変更点
「引継ぎ補助金」から「M&A補助金」へ
まず押さえておきたいのは、制度名の変更です。以前「事業承継・引継ぎ補助金」として知られていたこの補助金は、令和6年度(2024年度)から「事業承継・M&A補助金」に名称が変わりました(出典:中小企業庁)。名称だけでなく、補助対象経費や枠の構成も整理・拡充されています。
検索で「事業承継 引継ぎ補助金」と調べている方も多いですが、現在の正式名称は「事業承継・M&A補助金」です。古い情報に基づいて申請要件を誤認しないよう、常に最新の公募要領(中小企業庁公式サイトで公開)を確認するようにしてください。
また、同補助金は年に複数回公募が行われており、2025年には第11次〜第13次公募が実施されました。令和7年度予算においても継続が予定されています。
・旧称「事業承継・引継ぎ補助金」→現称「事業承継・M&A補助金」(令和6年度から変更)
・年に複数回公募。公募ごとに補助額・要件が変わる場合があるため、最新情報の確認が必須
・公式情報は中小企業庁サイト(shoukei-mahojokin.go.jp)で確認できます
この補助金が対象とする中小企業
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者が対象です。資本金額・従業員数による「中小企業者」の定義を満たす会社が基本的に申請でき、業種を問わず広く適用されます。個人事業主も一定要件のもとで対象になります。
「自分の会社は大きくないから関係ない」と思う方もいますが、むしろ従業員数が少ない小規模事業者こそ対象の中心です。申請要件の詳細は、公募ごとに発行される公募要領で確認してください。
・補助金の名称は「事業承継・M&A補助金」(令和6年度から変更)
・年複数回公募あり。公募ごとに内容が変わるため最新公募要領を確認すること
・中小企業・小規模事業者(個人事業主含む)が対象
補助金の4つの枠と概要
事業承継促進枠・専門家活用枠
事業承継・M&A補助金には、目的に応じた4つの補助枠があります。それぞれの特徴を把握した上で、自社に合った枠を選ぶことが重要です。
① 事業承継促進枠は、親族内承継または従業員承継(MBO:経営者への株式譲渡)を5年以内に予定している中小企業が、承継前後の設備投資・販路開拓などを行う場合に補助を受けられる枠です。承継をきっかけに新しい取り組みを始めたい経営者に向いています。
② 専門家活用枠は、M&Aを進める際に発生する専門家費用(デューデリジェンス=買い手が売り手の企業内容を詳しく調査すること、バリュエーション=企業価値評価など)を補助します。買い手支援類型と売り手支援類型の2種類があり、事業を譲渡する側(売り手)も活用できます。
PMI推進枠・廃業再チャレンジ枠
③ PMI推進枠は、M&A後の経営統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)を支援するための枠です。M&Aを実施した後、統合効果を最大化するための投資や専門家活用費用が対象となります。令和6年度に新設された枠です。
④ 廃業・再チャレンジ枠は、廃業を伴う事業再編・統合のうえで新たな事業に挑戦する場合に活用できます。廃業を検討している経営者が、引き継ぎと同時に新事業に踏み出す際の後押しとなる枠です。

・事業承継促進枠:親族・従業員承継前後の設備投資を支援
・専門家活用枠:M&A専門家費用を補助(売り手・買い手双方に枠あり)
・PMI推進枠:M&A後の統合コストを支援(新設枠)
・廃業・再チャレンジ枠:廃業と新事業挑戦を同時サポート
補助率と補助上限額
枠ごとの補助率・上限額の一覧
補助率と補助上限額は枠によって異なります。下の表は、令和6年度補正予算時点での概要です(出典:中小企業庁)。公募ごとに変更される場合があるため、申請前に最新の公募要領を必ず確認してください。
| 補助枠 | 補助率 | 補助上限額 |
|---|---|---|
| 事業承継促進枠 | 1/2(賃上げ加算あり) | 800万円(賃上げあり:1,000万円) |
| 専門家活用枠(買い手支援) | 1/2〜2/3 | 600万円 |
| 専門家活用枠(売り手支援) | 1/2〜2/3 | 350万円 |
| PMI推進枠(事業統合投資類型) | 1/2〜2/3 | 最大2,000万円 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 2/3 | 150万円 |
補助金は「後払い・精算型」が原則です。採択後に補助対象の費用を自社で支払い、実績報告後に精算されます。採択前に費用を立て替えられる資金力が前提となります。
補助金の対象となるのは、原則として「採択後に発生した費用」です。採択前に支払った費用は補助対象外になります。申請を検討し始めたら、専門家へ正式依頼を始める前に申請タイミングを確認してください。
・補助上限は枠によって150万円〜2,000万円と幅がある
・補助率は1/2または2/3。賃上げ加算で補助額が増える場合あり
・補助金は「後払い精算型」。採択後に支払った費用が対象
申請の流れと準備物
gBizIDプライムの取得が最初の壁
事業承継・M&A補助金の申請は、経済産業省の電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を通じて行います。このシステムを使うには、まず「gBizIDプライム」と呼ばれる法人向けIDの取得が必要です。
gBizIDプライムの取得には印鑑証明書などを郵送し、審査を経てIDが発行されます。発行までに1〜2週間かかることが多い(出典:中小企業庁)ため、補助金申請を検討し始めたら、IDの取得手続きを真っ先に始めてください。公募締め切り直前に慌てて取得しようとすると、間に合わないケースがあります。
申請に必要な主な書類
gBizIDプライムを取得したら、jGrantsから申請手続きを行います。申請に必要な主な書類は次の通りです。
-
1
事業計画書の作成:補助金でどのような取り組みを行うかを記載。認定経営革新等支援機関(税理士・中小企業診断士・商工会議所等)の確認が必要な場合もあります
-
2
直近の決算書・財務書類:直近1〜2期分の財務情報が必要です
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3
登記簿謄本:法人の基本情報を証明する書類
-
4
賃上げ計画書(該当する場合):賃上げ加算を受ける場合に提出します

申請前に必ず済ませておくこと:
①まずgBizIDプライムの取得を開始(1〜2週間かかる)
②認定支援機関(税理士・商工会議所等)に事前相談
③最新の公募要領を確認し、申請枠を決定する
④採択後に費用が発生するよう「逆算」してスケジュールを組む
・申請はjGrants(電子申請)で行い、gBizIDプライムが必要
・gBizIDプライムの取得は1〜2週間かかるため、早めに着手を
・事業計画書・決算書・登記簿謄本などが主な必要書類
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先として活動しています。譲渡をご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。
採択率が示す意外な現実
6割以上が採択されている
「補助金申請は難しい」「採択されるのは一部の会社だけ」——そう思っている方は多いのではないでしょうか。しかし、実際の数字を見ると印象は変わります。
中小企業庁事務局の公表データによると、第13次公募(2025年)の採択率は60.9%でした(申請481件中293件採択)。6割超——つまり、申請した3社に2社が採択された計算です。ものづくり補助金の採択率(40〜50%台)と比べても高い水準です。
なぜこれほど高いのか。事業承継・M&A補助金は「競争型」の選考ではなく、「要件充足型」の審査に近い性格を持ちます。要件を正確に満たした申請書を出せば、採択される可能性が高い補助金と言えます。「どうせ採択されないだろう」と申請を諦める理由にはなりません。

第13次公募の採択率は60.9%(出典:中小企業庁事務局)。「難しい補助金」という先入観は必ずしも正確ではありません。要件を正確に満たした申請が採択への近道です。
採択された事業者の共通点
採択された事業者の傾向として、①事業承継の具体的な計画が示されていること、②補助対象経費と補助金の目的が明確に対応していること、③事業計画書に「なぜこの費用が事業承継に必要か」の説明が具体的に書かれていることが挙げられます。
逆に不採択になりやすいのは、補助対象外の費用を誤って記載したケース、または計画書の記載が抽象的なケースです。認定支援機関のサポートを活用すると、計画書の質を上げやすくなります。
・第13次公募の採択率は60.9%——申請した3社に2社が採択されている
・「競争型」より「要件充足型」の性格が強く、要件を満たせば採択されやすい
・事業計画書で補助経費の必要性を具体的に記載することがカギ
申請で失敗しない方法
最多の失敗は「採択前払い」
補助金申請に関わる失敗で最も多いのは何でしょうか。実は「採択前に補助対象の費用を支払ってしまった」ケースです。
原則として、補助金の対象は採択後に発生した費用です。「M&A専門家に相談して費用を払い、その後で補助金の存在を知った」——こうなると、後からの遡及適用はできません。補助金申請を検討しているなら、専門家への正式な依頼を始める前に、必ず申請タイミングを確認してください。
補助金対象外になりやすい費用
次のような費用は対象外になることが多いため、注意が必要です。
| よくある誤解 | 実際の取り扱い |
|---|---|
| 採択前に支払ったM&A仲介費用 | 対象外(採択後が原則) |
| 社内人件費・経営者自身の作業時間 | 対象外 |
| 事業承継に直接関係しない設備投資 | 対象外 |
| 税理士・弁護士への一般的な相談料 | 要確認(専門家活用枠の要件次第では対象になる場合あり) |
公募要領は毎回更新されるため、「前の公募で対象だった費用が今回は対象外」というケースもあります。最新の公募要領を確認し、不明な点は事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県に設置)や認定支援機関に相談するのが確実です。
補助金活用で最も多い失敗は「採択前に費用を支払ってしまうこと」。M&A専門家への正式依頼の前に、必ず申請・採択のタイミングを確認してください。公募期ごとに対象経費が変わるため、旧情報を鵜呑みにしないこと。
・「採択前に費用を払ってしまった」が最多の失敗パターン
・社内人件費・直接関係しない設備投資などは対象外
・公募ごとに要件が変わるため、最新公募要領の確認が必須
売り手経営者の活用法
専門家活用枠「売り手支援類型」に注目
事業承継・M&A補助金の解説記事の多くは、設備投資をしたい事業者や買い手企業を想定して書かれています。しかし、自社を譲渡したいと考えている経営者——「売り手側」——が活用できる枠が用意されています。
それが専門家活用枠の「売り手支援類型」です。会社の売却(M&A)を進める際に必要となる次のような費用が補助対象となります(出典:中小企業庁)。
- バリュエーション(企業価値評価)に関する専門家費用
- デューデリジェンスに対応するための財務・法務資料の整備費用
- M&Aアドバイザーへの報酬の一部(条件あり)
補助上限は350万円、補助率は1/2〜2/3です(令和6年度補正予算時点・出典:中小企業庁)。「M&Aを動かしたいが専門家費用が出せない」という経営者にとって、実質的な費用負担を大きく軽減できます。
帝国データバンクの調査によると、後継者不在率は53.9%(2024年)に上ります。こうした背景から、国も売り手側の事業承継支援に補助金の枠を設けているのです。費用を理由に相手探しを止める必要はありません。
なお、全国の事業承継・引継ぎ支援センターでは、補助金活用も含めた事業承継全般の無料相談を受け付けています。事業承継・グループインの全体的な流れもあわせてご確認ください。

譲渡を検討している経営者が補助金を活用する手順:
①gBizIDプライムを取得(まず1〜2週間)
②専門家活用枠「売り手支援類型」の公募要領を確認
③認定支援機関(商工会議所・税理士等)に相談し、事業計画書の作成支援を依頼
④jGrantsで申請→採択後に専門家費用を発生させる(逆算が重要)
⑤実績報告→補助金受取
・売り手側も「専門家活用枠(売り手支援類型)」で最大350万円の補助が受けられる
・バリュエーション費用・デューデリジェンス対応費用等が対象
・後継者不在率53.9%を背景に、国は売り手支援にも力を入れている
補助金活用の第一歩
情報収集の窓口と手順
事業承継・M&A補助金を活用するにあたって、「まず何から始めればよいか」とお感じの方も多いでしょう。補助金の最新情報は中小企業庁の公式サイトで確認でき、公募スケジュールや最新の公募要領が掲載されています。
全国47都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」では、補助金活用についての無料相談も受け付けています。認定支援機関(認定経営革新等支援機関)に相談することで、事業計画書の作成など実務的な支援が受けられます。
補助金の申請を進めながら、「どのような譲渡先に会社を任せるか」という検討も並行して行うと、時間の無駄がありません。事業承継全体の流れについてはSDアドバイザーズの事業承継フローもご参考ください。
申請前の確認チェックリスト
申請に進む前に、以下の5点を確認しておくと手続きがスムーズです。
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| ①gBizIDプライム | 取得済み、または取得手続き中か |
| ②申請枠の選択 | 自社の状況(売り手・買い手・承継予定)に合った枠を確認したか |
| ③公募スケジュール | 最新の公募要領と締め切りを確認したか |
| ④費用の発生タイミング | 採択後に費用が発生するよう逆算しているか |
| ⑤認定支援機関への相談 | 事業計画書の作成支援・申請アドバイスを受けられる窓口を確認したか |
「補助金はハードルが高そう」と感じていた方も、一つひとつ準備を進めれば確実に前に進めます。後継者不在率53.9%という現実の中で、国が用意した支援制度をうまく使うことは、事業承継を加速させる現実的な手段のひとつです。費用が心配で動き出せていた経営者の方こそ、まずgBizIDの取得という小さな一歩から始めてみてください。
・補助金の最新情報は中小企業庁公式サイト(shoukei-mahojokin.go.jp)で確認
・事業承継・引継ぎ支援センター(全国47都道府県)でも無料相談が受けられる
・gBizIDプライム取得→認定支援機関相談→公募要領確認→採択後に費用発生の順で進める
私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。経営者様のお考えと、私たちのグループとの相性を、一緒にじっくり見極める時間を大切にしています。
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではありません。事業を譲り受ける側として、ともにグループの未来を築く経営者の方をお迎えしています。
「どのような会社にバトンを渡すべきか」を検討されている段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。
