事業承継アドバイザーとM&A仲介の違いと選び方
事業承継を検討し始めた経営者の多くが、最初の段階でこんな壁にぶつかります。「アドバイザーとM&A仲介会社、何が違うのか」「誰が本当に自分の味方として動いてくれるのか」──名称が似ているうえに、各社のサービス説明も少しずつ異なるため、比較のしようがない、と感じる方は少なくないはずです。
この記事では、事業承継アドバイザー・M&A仲介・FA(ファイナンシャルアドバイザー)の役割の違いを整理したうえで、売り手側の経営者が「自分の利益を守ってくれる専門家」を選ぶための具体的な基準をお伝えします。
最初に結論をお伝えします。業者選びで失敗するケースの多くは、「両手取り仲介」の構造を理解しないまま契約してしまうことに起因しています。この一点を押さえておくだけで、選択の精度は大きく変わります。
アドバイザーとは何か
事業承継を支援する専門家の全体像
「事業承継アドバイザー」という名称は、法律が定める国家資格ではありません。税理士・弁護士・公認会計士・M&A仲介担当者など、事業承継に関わる専門家を広く指す総称として使われています。制度上は、誰でも「事業承継アドバイザー」を名乗ることができる点が、ほかの士業資格と大きく異なります。
後継者が不在の中小企業は2024年時点で53.9%に達しています(出典:帝国データバンク「全国企業後継者不在率動向調査(2024年)」)。この現実を背景に、事業承継支援を掲げるサービスの数は急速に拡大し、同時に玉石混交の状態も生まれています。
皆さまの会社でも、取引銀行や顧問税理士から複数の業者を紹介されて、どこに相談すればよいか迷っている、という方はいらっしゃるでしょうか。肩書きだけで判断せず、「誰の利益のために動く専門家か」を軸に選ぶことが、最初の重要なステップです。
「事業承継アドバイザー」は国家資格でなく総称です。肩書きだけでなく、具体的な役割・報酬体系・どちらの立場で動くかを確認することが、信頼できる専門家を見つける第一歩です。
事業承継に関わる主な専門家の役割
事業承継プロセスには複数の専門家が関わります。それぞれの役割は異なりますが、同じ「アドバイザー」という名称で呼ばれることがあるため、混乱しやすい状況が生まれています。以下の表で整理します。
| 専門家の種類 | 主な役割 | 報酬体系の特徴 |
|---|---|---|
| 税理士 | 株価評価・相続税・贈与税の節税設計 | 顧問料または個別依頼料 |
| 弁護士 | 契約書の作成・個人保証の解除交渉・法務対応 | 着手金+成功報酬または時間制 |
| M&A仲介会社 | 売り手・買い手のマッチング全般 | 着手金+成功報酬(両手取りが多い) |
| FA(ファイナンシャルアドバイザー) | 売り手または買い手の一方の立場で交渉 | 月額顧問料+成功報酬(片手取り) |
| 公認会計士 | 企業価値算定・財務デューデリジェンス(=買い手側による財務内容の詳細調査) | 依頼ベース(時間制または固定額) |

・「事業承継アドバイザー」は国家資格でなく総称。誰でも名乗れる
・専門家の種類によって役割・報酬・立場が異なる
・肩書きより「誰の利益のために動くか」を先に確認する
M&A仲介との役割の違い
仲介とFAで何が根本的に異なるか
M&A仲介会社とFA(ファイナンシャルアドバイザー)は、どちらも事業承継・M&Aの場面で活躍しますが、根本的な役割が異なります。売り手の経営者にとって、この違いは「誰が自分の代理人として交渉してくれるか」に直結します。
M&A仲介は、売り手と買い手の双方から依頼を受け、取引を成立させることを目的とします。取引が成立した際、両方から手数料を受け取る「両手取り」の形式が一般的です。一方、FAは売り手または買い手のどちらか一方のみと契約し、その依頼者の利益を優先して交渉を進める代理人として機能します。
では、どちらを選べばよいのでしょうか。一概には言えませんが、「誰が自分の味方として動くか」を明確にしたい場合は、売り手FAの活用を検討する価値があります。
売り手FAを選ぶことで何が変わるか
売り手側のFAを選んだ場合、交渉の優先順位が変わります。買い手からの値下げ要求・条件変更に対して、「売り手の利益を守る立場」で対応してもらえるためです。仲介の場合は取引成立自体が優先されるため、条件が多少下がっても合意を促す方向に動く場面があります。
ただし、売り手FAは大規模案件や専門的な業界M&Aでの採用が多く、中小企業の案件では仲介形式の方が選択肢として多いのが実態です。仲介を選ぶ場合でも、そのリスクを把握したうえで進めることが大切です。
・仲介は売り手・買い手双方から手数料を受け取る「両手取り」が主流
・FAは一方の代理人として交渉。売り手FAは売り手の利益を優先する
・中小案件では仲介が多いが、構造上のリスクを理解して選ぶことが前提
両手取りリスクの正体
利益相反とは何か、具体的に考える
「両手取り仲介は違法ですか?」──この質問の答えは「違法ではありません」。しかし、構造上の利益相反(=依頼者の利益と自己の利益が相反する状況)が生まれやすいことは事実です。
例えば、売り手が「最低でも2億円で売りたい」と考えていても、買い手が1億5,000万円しか出せない場面があったとします。仲介は売り手・買い手どちらからも手数料をもらう立場ですから、取引を成立させることで双方から報酬が発生します。そのため、「2,000万円下げれば成約できます」という方向に話が進みやすい構造があります。
これは仲介業者が悪いわけではなく、ビジネスモデルの問題です。だからこそ、売り手側がこの構造を理解しておくことが自衛の武器になります。

ガイドラインが定める開示義務
中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月改訂、中小企業庁)では、仲介者に対して「売り手・買い手双方に対して誠実に対応する義務」と「利益相反のおそれがある事項の適切な開示義務」が明記されています。さらに2024年の改訂版では、仲介者が受領する手数料の算定基礎(売却価格など)を売り手・買い手の双方に明示することが求められるようになりました。
この規定は、従来の「業者任せ」の状態に制度的な是正をかけたものです。「手数料の算定根拠を教えてください」と業者に求めることは、経営者として正当な権利です。開示を渋る業者とは、契約前に慎重な判断が求められます。
両手取りの仲介会社に依頼する際は、以下の点を必ず確認してください。
・手数料の算定方法と金額を書面で開示してもらっているか
・買い手に対しても手数料を請求していることを明示しているか
・値下げを提案された際、その根拠データが示されているか
開示を求めても説明しない業者とは、契約を慎重に検討することをお勧めします。
・両手取りは違法ではないが、売り手の利益と仲介の収益が相反する場面がある
・中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月改訂)は手数料の算定根拠の開示義務を規定
・開示を求めることは正当な権利。説明しない業者は避けるのが賢明
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先として活動しています。譲渡をご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。
資格と登録制度を知る
民間資格の位置づけ
事業承継アドバイザーに関する民間資格は複数あります。代表的なものが、一般社団法人金融検定協会が認定する「事業承継アドバイザー認定試験(BSA)」と、経済法令研究会が実施する「事業承継アドバイザー3級試験」です。
これらの資格は、主に金融機関の担当者・税理士・士業者向けの知識認定が目的であり、「資格を持っていることがM&A仲介の実務実績の証明」にはなりません。知識の証明ではあっても、実務経験の保証ではないことを念頭においてください。
国の「M&A支援機関登録制度」とは
信頼性の高い専門家を探す際に活用したいのが、中小企業庁が2021年8月に創設した「M&A支援機関登録制度」です。守秘義務の遵守・成功報酬型の手数料構成遵守など一定の条件を満たした業者が国に登録されており、中小企業庁のウェブサイトから無料で検索できます。
登録機関であれば必ずしも問題がないとは言い切れません。ただ、「少なくともガイドラインを遵守する義務を負っている業者かどうか」を確認するうえで、登録の有無は一つの有効な判断材料です。
業者に問い合わせる前に、まずこの検索システムで登録番号を確認する習慣を持つことをお勧めします。また、事業承継・M&Aの基本的な手続きの流れを事前に把握しておくと、業者との最初の打ち合わせがスムーズになります。
業者と面談する前に、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」の検索ページで、相談を検討している業者の登録の有無を確認しましょう。登録番号を提示できない業者には、登録していない理由を尋ねることも、判断材料になります。
・BSA・事業承継アドバイザー3級などの民間資格は「知識の証明」であり実務保証ではない
・中小企業庁のM&A支援機関登録制度(2021年創設)で業者の登録を無料確認できる
・登録の有無はあくまで判断材料の一つ。実績・報酬体系の確認も必須
信頼できる業者の見分け方
公的機関を最初の相談先にする理由
「最初からM&A仲介会社に相談する」のは、実は少しリスクのある行動です。初回相談の段階で、業者は成約に向けて動く動機を持ちます。まだ「本当に売るかどうか」を迷っている段階で仲介との契約書にサインしてしまうと、後から条件変更が難しい状況に陥ることがあります。
最初の相談先として活用したいのが、中小企業庁が全国47都道府県に設置している「事業承継・引継ぎ支援センター」です。公的機関のため費用が発生せず、売り込みもありません。「自社の状況を整理したい」段階での相談に適しており、その後に民間業者を選ぶ際の比較軸も形成されます。
民間業者の選定で見るべき3つのポイント
公的機関での相談を経て、民間の専門家に依頼する段階では、以下の3点を確認することをお勧めします。
-
1
「片手取りか両手取りか」を書面で確認する
契約前に必ず確認してください。仲介型(両手取り)の場合は利益相反が生まれる構造を認識したうえで進めます。口頭での説明だけでなく、書面での明示を求めることが大切です。 -
2
「同業種・同規模の成約実績数」を聞く
業種・規模が近い案件の実績があるかどうかは、担当者の現場感覚を測る指標になります。具体的な数字を出せる業者と、「多数ございます」とだけ答える業者では、信頼感が異なります。 -
3
「着手金の金額・返還条件」を明確にする
着手金は成約しなくても返還されない費用です。着手金ゼロの業者もありますが、その場合は成功報酬の設定を詳細に確認してください。
・最初の相談は公的センター(事業承継・引継ぎ支援センター)を活用する
・民間業者選びでは「片手/両手」「業種実績」「着手金条件」の3点を確認する
・判断軸を形成してから民間業者を選ぶ順序が、条件を守りやすくする
初回相談で確認する5項目
費用体系と秘密保持の確認
業者との初回相談で必ず確認しておきたい5つの質問があります。これらを事前に整理しておくと、相談後の判断がぐっと明確になります。
| 確認項目 | 聞き方のポイント |
|---|---|
| ① 報酬の体系 | 「売り手・買い手の両方から手数料を受け取る形式ですか?算定根拠を書面で見せてもらえますか?」 |
| ② 着手金の有無 | 「着手金はいくらですか?交渉が途中で進まなかった場合、返還はされますか?」 |
| ③ 担当者の専門性 | 「弊社と同じ業種・規模の成約案件はありますか?担当者自身が直接関わりましたか?」 |
| ④ 秘密保持の仕組み | 「会社の情報はどのように管理されますか?NDA(=秘密保持契約)はいつ締結しますか?」 |
| ⑤ 情報開示のタイミング | 「買い手候補に会社名を開示するのはいつの段階ですか?」 |
「無料相談」の意味を正しく理解する
「初回相談は無料」を掲げる業者は多いですが、この「無料」は相談費用がかからないというだけで、その後の契約費用まで無料という意味ではありません。初回相談で会社の概要や財務状況を話したあと、「では契約書を」という流れになる場合があります。
相談の場では「今日は情報収集が目的です」と最初に伝えることで、場の目的を明確にできます。真に信頼できる業者であれば、こうした意思表示を尊重します。急かしてくる業者は、それ自体が一つのシグナルです。
・初回相談では「報酬体系・着手金・担当実績・秘密保持・開示タイミング」の5点を確認
・「無料相談」はあくまで相談費用の話。後続の費用体系は別に確認が必要
・「今日は情報収集が目的」と伝えることで、会話の主導権が持てる
選ぶ際の落とし穴と対策
「紹介だから安心」は本当か
取引先の銀行や顧問税理士から紹介された業者だから大丈夫、という判断は少し慎重に見てください。紹介という関係性は信頼の出発点になりますが、「紹介元との関係維持」を優先して、条件面での正直な助言が薄まることもあります。
紹介を受けた業者であっても、前章でお伝えした5つの確認項目は省略しないことをお勧めします。「信頼できる紹介先かどうか」を判断するのは、最終的に経営者ご自身です。
情報漏えいリスクと専任契約の確認
複数のM&A仲介会社に同時に会社の情報を渡すと、複数のルートで情報が市場に出回るリスクがあります。取引先や従業員に「あの会社は売りに出ている」と察知される原因になりかねません。
ここで知っておいていただきたいのが、中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月改訂、中小企業庁)に新たに設けられた規定です。仲介者は、売り手・買い手から提供を受けた情報を当該M&A以外の目的で利用することを禁止されています(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」2024年8月)。つまり、相談のために開示した財務情報を他案件の参考資料として流用することはガイドライン違反となります。ガイドラインを遵守することを約束しているM&A支援機関登録業者か否か、この観点でも確認する価値があります。
また、仲介との契約書に「専任条項」(他社への並行依頼を禁止する条項)が含まれているかどうかを確認してください。専任契約を結ぶ場合は、業者への信頼が前提となります。
・紹介業者でも5項目の確認は必ず行う
・中小M&Aガイドライン(第3版)では提供情報の目的外利用が明示的に禁止されている
・契約書の「専任条項」の有無を確認し、納得したうえでサインする
・紹介業者であっても確認事項は省略しない
・ガイドラインは情報の目的外利用を禁止。登録業者かどうかでその拘束力が変わる
・専任契約の前に、業者への信頼が十分かどうかを見極める
自社に合う選択をするには
段階ごとの専門家の活用順序
事業承継の専門家選びは、「最初から全部一社に任せる」より「段階に合わせて役割を分ける」方が、自社の利益を守りやすいケースが多くあります。以下の順序が、実務的に安全な進め方です。
-
1
情報収集・現状把握の段階
事業承継・引継ぎ支援センター(費用なし・全国47都道府県設置)や、既存の顧問税理士への相談から始める。焦って外部業者に相談する前に、まず自社の状況を整理することが第一歩です。 -
2
業者の選定段階
公的センターのアドバイスと中小企業庁の登録検索システムを活用し、複数業者の候補を挙げる。前章の5項目を確認したうえで、一社に絞る判断をおこなう。 -
3
交渉・契約の段階
弁護士によるNDA・基本合意書・最終契約書のチェックを依頼する。仲介業者とは別に、売り手側の法務確認ができる弁護士を確保しておくことが、最終局面での自衛手段になります。各段階の手続きの流れを事前に把握しておくと、準備が整いやすくなります。
最初の一歩は情報収集から
「どの業者も大して変わらない」と感じる経営者は少なくありません。しかし、報酬体系・担当者の経験・業種への理解度・秘密保持の仕組みは、会社によって大きく異なります。
実際の事業承継の事例を見ると、「どの業者を・いつ・どのように選んだか」が最終的な条件に影響していることがわかります。専門家の選定は、事業承継プロセス全体の中で最初の、そして最も重要な意思決定のひとつです。
まず一歩として、公的センターに問い合わせてみてください。「相談しただけで何かが始まる」わけではありません。情報を集めながら自分自身の判断軸を育てていくことが、納得できる選択への近道です。
・公的センター→登録業者選定→弁護士確認という順序が安全
・業者選定は事業承継全体で最初の、最も重要な意思決定
・まず公的機関への相談から始め、判断軸を育てることが第一歩
私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。経営者様のお考えと、私たちのグループとの相性を、一緒にじっくり見極める時間を大切にしています。
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではありません。事業を譲り受ける側として、ともにグループの未来を築く経営者の方をお迎えしています。
「どのような会社にバトンを渡すべきか」を検討されている段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。


