第三者承継とは?後継者のいない経営者が会社と雇用を守る方法

「後継者がいない。でも、知らない相手に会社を売るなんて、従業員への裏切りではないか」——そう感じて、廃業と承継のはざまで悩んでいる経営者の方は、実は非常に多くいらっしゃいます。

近年、その選択肢として急速に広まっているのが「第三者承継」です。M&A(合併・買収)を通じて外部の企業や個人に事業を引き継ぐ方法で、後継者不在の問題を根本から解決できる可能性があります。

この記事では、「買い手はどんな人なのか」「社員の雇用は守れるのか」「いくらで売れるのか」——経営者の本音の疑問に正面から答えながら、第三者承継の基本から条件交渉の実際まで解説します。

第三者承継とは?3つの事業承継の方法を比較する

事業承継の方法は、大きく分けて3つあります。それぞれの違いを理解することが、自社に合った選択をするうえで大切な出発点となります。

以下の表で3つの手法を比較してみましょう。

種類 承継先 主な特徴
親族内承継 子・配偶者・親族 従来から最も多い形。後継者候補がいない場合は対応できない。
社内承継 従業員・役員(MBO) 現場を熟知した人材への引き継ぎ。株式取得の資金調達が課題になることがある。
第三者承継 社外の企業・個人(M&A) 親族・社内に候補がいなくても対応可能。売却益を得ながら事業を引き継げる。

第三者承継(親族外承継)の位置づけ

第三者承継とは、親族でも社内関係者でもない、社外の第三者(他の企業や個人)にM&Aを通じて事業を引き継ぐ方法です。「親族外承継」とも呼ばれます。

かつては「会社は身内に継がせるもの」という意識が強くありましたが、少子化・経営者の高齢化を背景に、第三者への承継が現実的かつ有力な選択肢として広く認知されるようになりました。

📌 ポイント
中小企業庁は、後継者問題の解決策として第三者承継(M&A)を積極的に推進しており、「中小M&Aガイドライン(第3版)」を整備するとともに、全国の事業承継・引継ぎ支援センターを通じた支援体制を充実させています。

第三者承継を選ぶ経営者が増えている理由

「3社に1社が第三者承継を選んでいる」とも言われる時代になりました。なぜこれほど第三者承継が普及しているのでしょうか。

後継者不在問題の深刻化

帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2023年)」によると、後継者不在率は全国平均で53.9%にのぼります(出典:帝国データバンク)。つまり、全国の中小企業のうち半数以上が「後継者がいない」という状態にあるのです。

この背景には、少子化による候補者の減少と、子どもが「親の会社を継ぎたくない」という意識の変化があります。昔のように「長男が継ぐ」という慣習が通じなくなってきているのが現実です。

廃業より承継——社会的な意識の変化

後継者がいない場合、かつては「廃業」が選ばれることが多くありました。しかし近年、「黒字でも廃業」という社会的損失を防ぐために、第三者承継の活用を積極的に促進する動きが広がっています。

中小企業庁の試算では、2025年頃までに経営者が70歳以上になる中小企業は約245万社にのぼると言われており(出典:中小企業庁「事業承継の現状」)、廃業を選んだ場合に雇用や技術・ノウハウが失われることへの危機感が社会全体で共有されるようになっています。

📋 この章のまとめ
・後継者不在率は全国平均で約53.9%(帝国データバンク2023年調査)
・経営者の高齢化と少子化が重なり、第三者承継への注目度が急速に高まっている
・国(中小企業庁)も支援体制を整備し、M&Aによる第三者承継を積極推進中

第三者承継の2つの手法—株式譲渡と事業譲渡

第三者承継(M&A)には、主に2つの手法があります。どちらを選ぶかによって、売却後に引き継がれる権利・義務の範囲が大きく変わります。それぞれの特徴を整理しましょう。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、経営者が保有する株式(=会社の所有権)を買い手に譲渡する方法です。会社そのものが売買の対象になります。従業員との雇用契約や取引先との契約関係もそのまま引き継がれるため、社名や事業の継続性を保ちやすいのが特徴です。

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社が保有する特定の事業・資産・契約を買い手に移す方法です。会社の「器(法人格)」は売り手側に残り、事業の「中身」だけが移ります。特定の事業部門だけを売却したい場合や、負債を引き継がせたくない場合に活用されます。

以下の表で2つの手法の違いをまとめます。

比較項目 株式譲渡 事業譲渡
売却対象 会社全体(株式) 特定の事業・資産
雇用契約の扱い 原則としてそのまま引き継ぐ 個別に再締結が必要
社名の存続 原則存続(変更も可) 存続しないことが多い
負債の引き継ぎ 原則引き継ぐ 選択的に設定可

後継者不在の解決を目的とした第三者承継では、社名・雇用・取引先との関係を守りやすい「株式譲渡」が選ばれることが多い傾向にあります。

第三者承継のメリット

「知らない人に会社を渡す」ことへの抵抗感から、第三者承継に踏み出せない経営者は少なくありません。しかし実際には、廃業に比べて多くの面で関係者全員にメリットがある選択です。

① 後継者問題を根本的に解決できる

親族・社内に後継者候補がいなくても、第三者へのM&Aなら承継の道が開けます。「廃業」という選択を回避し、会社の歴史を途絶えさせずに次の世代へ繋げることができます。

② 従業員の雇用と生活を守れる

廃業した場合、従業員は職を失います。第三者承継では、雇用の継続を条件として交渉することが可能です。長年ともに働いてきたスタッフの生活を守る、最も確実な手段のひとつです。

③ 創業者がこれまでの努力を対価として受け取れる

会社を廃業すれば、これまで積み上げてきた事業価値は何にもなりません。一方、M&Aによる第三者承継では、事業価値を対価(売却益)として受け取ることができます。老後の資金や次のステップへの原資として活用できます。

④ 事業・ブランド・社名を存続させられる

地域での信頼、長年育てたブランド、独自の技術——これらは廃業すれば消えてしまいます。第三者承継では、こうした無形の価値ごと引き継いでもらえる可能性があります。社名の存続も条件交渉の対象にできます。

📌 ポイント
「黒字でないと売れない」と思い込んでいる経営者の方も多いのですが、実際には赤字企業や債務超過の企業でもM&Aが成立するケースがあります。技術・人材・顧客基盤・地域ブランドといった「無形の価値」も評価の対象になるからです。

知っておきたいリスクと注意点

メリットばかりを強調するのも公平ではありません。第三者承継には、事前に知っておくべき注意点もあります。正確に理解したうえで判断することが大切です。

すべての会社に買い手が見つかるわけではない

業種・規模・財務状況・地域によっては、買い手候補とのマッチングに時間がかかる場合や、条件が折り合わないことがあります。早期に専門家に相談し、自社の強みを整理しておくことが成功の鍵となります。

企業文化・経営方針が変わるリスクがある

会社が新しいオーナーのもとに入ることで、職場の雰囲気や経営方針が変化するリスクはゼロではありません。ただし、条件交渉の段階でこうした懸念を契約に盛り込むことが可能です。

手続きに時間と専門知識が必要

M&Aは複数のステップを経て成約に至るため、一般的に数カ月から1年以上かかることがあります。また、M&Aアドバイザーや仲介業者への手数料も発生します。中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、信頼できる専門家の活用が推奨されています。

⚠️ 注意
M&A仲介業者の中には、売り手・買い手の双方から手数料を受け取る「双方代理」の形をとる業者も存在します。依頼前に手数料体系と利益相反の有無を必ず確認してください。中小M&Aガイドラインでは、仲介業者との契約前に複数の専門家に相談することを推奨しています。

「まずは話だけ聞いてみたい」という方も大歓迎です。

4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。

👉 無料相談・お問い合わせはこちら

実際の買い手はどんな人・会社なのか

「知らない相手に会社を売る」——この言葉が持つ漠然とした不安の正体は、多くの場合「買い手のイメージが見えない」ことです。実際の買い手像を知ることで、この不安を大きく和らげることができます。

買い手の種類は多様です

M&Aで事業を買う主体は、大企業から個人まで幅広く存在します。

  • 1

    事業拡大を目指す中小企業:同業または隣接業種の企業が、顧客・人材・拠点の獲得を目的に買収するケースが多く見られます。

  • 2

    独立を目指す個人(スモールM&A):「起業よりも既存の事業を引き継ぐ」を選ぶ個人が増えており、特に小規模企業では個人バイヤーとのマッチングも珍しくありません。

  • 3

    グループ企業を拡大するホールディングス・投資家:「40社グループを目指す」などのビジョンを持つ企業が、優良な中小企業を積極的に買収するケースも増えています。

買い手が重視するのは「会社の価値」です

買い手は「できる限り安く買い叩く」ことを目的としているわけではありません。安定した収益・優秀な従業員・地域での信頼・独自技術やノウハウを適正な価格で手に入れたいと考えています。

トップ面談の場では、経営者が「買い手がどんな想いで買収しようとしているか」を直接確認することができます。違和感を感じた場合は交渉を中断することもできます。これは売り手の正当な権利です。

✅ 実践ポイント
SDアドバイザーズは「コンサルタント」ではなく、自らM&Aで事業を承継してきた「譲渡先」として活動しています。「買い手がどんな人か」という不安に、実体験から答えることができます。▶ SDアドバイザーズの実績・事例紹介はこちら

マッチングから成約までのプロセス

第三者承継はどのように進むのでしょうか。「秘密保持→書類→面談→交渉→契約」という流れを、7つのステップで確認しましょう。

  • 1

    相談・事前準備:M&Aアドバイザーまたは仲介業者に相談し、会社の現状(財務・事業・資産状況)を整理します。

  • 2

    ノンネームシートの作成・打診:会社名を伏せた概要資料(ノンネームシート)を作成し、候補先に打診します。

  • 3

    秘密保持契約(NDA)の締結:具体的な情報を開示する前に、秘密保持契約(=情報の漏えいを防ぐための契約)を締結します。第三者への情報流出リスクを防ぐ重要なステップです。

  • 4

    詳細情報の開示(IMの提出):インフォメーション・メモランダム(=会社の詳細資料)を提出し、買い手候補が本格的な検討を開始します。

  • 5

    トップ面談:経営者(売り手)と買い手候補のトップが直接面談し、お互いの方針・想いを確認します。ここで「買い手がどんな人か」をリアルに感じ取ることができます。

  • 6

    基本合意書の締結・デューデリジェンス:条件の大枠を合意した後、買い手がデューデリジェンス(=買い手が売り手の企業内容を詳しく調査すること)を実施します。

  • 7

    最終契約・クロージング:最終的な株式譲渡契約を締結し、対価の支払いと株式の移転をもって成約となります。

詳細な手続きの流れについては、SDアドバイザーズの事業承継の流れページもあわせてご参照ください。

📋 この章のまとめ
・M&Aは秘密保持を守りながら段階的に進む
・トップ面談で直接お互いの想いを確認できる
・成約まで一般的に数カ月〜1年程度を見込んでおく

「いくらで売れるのか」企業価値の考え方

「自分の会社はいくらで売れるのか」は、経営者が最初に抱く疑問のひとつです。企業価値の算定方法はいくつかありますが、中小企業のM&Aでは比較的シンプルな手法が用いられることが多いです。

代表的な評価手法

中小企業のM&Aで活用される主な評価手法を以下に整理します。

手法名 概要 特徴
年買法(ねんばいほう) 純資産+営業利益×数年分 中小企業のM&Aで最もよく使われるシンプルな手法
純資産法 貸借対照表の純資産をベースに算定 資産価値が明確な会社に向く
DCF法 将来の収益を現在価値に割り引いて算定 成長期待の高い事業向き

数字に表れない「無形の価値」も評価されます

財務諸表に表れる数字だけが企業価値ではありません。長年の顧客関係・地域ブランド・従業員のスキル・独自の製法やノウハウといった「無形の価値」も、買い手が重視するポイントです。

「うちは利益が少ないから売れない」とお考えの方も多いのですが、こうした見えない価値が高く評価される場合もあります。まず専門家に相談して、自社の価値を客観的に把握することをおすすめします。

※ 企業価値の算定・税務処理については、必ず税理士・公認会計士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。

従業員・社名・文化を守る条件交渉のポイント

「売った後、社員は大丈夫か」「会社の雰囲気は変わってしまわないか」——これが第三者承継に踏み出せない最大の心理的な壁です。しかし多くの不安は、条件交渉によって対処できます。

雇用継続・処遇維持の条件設定

M&Aの最終契約(株式譲渡契約書)には、従業員の雇用継続や処遇(給与・役職など)の維持を条件として明記することが一般的です。「現行の雇用条件を一定期間維持する」「リストラを原則禁止とする」などを条件として交渉することができます。

社名・ブランドの存続交渉

長年育てた社名・ブランドを守りたいというのは、売り手経営者の正当な要望です。買い手側も、社名やブランドの価値を認めて買収するケースが多く、社名存続の条件が実現するケースは少なくありません。

取引先・顧客への配慮と情報開示のタイミング

成約後に取引先が離れないよう、引き継ぎのタイミングや顧客・取引先への告知の進め方も事前に調整します。秘密保持期間中は外部への公表ができないため、成約後の情報開示の順序・タイミングを丁寧に設計することが重要です。

✅ 実践ポイント
SDアドバイザーズは、譲渡先として実際にM&Aを経験してきた立場から、売り手経営者が「何を守りたいか」という想いを深く理解しています。条件交渉の進め方についても、実体験を元にご相談をお受けしています。▶ SDアドバイザーズの実績・事例紹介はこちら

まとめ—第一歩は「話を聞いてみる」ことから

第三者承継(M&A)は、後継者がいない経営者にとって「廃業」ではなく「事業の継続」を選ぶための現実的な選択肢です。

「知らない人に売る」ことへの不安は、情報を得ることで大きく和らぎます。買い手の実像を知り、プロセスを把握し、条件交渉で守りたいものを守る準備ができれば、第三者承継は経営者としての「最後の大仕事」として誇れる選択になります。

公的な相談窓口としては、全国47都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターを無料でご利用いただけます。また、M&A専門家への相談も、「決断する前の情報収集」として気軽に始めることができます。

一人で抱え込まず、まず話を聞いてもらうだけでも、見えてくるものがあります。

あなたが大切に育ててきた会社の価値と、社員の未来を守る選択肢が、きっとあります。

「まずは話だけ聞いてみたい」という方も大歓迎です。

4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。

👉 無料相談・お問い合わせはこちら

監修:株式会社SDアドバイザーズ 事業承継グループ
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。▶ 実績・事例紹介はこちら
事業承継に対する想いはこちら

※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。

4040 VISION

40人の社員がいる会社を
40社つくる

「うちの会社が該当するか分からない」
「まだ譲渡を決めたわけではないけど話だけ聞きたい」という方も大歓迎です。
  まずはお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ お問い合わせはこちら
代表取締役 高木栄児