事業譲渡で一部事業だけ売るM&Aの手順と注意点
「会社全体ではなく、一部の事業だけを譲渡したい」とお考えの経営者は多くいらっしゃいます。複数の事業を抱える中小企業ほど、選択と集中が大きな経営課題になります。
そのような場合に活用できるのが「特定承継(=事業譲渡)」です。会社丸ごと売る株式譲渡と異なり、必要な事業だけを切り出して譲渡できる柔軟さが特徴です。
本記事では、特定承継の仕組み・手順・注意点を、税負担や従業員の取扱いの違いまで含めてわかりやすく解説します。
目次
特定承継(事業譲渡)とは|包括承継との違い
「事業譲渡という言葉は聞いたことがあるが、株式譲渡と何が違うのかわからない」という方は多いと思います。
包括承継と特定承継の根本的な違い
- 株式譲渡:会社の株式を譲渡する方法。会社は同一の法人格のまま株主(経営権)が交代し、契約・許認可は会社に帰属したまま継続する
- 特定承継(事業譲渡):会社の中の特定の事業のみを切り出し、資産・負債・契約を個別に移転して譲渡する方法
会社丸ごとを譲るのか、事業の一部だけを譲るのか──この差が、税務・従業員・契約のすべてに影響します。
どんな事業を切り出して売れるのか
「自社の一部事業だけを売れるのか」という疑問はよくいただきます。実態としては「売りやすい事業」と「難しい事業」の両方があります。
売りやすいケース
- 収益が独立して把握できる(部門別損益が見える)
- 顧客・契約・人員が事業ごとにある程度分かれている
- 許認可が事業単位で取得できる業種
難しいケース
- 複数事業が同じ人員・設備を共用している
- 主要取引先が事業横断で契約している
- ブランド・社名の切り分けが難しい
事業譲渡の標準的な手順(6ステップ)
事業譲渡は、おおむね6つのステップで進みます。
- 譲渡対象事業の切り出し設計(資産・負債・契約の特定)
- 支援機関との契約・買い手探索
- 秘密保持契約・基本合意
- 株主総会の特別決議(原則、議決権の3分の2以上の賛成が必要:会社法)(出典:e-Gov法令検索 会社法 会社法)
- デューデリジェンス・最終契約
- クロージング・移転手続き(契約・許認可・従業員の同意)
承継全体の流れは、事業承継の流れのページでも整理しています。
事業譲渡は契約・人・許認可を一つひとつ移していく作業です。株式譲渡に比べて手続きの数は多くなりますが、不要な負債を切り離せる柔軟性は大きな利点です。
従業員の扱いはどう変わるのか
承継方法によって、従業員の取扱いは大きく異なります。
株式譲渡の場合
株式譲渡では雇用契約はそのまま継続されます。従業員から見れば、雇用主は変わらないため、原則として個別同意は不要です。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、買い手側との新たな雇用契約に切り替わります。そのため、移籍する従業員一人ひとりの同意が必要です。
従業員の同意取得の進め方を間違えると、移籍辞退・トラブル・情報漏洩につながりかねません。中小M&Aガイドライン(第3版)に沿った専門家のサポートが特に重要な場面です(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」令和6年8月 中小M&Aガイドライン(第3版))。
4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。
取引先契約の引継ぎに関する注意点
事業譲渡では、取引先との契約も「個別に巻き直し」が原則です。
個別同意が必要な範囲
取引基本契約・賃貸借契約・リース契約・許認可など、移転に当たって取引先・行政機関の承諾が必要となるケースが多くあります。承継の交渉と並行して、契約書の精査と切替え交渉を進める必要があります。
税務面の比較|株式譲渡と事業譲渡
税負担はスキーム選択の大きな判断材料です。一般的な傾向を整理します。
| スキーム | 課税対象者 | 主な税目・傾向 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 個人株主 | 譲渡所得20.315%(申告分離課税)が中心 |
| 事業譲渡 | 譲渡側の法人 | 法人税(実効税率約30%前後)+消費税の検討 |
(参考:国税庁「株式等を譲渡したときの課税」、財務省「法人税率」などの公的情報)
税務面だけ見れば、個人株主としての株式譲渡が有利に映ることが多いです。ただし「不要な事業まで一括で渡したくない」「負債を切り離したい」場合は、事業譲渡が選択肢に入ります。
特定承継を成功させるポイント
事業譲渡で失敗しないためには、初動でいくつかの論点を押さえる必要があります。
- 譲渡対象の範囲を契約書で明確に定める(資産・負債・人員・契約のリスト化)
- 競業避止義務の期間と地理的範囲を双方で合意する
- 従業員への伝え方とタイミングを支援機関と設計する
- 許認可の引継ぎ可否を行政・専門家に事前確認する
事業譲渡は契約書のディテールがすべてです。経営者単独で判断せず、税理士・弁護士・M&A支援機関と組んで進めるのが安全です。
まとめ|「事業単位の承継」を選択肢に入れる
特定承継(事業譲渡)は、複数事業を抱える経営者にとって有力な選択肢です。一方で、契約・税務・従業員の論点が多く、設計次第で結果が大きく変わります。
・特定承継は事業単位での譲渡
・契約・人・許認可の個別移転がカギ
・税務はスキーム比較で慎重に判断
スキーム選びは早い段階で専門家と相談するほど選択肢が広がります。
4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。
「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況や最新の税制改正により異なる場合があります。