【2026年6月号】非上場中小企業こそ「自社の価値」を算定するべき理由。未来の選択肢を広げる第一歩。

6月は多くの上場企業で株主総会が開かれる季節です。しかし実は、自社の価値と向き合うのは上場企業だけではありません。今月号では、中小企業にとっても大切になる「自社の企業価値・事業価値」の考え方、6月19日から受付開始予定の事業承継・M&A補助金第15次公募の新設類型、第14次公募の採択実績、そして2018年に株式譲渡契約を締結した創業300年超の老舗旅館の第三者承継事例をお届けします。

特集コラム:6月は株主総会シーズン――非上場の中小企業経営者こそ、「自社の価値」を知っておきたい理由

6月に入ると、上場企業では株主総会が相次いで開催されます。株主との対話や経営説明が行われる季節です。

ただ、自社の価値と向き合うのは、上場企業の経営者だけではありません。非上場の中小企業にも株式価値は存在します。

事業承継の形は様々です。親族に引き継ぐ場合も、長年ともに歩んだ従業員に引き継ぐ場合も、第三者へのM&Aを選ぶ場合も、いずれの選択肢を検討する上でも「自社の企業価値・事業価値がどのように評価されるか」を知っておくことは、判断の基盤になります。

中小M&Aガイドライン(第3版)によると、中小企業のM&Aにおける企業価値・事業価値の算定には大きく3つのアプローチがあります。保有資産や負債を踏まえる方法、将来の収益力をベースにする方法、そして類似する会社との比較をベースにする方法です。実際のM&Aではこれらの考え方に基づく手法が用いられることがあり、取引価格の検討材料になります。

ここで大切なのは、「自社の価値は一つに決まっているわけではない」という点です。評価の方法や前提条件によって数字は変わります。そのため、どの形で承継するかを決める前に、自社の現状を客観的に把握しておくことが、後の判断材料になります。

株主総会の季節に上場企業が企業価値や経営状況について株主と対話するように、非上場の中小企業経営者もこの機会に自社の現状を整理してみることが、事業承継の選択肢を広げる第一歩につながるかもしれません。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html

事業承継・M&A補助金 第15次公募、6月19日受付開始予定――「小規模売り手支援類型」加わる

事業承継・M&A補助金の第15次公募が、2026年6月19日(金)から受付開始予定です(締切:7月24日(金)17時予定)。5月22日に公募要領が公表されており、今回の主な変更点は専門家活用枠に「小規模売り手支援類型」が新設されたことです。

この新類型は、小規模事業者等がM&Aにより会社や事業を第三者に引き継ぐ際に、FAや仲介業者などの専門家を活用する費用を補助するものです。補助上限は450万円です。ただし、補助事業期間内にM&Aが成立しなかった場合は補助上限が50万円となるなど、条件により上限が異なる点には注意が必要です。要件を満たす場合には費用負担の軽減につながる可能性があります。

第15次公募の主な枠は以下の通りです。

① 事業承継促進枠(親族内・従業員承継向け)

今後5年以内に親族内または従業員への承継を予定する企業が対象。設備投資や店舗改築などに活用できます。補助率は1/2または2/3(小規模事業者は2/3)。

② 専門家活用枠(M&A検討中の売り手・買い手向け)

M&A支援機関登録制度に登録されたFA・仲介業者の活用費用やデュー・ディリジェンス費用を補助。今回新設の「小規模売り手支援類型」(補助上限450万円)をはじめ、売り手・買い手の類型や要件によって補助上限が異なります。詳細は公募要領でご確認ください。

③ PMI推進枠(M&A後の統合支援向け)

M&Aに伴い経営資源を譲り受ける予定の中小企業等によるPMIの取り組みが対象です。専門家活用類型と事業統合投資類型の2類型があります。

このほか、一部事業の廃業を伴うケースに対応する廃業・再チャレンジ枠もあります。

申請はGビズIDプライムアカウントが必須です。未取得の場合は早めの手続きをご検討ください(発行まで1週間程度、混雑時には3週間以上かかる場合があります)。

なお、申請内容や要件について知りたい方向けに、公式オンライン説明会の申込受付期間は6月5日(金)から6月24日(水)17時です。説明会は6月26日(金)14時を予定しています。各枠の概要を事前に確認する機会として、積極的にご活用ください。

出典:中小企業庁「中小企業生産性革命推進事業『事業承継・M&A補助金』(十五次公募)の公募要領を公表します」(2026年5月22日)
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260522001.html
出典:事業承継・M&A補助金公式サイト「第15次公募説明会」
https://shoukei-mahojokin.go.jp/r7h/

第14次公募の採択実績から読む――採択率61%、専門家活用枠の申請件数が最も多い結果に

2026年5月15日、事業承継・M&A補助金の第14次公募採択結果が公表されました。申請512件に対し、採択は311件でした。採択率は約61%です。

枠別の採択内訳は以下の通りです。事業承継促進枠103件、専門家活用枠180件、PMI推進枠27件、廃業・再チャレンジ枠1件(単独申請分)。専門家活用枠の申請件数が最も多い結果となりました。

なお、第11次は専門家活用枠のみの実施であるため単純比較には注意が必要です。過去各回の採択件数は中小企業庁の公式サイトに掲載されています。枠の設計や対象範囲、公募条件が回ごとに異なるため、採択を目指す場合は各公募回の要領をよく確認した上で、審査項目・申請要件への対応や申請書の精度を高めることが重要です。

士業・仲介業者の方にとっては、顧問先が専門家活用枠の対象になりうるかどうかを事前に確認しておくことで、第15次公募の検討材料になります。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「事業承継・M&A補助金(第14次公募)の採択結果が公表されました」(2026年5月15日)
https://seisansei.smrj.go.jp/news/20260515.html
出典:中小企業庁「事業承継・M&A補助金 過去の採択結果」
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/saitaku.html

第三者承継事例:創業300年超の老舗温泉旅館が選んだ道――長崎県・株式会社雲仙湯元ホテル

2018年に株式譲渡契約を締結したこの事例は、中小機構の事業承継・引継ぎポータルサイトに第三者承継事例として紹介されています。

元禄8年(1695年)創業、雲仙の「湯守」役として開業した「湯本旅館」を起源に持つ株式会社雲仙湯元ホテル(長崎県雲仙市)。その13代目当主・加藤宗俊氏は、もともと家業を継ぐつもりはなく、東京で外資系企業に勤めていました。しかし妻・由美氏との話し合いの末、長崎に戻る選択をし、フロントや総務を経て2005年に社長に就任します。

目の前には山積みの課題がありました。売り上げに対して過大な借入金、築40年近くになり耐震工事が必要な建物、団体客の減少。加藤夫妻は懸命に経営改善に取り組みましたが、自らの代での承継先が見当たらないことへの不安は、年を追うごとに大きくなっていきました。

転機となったのは、長崎県事業引継ぎ支援センターへの相談でした。加藤夫妻は、従業員の雇用継続や取引先との関係維持、長崎を拠点とする県内企業への引継ぎなどを主な条件として掲げていました。これらの条件を満たす相手として紹介されたのが、長崎を拠点に冠婚葬祭事業などを展開する株式会社メモリードでした。

当時、長崎県内で7か所のリゾートホテルなどを所有・経営していたメモリードは、人員やノウハウを蓄積しており、九州内の宿泊施設間でスタッフを融通できる体制も整えていました。条件を満たす相手として、2018年5月に基本合意書、同年8月に株式譲渡契約書を締結しました。

この事例からは、譲渡先に求める条件を最初に言語化しておくことが、支援機関とのマッチングを具体化させる出発点になるかもしれません。

出典:事業承継・引継ぎポータルサイト「株式会社雲仙湯元ホテル」第三者承継事例紹介
https://shoukei.smrj.go.jp/case/ca028.html
出典:長崎新聞「雲仙温泉街に復活の兆し 高級志向へ転換 県外企業も 協力と競争で発展なるか」(2018年10月25日)
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=428002368315049057

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代表取締役 高木栄児