5社すべてトラブルなし|M&Aで問題が起きない買い手・売り手双方の秘訣
「M&Aはトラブルが多い」という話はよく聞きます。売り手の経営者にとって、会社を引き渡した後に問題が発生することへの不安は相当なものがあるはずです。
今回は、5社のM&Aを実践してきたSDアドバイザーズ代表・高木に、なぜトラブルが起きないのか、そして売り手・買い手双方が事前にできることは何かを率直に聞きました。語られた答えは、シンプルながら実践的なものでした。
目次
脅威の「5社すべてでトラブルなし」――経営者の顔と交際費の事前チェックが肝
M&Aのトラブルはさまざまな形で起きています。DD(デューデリジェンス:買収前の詳細調査)での想定外の発見、契約成立直前での交渉決裂、従業員との間の摩擦など、仲介業務の現場では「ここを潰しておかないと後で大変なことになる」という場面は珍しくありません。まず単刀直入にトラブルを避けるコツを聞いてみました。
── これまで5社のM&Aを経験されてきて、トラブルはありましたか?
ありました!……といった方が盛り上がるのでしょうが、すいません、ないですね。
── トラブルが起きない秘訣は何でしょうか。
やっぱり意向表明(売り手への買収申し込み)・基本合意(買収条件の合意)の前までにしっかり調査しきっているのは大きいと思っています。後々何か起きそうだなというのは、そこで除外しています。
── 月にどのくらいの案件を見ているんですか。
一日数十件、月の営業日換算で200〜300件ぐらい見ています。累計で数千件は余裕で見ていますね。除外する案件も出てくるので、なるべく入り口を増やしておかないといけないという思いがあります。
── 弾くためのポイントはどこを見ていますか。
まず1番見るポイントは、企業概要書をいただいた時の経営者さんのお顔です。我々と合いそうな雰囲気かどうかを見て、選ばせてもらっています。同じような雰囲気の者同士だとトラブルになりづらいと思っています。
もう一つは決算書の中の交際費の大きさです。うちのグループ全体の交際費をはるかに上回る金額の会社さんって結構あります。当然色々理由があると思うんですけど、我々としてはそこがあまり大きくない会社の方が合っていると思っています。
── 他に見ているポイントはありますか。
細かいものはいろいろあります。売掛金の額が全体の売上と比べて大きすぎる場合などはチェックします。あとは財務状況の透明性という意味では、後述の総勘定元帳を事前に快く出していただけるかどうかも一つの指標になっています。
意向表明前に総勘定元帳を読み込む――専門家に任せきりにならない財務調査を実施
意向表明とは、売り手に対して「この金額で買収したい」という意思を正式に伝えるステップです。多くの買い手がDDに入ってから財務を詳しく確認するのに対し、それよりも前の段階から総勘定元帳(すべての取引を記録した会計帳簿)を自分で読み込んでいます。
── 総勘定元帳は事前に売り手さんに出してもらえるものなのでしょうか。
意外と出してくれます。出しにくいかと思っていたんですけど、出せるということは見られても大丈夫という自信の表れじゃないですか。我々が選んだ方々はむしろ快く出してくれることが多いです。
── それをご自身で読まれるんですか。
いただいたら読み込みます。しかも何回も何回も繰り返し見ます。税理士事務所や会計事務所に任せるんじゃなくて、そこは全部自分で見ます。
── DDの時はどういう役割分担になるんですか。
基本的にはDDで税理士さん・会計士さんに見てもらいます。ただそんな大きい指摘はありませんね。先に自分で見ているので、大論点は出てこないという感じです。それだけ時間をかけて調査していますから。だからこそお断りになった時のショックは相当大きいです。かけている時間が普通の会社の何十倍ぐらいな感じですよね(笑)
── DDで蓋を開けてみて、問題が出たことはありますか。
大きいものが出たことはありません。社会保険料の未納の分があったことが分かって、その金額分だけ譲渡価格から引いてくださいということはありましたけど。そのくらいです。
── 契約直前での交渉決裂や、表明保証違反はありましたか。
どちらもないです。表明保証(M&A契約の際に売り手が「財務諸表に偽りはない」「隠れた債務はない」などを保証すること)については、ともにやっていれば情報がテーブルに上がってくるじゃないですか。後々バレてトラブルになるくらいなら早めに共有した方がいいので、表明保証違反でこうなるというケースがない気がします。従業員への情報開示についても、丁寧に知ってもらうプロセスをやっているので、トラブルになったことはありません。
売り手が今できること――「開示できるきれいな状態をつくること」が大切
トラブルを防ぐのは買い手側だけの話ではありません。売り手が事前にできることも明確にあります。
── 売り手さんが事前にできることはありますか。
売り手さんに言えることは、交際費を抑えておきましょうということです。そういう地道な活動の積み重ねによって、情報開示できるようなきれいな帳簿が作れます。
あとは開示を出し惜しまない姿勢が信頼につながると思います。
── 多少評価が下がることがあっても、先に開示してしまった方がいい、ということでしょうか。
そうですね。後々隠してトラブルになってしまうのはやっぱり大変ですし、かえって交渉も難航する傾向にあると感じます。
──他に売り手が注意することはありますか。
経営者保証(会社の借入金を経営者個人が連帯して保証すること)が解除されるタイミングについては、契約書に「いつ外すか」という日付を明記しておく方がいいと思います。「概ね速やかに外します」という文言で終わることも多いんですけど、日付がないと後々曖昧になることがあります。遅延した場合のペナルティという縛りを入れておくと、売り主さんとしてより安心できます。
おわりに
「できる限りの予防措置を事前にやっておく」ことが、M&Aにおけるトラブルゼロというスタイルを確立してきました。売り手の方にとっては、「情報開示できるきれいな状態を作っておく」ことが大事だということが分かりました。SDアドバイザーズでは、事業承継・M&Aを検討している中小企業の経営者の方々と、こうした丁寧なプロセスで向き合っています。