会社はいくらで売れる 事業承継の価格の決め方
「自分の会社は、いったいいくらで売れるのだろう」。事業承継で第三者へ譲る道を考え始めた経営者の方が、最初に突き当たる問いです。長年育てた会社ほど、値段の見当がつかず不安になるものです。
結論を先にお伝えします。中小企業の譲渡価格に唯一の正解はありません。実務では「時価に引き直した純資産」に「のれん(数年分の利益)」を足した金額を目安に、最後は当事者の交渉で決まります。純資産がゼロに近くても、収益力や取引先しだいで値が付くことは珍しくありません。
本記事は、事業承継で会社の価格がどう決まるのかを、中小企業庁の公的な算定方法にそって整理します。譲り受ける側(当社の立場)が実際にどこを見ているかもあわせてお伝えします。
目次
会社の値段は誰が決める
会社の価格は、どこかに定価があるわけではありません。買い手と売り手が話し合い、双方が納得した金額が「譲渡価格」になります。評価額は、その交渉の出発点となる目安にすぎません。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」も、バリュエーション(=企業や事業の価値を数字で見積もること)で算出した金額がそのまま譲渡額となるわけではなく、交渉などを経て当事者同士が最終的に合意した金額が譲渡額になる、としています(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」令和6年8月)。
「相場」は交渉で動く
同じ売上・同じ利益の会社でも、譲渡価格は一つに定まりません。買い手が「この事業がほしい」と思う度合い、シナジー(=一緒になることで生まれる相乗効果)の見込み、後継者不在の切迫度などで金額は動きます。皆さまの会社を強く必要とする相手ほど、価格は上振れしやすくなります。
譲渡価格と相続税評価は別物
混同しやすいのが、相続税を計算するための「株価」と、M&Aで実際に売買される「譲渡価格」です。前者は財産評価基本通達にそった計算上の金額、後者は市場で買い手が払う金額で、両者は一致しないのが普通です。「相続税の評価額がこの金額だから、売値も同じはず」とは考えないでください。
「必ず高く売れます」と断定的な評価額を提示されても、鵜呑みにしないでください。評価額はあくまで目安で、最終価格は交渉で上下します。相場からかけ離れた高値の提示は、かえって話がまとまりにくくなる原因にもなります。
・会社に定価はなく、譲渡価格は交渉で決まる
・評価額はあくまで交渉の出発点となる目安
・相続税の株価とM&Aの譲渡価格は別物として扱う
価格を出す3つの方法
では、その出発点となる目安は、どうやって出すのでしょうか。会社の価値を見積もる方法は、大きく3つのアプローチに分かれます。中小M&Aガイドラインが紹介している考え方にそって、順に見ていきます。
コスト・マーケット・インカム
1つ目はコストアプローチ(会社の純資産をもとにする方法)、2つ目はマーケットアプローチ(似た会社の取引や株価と比べる方法)、3つ目はインカムアプローチ(将来生む利益から逆算する方法)です。それぞれ見る角度が違うため、出てくる金額も変わります。
3つの方法の特徴を整理すると、次のようになります。中小企業では簡便さから純資産を軸にした方法がよく使われますが、収益力の高い会社ほど利益を反映する評価が向くこともあります。
| アプローチ | 代表的な方法 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| コスト | 簿価純資産法・時価純資産法 | 資産を多く持つ会社 |
| マーケット | 類似会社比較法(EV/EBITDA倍率法=似た会社の「企業価値÷利益」の倍率で当てはめる) | 比較対象が見つかる会社 |
| インカム | DCF法(将来生むお金=キャッシュフローの割引) | 成長が見込める会社 |
中小で多い時価純資産法
中小企業のM&Aで軸になりやすいのが、時価純資産法です。帳簿上の純資産をそのまま使う簿価純資産法に対し、時価純資産法は土地・建物・機械などの資産と負債を時価に引き直し、帳簿にのっていない簿外の資産・負債も反映して純資産を計算します(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2「中小M&Aの譲渡額の算定方法」)。
・価値の見積もりはコスト・マーケット・インカムの3系統
・中小M&Aでは時価純資産法が軸になりやすい
・資産を時価に引き直し、簿外の項目も反映する
時価純資産とのれん
ここで、多くの経営者が意外に感じる点があります。純資産だけでは、会社の本当の価値は測りきれない、ということです。長年かけて築いた取引先や技術は、帳簿に載っていません。この「見えない価値」を価格に足す仕組みが、のれんです。
純資産を時価に引き直す
まず土台となるのが、時価純資産です。含み益のある土地は評価が上がり、回収の難しい売掛金や退職金の未計上分はマイナスに働きます。帳簿の数字をそのまま信じるのではなく、実態に合わせて資産と負債を見直す作業です。ここで会社の「素の価値」が見えてきます。
のれんは利益の何年分か
その素の価値に、収益力を上乗せするのが「のれん」(=ブランドや顧客基盤など数字に表れない超過収益力)です。中小M&Aガイドラインでは、時価純資産に「数年分の営業利益」を加えて譲渡額とする例が示されており、加える年数は一般に1年から3年程度で、事例ごとに交渉で決まるとされています(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」参考資料2)。
おおまかな目安は「時価純資産 + 営業利益の1〜3年分」。同じ純資産でも、利益が安定して伸びている会社ほど、上乗せ年数が増えて価格が高くなりやすい構造です。
お気づきでしょうか。この仕組みは「利益をしっかり出し続けている会社ほど、のれんが厚くなる」ことを意味します。決算を整え、収益力を見えるかたちにしておくことが、そのまま価格の準備になります。
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではなく、自社グループに迎え入れる譲渡先として活動しています。将来的な譲渡・グループインをご検討中の経営者の方からのご相談をお待ちしています。
価格と手数料は別物
価格の話でつまずきやすいのが、「会社の値段」と「手取り」「手数料」を混同してしまうことです。譲渡価格が高くても、税金や費用を差し引いた手残りは別に考えます。ここを分けて理解しておくと、交渉の判断がぶれません。
手取りを左右する税金
株式譲渡で個人の株主が受け取る売却益(譲渡所得)には、原則20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の申告分離課税がかかります(出典:国税庁タックスアンサー)。譲渡価格からこの税と費用を引いた金額が、実際の手取りです。税率や区分は状況で変わるため、一般的な取扱いとしてご理解ください。個別の試算は税理士にご確認ください。
仲介手数料と価格を分ける
M&A支援会社に払う手数料は、会社の価格そのものとは別の費用です。手数料の相場や仕組みは価格の議論と切り分けて把握しておきましょう。
・「価格」「手取り」「手数料」は分けて考える
・株式の売却益は原則20.315%の申告分離課税(一般的な取扱い)
・手数料は価格とは別枠の費用として把握する
赤字でも値は付くか
「うちは利益が薄い。赤字の年もある。それでも値が付くのか」。そう不安に思う方は多いと思います。答えは、条件しだいで値が付くこともあります、です。価格は利益だけで決まるわけではないからです。
利益以外に見る価値
買い手は、目先の利益だけを見て判断しているわけではありません。安定した取引先、有資格者や熟練の従業員、地域での信用、許認可、独自の技術。これらは赤字の会社にも備わっていることがあり、譲り受ける側にとっては大きな価値になります。数字が振るわなくても、事業そのものに引き継ぐ意味があれば、値が付くこともあります。
価値を落とさない見せ方
当社グループの立場から申し上げると、私たち譲り受ける側は、赤字事業を「引き取る」という発想では見ていません。自社だけでは伸ばしきれなかった事業を、より活かせる体制へ託していただく、という受け止め方をしています。そのため、事業の強みが伝わるよう整理されているほど、価値は正しく評価されます。
譲受側は何を見るか
価格の数式だけでは見えてこない部分があります。実際に会社を譲り受ける側が、どこに価値を感じ、なぜ今その判断を急ぐのか。市場の動きとあわせてお伝えします。
数字に表れない強み
譲り受ける側がまず確かめるのは、経営者が抜けた後も事業が回るか、という点です。属人的すぎる営業や、社長個人に依存した取引は、価格を下げる要因になります。逆に、仕組みで回る組織、更新の効く契約、引き継げる人材は、のれんを厚くします。会社を「個人技」から「仕組み」へ寄せておくことが、価値を守ります。
市場データが示す追い風
買い手が動く背景には、市場全体の事情もあります。帝国データバンクの調査では、2025年の後継者不在率は50.1%と、前年から2.0ポイント低下して調査開始以降で最も低い水準になりました(出典:帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。改善は進んでいるものの、なお半数の企業が後継者を決めきれていない計算です。
受け皿となる第三者承継も広がっています。独立行政法人中小企業基盤整備機構によると、事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継(M&A)の令和6年度の成約件数は2,132件と過去最高を更新しました(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構)。譲る側と譲り受ける側が出会う機会は、着実に増えています。
「後継者不在の会社は多いのに、成約も過去最高」。この二つを並べると、買い手が積極的に動いている近年は、時機が整えば条件のよい相手と出会いやすい環境になってきていると読み取れます。あわてて動く必要はなく、準備を整えながら見極めていける状況です。
高く託すための準備
では、少しでも価値を正しく評価してもらうには、明日から何を整えればよいのでしょうか。特別な専門知識がなくても、手元でできる準備があります。
今日から整える資料
価格の交渉は、会社の状態がきちんと説明できるほど有利に進みやすくなります。まずは足元の資料をそろえることから始めてください。
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1
直近3期分の決算書と試算表を、いつでも出せるよう整理する
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2
主要な取引先・契約・許認可を一覧にし、更新時期を書き添える
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3
社長個人が立て替えている貸付金・保証・私的な費用を洗い出す
なお、ここまでは一般的な進め方です。当社(株式会社SDアドバイザーズ)が譲渡先としてどのように会社をお引き受けするかは、当社の事業承継の流れでご覧いただけます(当社グループのご紹介です)。
価格交渉前の3確認
交渉のテーブルに着く前に、次の3点を自分の言葉で説明できるか確認してください。
・自社の強みは何で、買い手にどんな価値をもたらすか
・利益が薄い場合、その理由と改善の余地をどう語るか
・譲れない条件(雇用の維持・屋号・価格の下限)はどこか
価格の考え方まとめ
会社の価格は、時価純資産にのれん(営業利益の1〜3年分)を足した目安をもとに、最後は交渉で決まります。純資産が薄くても、取引先や人材、技術という「見えない価値」が評価されれば、値は付きます。
売値より先に整える準備
大切なのは、金額そのものに一喜一憂する前に、自社の価値を正しく伝えられる状態を整えておくことです。決算を整理し、強みを言葉にし、譲れない条件をはっきりさせる。この準備が、価格にも、その後の引き継ぎにも効いてきます。
「まだ売ると決めたわけではない」という段階でも問題ありません。まず自社がどう評価されるのかを知ることが、次の一歩を選ぶ材料になります。一人で見当をつけようとせず、価値を一緒に見極めるところから始めてみてください。
私たちは仲介者ではなく、お迎えする側です。経営者様のお考えと、私たちのグループとの相性を、一緒にじっくり見極める時間を大切にしています。
私たち4040 VISIONは、M&A仲介・アドバイザリー会社ではありません。事業を譲り受ける側として、ともにグループの未来を築く経営者の方をお迎えしています。
「どのような会社にバトンを渡すべきか」を検討されている段階でも、一度お話を聞かせてください。譲渡を急かすことはいたしません。
・中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」令和6年8月(参考資料2「中小M&Aの譲渡額の算定方法」を含む)https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
・帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
・独立行政法人中小企業基盤整備機構「令和6年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(令和7年5月30日公表)https://www.smrj.go.jp/press/2025/f7mbjf000000dnpt-att/20250530_press01.pdf
・国税庁タックスアンサー(株式等の譲渡所得・申告分離課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。
「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。
※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。