PMIの成否は初動で決まる|初期5ステップの実践手順
M&A(会社の合併・買収)・事業承継が成立した後、PMI(Post Merger Integration:統合プロセス)の中で最も重要なのは「最初」の動き方です。社員との信頼関係を築けるかどうかは、この初期段階の進め方にかかっています。世の中ではなかなか詳しく語られていないこの部分を、SDアドバイザーズ代表の高木にインタビューしました。
PMI初動のステップを、どんな順番で、どんな内容で、どんな工夫を持って進めているのか。実践のリアルをお届けします。
目次
PMI初期の全体像――最初の1ヶ月でやること
PMIの初期段階は、大きく5つのステップで構成されています。まずこの全体の流れを把握した上で、各ステップの詳細を見ていきます。

── 従業員への情報開示を進める時の手順を教えてください。
まず最初にやるのは、全社員に集まっていただいての全体説明会です。その中で私の自己紹介と、SDアドバイザーズの会社説明をします。次に個別面談やグループ面談を行い、そして懇親会という流れですね。
当グループの詳細な進め方はこちら
── この流れで必ず進めるんですか。順番が変わることもありますか。
順番は前後することがあります。説明会の中で雰囲気が悪くない場合は、そのまま飲みに行こうかという流れになることもありますね。全社員が緊張している場の中でこちらが説明して、「質問をどうぞ」と言っても出てこないじゃないですか。だからリラックスした雰囲気の中で質疑の場を作ることが、こちらのことを理解してもらう上でとても大切だと思っています。ただ、いきなり「飲みに行きましょう」と言っても、社員の大切なプライベートの時間をいただくことになりますから、そこは慎重に考えています。
STEP0:説明会の前にやること――売り主さんとの事前すり合わせ
説明会を開く前に欠かせないのが、売り主さんとの事前確認です。社員が何を不安に思っているかを把握した上で臨むことが、説明会の質を大きく左右します。
── 説明会をするにあたって、売り主さんと事前にすり合わせはされるんですか。
はい。社員の方が気にしているポイントはいろいろあると思うので、説明会の中でできる限りそこに触れられるよう、事前に確認しておきます。
── 売り主さんから上がってくる「気にしていること」には、どんなものがありますか。
よくあるのは、「長年続けてきた特定の事業を、今後も継続してほしい」という話です。長年その事業に携わってきた社員もいるわけですから、仕事がなくなってしまうのではないかという不安は相当大きいと思います。会社の利益だけを優先してドライに合理化するだけでは、長年頑張ってきてくれた方々への敬意を欠くと思っています。とにかく会社の環境を急激に変化させないというスタンスをお伝えしています。
STEP1:全体説明会――「お前は何者だ」からのスタート
全体説明会は、社員にとって初めて新しい経営者と対面する場です。社員は何も知らない状態で来ることがほとんどで、場の空気は決して和やかではありません。だからこそ、何を・どの順番で・どう伝えるかが重要になります。
── 説明会のアジェンダを教えてください。
まず最初に私の自己紹介です。「お前は何者だ」という状態ですから、まず私自身のことを話します。次にSDアドバイザーズという会社の紹介。そして、なぜ今回この契約成立に至ったのか、どういう思いでやっているのか、ということをお話しします。
── 「なぜこの会社を迎えたのか」という部分は、会社ごとに変わりますか。
変わりますよ。ここが大切だと思っています。社員の方は不安な中にいますが、その中でも「この会社のことを良いと思ってアプローチしてくれた」ということが伝わると、心が開くきっかけになると思います。
── その後は何をお話しされますか。
場合によっては、今後会社をこうしていきたいという将来の話をすることもあります。ただ、これは言わない場合もあります。「会社の環境を変えてしまうのでは」と受け取られる可能性があるので、その会社の状況や雰囲気を見ながらの判断です。事前に売り主さんと話して決める場合もありますし、社員の構成によっても変わりますね。若い方が多い会社だと、将来こういうことを考えていますよと話してあげた方が希望を持てると思います。一方でベテランの方が多い場合は、慎重に判断します。
── 最後に質疑応答も入りますよね。質問は出ますか。
あまり質問は出ません。社員の方からすれば様子見の状態ですし、みんなの前で質問できる雰囲気でもないですよね。静かで、少し緊張した場になります。説明会は1時間くらいで、「高木という人間はどういうやつなんだろう」と様子を見る会という感じです。社員の方は何も知らない状態で来るわけですから、最初は「乗っ取られるのか」「首にされるのか」というネガティブなイメージを持つのが普通だと思います。だからこそ、まず自己紹介をして、こちらのことをきちんと知ってもらうことが大切なんです。
STEP2:個別面談――全社員と、30分〜1時間向き合う
説明会から1〜2週間以内に始める個別面談は、説明会で聞けなかった本音に近づくための場です。質問はほとんど出ないことを前提に、どう時間を使うかが問われます。
── 個別面談ではどのような流れで進めますか。
こちらから事前に用意した質問を投げかけるというよりは、「説明会の内容について何か気になることや質問はありますか」という形で進めます。ただ、質問はほぼ出ないですね。まだびっくり状態が続いている感じで、受け止め中という感じです。なので、説明会の内容についての質問が出なければ、趣味や仕事以外のパーソナルな話に触れるようにしています。事前に売り主さんからインプットをもらっているので、その方の興味関心に合わせた話題を用意しています。15分で終わってしまうのはもったいないですから、30分から1時間くらいは時間をとりますね。
── 全社員と個別で面談するんですか。社員数が多いと大変ですよね。
パンパンに詰め込んでやることになりますね。ただ、きちんとやるべきことだと思っています。また、売り主さんとの相談で形式は柔軟に変更します。小グループで話をしたり、食事会の場でやったりと工夫をしています。大事なのは説明会から期間を空けないことです。1週間~2週間後にはスタートして、説明会を受けてどう感じたか生の感触を聴き取ります。
STEP3:懇親会――フランクな場で質問を出しやすくする
懇親会は、説明会・個別面談とは違い、よりフランクな場として設けます。決まったアジェンダはありません。また、規模感や形式は状況に合わせて柔軟に変えています。
── 懇親会ではどんなことをされていますか。
できる限り気楽に、みんなで楽しく食事や飲み会ができればいいという感じで考えています。アジェンダが決まっているわけではないのですが、必ず確認するのは「説明会や個別面談の中で気になっていること、私に聞いてみたいことはありますか」というところですね。個別面談でも同じことを聞いていますが、場を重ねるごとに少しずつ質問が出てくるようになります。
── 懇親会の規模感や形式はどのようにされていますか。
参加者に合わせて形式を変えています。少人数のグループに分けてやることもありますし、全員でやることもあります。部門やチームごとに分けることが多いですね。昼の食事の場合もありますし、夜の飲み会の場合もあります。SDアドバイザーズ側の参加者についても、私だけのこともあれば、社員が参加するケースもあります。
── SDアドバイザーズの社員が参加するのはどういう使い分けですか。
社員が現場を見ているので、現場の話を聞きたい場合などは参加してもらった方がいいですね。どんなプロジェクトをやっているんですかという話になったとき、より具体的な話ができますから。
懇親会以降――コミュニケーションを途切れさせない仕組み
説明会・個別面談・懇親会という初期の3ステップが終わった後も、コミュニケーションを継続させる仕掛けが必要です。ここからは各社の状況に合わせて、さまざまな取り組みを重ねていきます。
── 懇親会が終わった後は、どのようにコミュニケーションを続けていくんですか。
できる限り一緒に仕事できるようなコミュニティをつくったりしますね。たとえば「今後の会社を考える会」のような会議を立ち上げることもあります。もっと前に出ていきたいという社員たちを集めて、そういう場を作っていくんです。
また、グループ間の交流会・勉強会・研修会なども仕掛けていきます。グループ内のSNSに参加してもらって、他の社員たちがどんな活動をしているかを見てもらうのも大切にしています。コミュニケーションが途切れないようにすることが何より大事で、会話がなくなってしまうと信頼関係も育っていかないですから。
── 懇親会以降の仕掛けは、会社によって変わりますか。
変わりますね。その会社を見ながら、どういうコミュニティを作っていくかを考えています。変わりたくないという社員も当然いますが、そういう方も無理に引っ張るわけではなく、普通に会話を続けていきます。チャレンジしたい人が手を伸ばせる場を用意しておくというイメージですね。
グループに同じ立場の社員が他にもいるというのも大きくて、先にグループへの合流を経験した先輩社員に話を聞けるという環境が安心感につながっていると思います。これまでに4社グループに入られているからこそ、そういう環境を作れているんですよね。
── 1年くらいかけてじわじわと変化が出てくるという流れですか。
そうですね。社員たちが「こういう人たちがいるんだ」「こういう考え方を持った会社なんだ」というのが時間の中でわかってきます。1ヶ月で初期の3ステップが終わり、そこから各社に合わせてさまざまな仕掛けを続けて、1年後くらいに少しずつ変化が出てくるという流れです。
おわりに
PMIにおいて、最初の説明会・個別面談・懇親会という場は「決して楽しいばかりの場ではない」です。それでも、そこをきちんと通過することで、お互いのことがわかってくる。その後の統合プロセス全体を左右する、大切な場です。SDアドバイザーズでは、事業承継・M&Aを検討している中小企業の経営者の方々とともに、こうした丁寧なプロセスでPMIに取り組んでいます。