事業承継後に企業価値400%・営業利益800%超|4社のM&AとPMIの実態
M&A(会社の合併・買収)が成立した後、最初に立ちはだかる壁は数字ではなく「人」です。譲渡された会社の社員にとって、新しい経営者は突然現れた見知らぬ存在です。その関係をどう築いていくかが、PMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)の成否を分けます。
SDアドバイザーズ代表の高木は、現在4社のグループ経営を実践しており、各社とのPMIに正面から向き合ってきました。今回は、M&A前の各社の状況から、信頼関係の築き方、成長へのプロセスまで、その実践をインタビュー形式でお届けします。
目次
M&A前の各社はどんな状況だったか――事業承継の現場にあった共通の課題
SDアドバイザーズのグループには現在、株式会社オーシャン・コンサルティング、株式会社コウイクス、フジサービス株式会社、株式会社ゲイターズの4社が加わっています。M&A前の各社の状況についてインタビューをしました。
── グループに迎える前、各社はどのような状況でしたか。
業績面については、どの会社も昔から着実に積み上げてこられた会社という印象でした。ベンチャーのように急激に成長しているというよりは、安定的な売上を長年積み重ねてきた会社ですね。
── 各社でそれぞれ違いはありましたか。
大きな違いはあまりなかったですね。雰囲気という点では、代表者の方の人柄を見て、穏やかで落ち着いた感じの会社だなと感じていました。SNSで社内の雰囲気を発信してくれていた会社もあって、そういったところからも社風が伝わってきましたね。
── 課題はありましたか。
安定的な売上というのは、裏を返せば売上が勢いよくは伸びていなかったということでもあります。そこを、我々の経営ノウハウや人材を活用しながら、もっと成長させていけるんじゃないかという思いはありました。また、各社に共通していたのが後継者不足です。まさに日本の中小企業が抱える課題のど真ん中で、いわゆる事業承継のタイミングでした。歴史があって安定している会社が、SDアドバイザーズと一緒にやることでさらに成長できる。そういう可能性を感じていましたね。
今回ご紹介した各社については、こちらからご覧いただけます。
▼ 株式会社オーシャン・コンサルティング
https://www.oceanc.jp/
▼ 株式会社コウイクス
https://coex.co.jp/
▼ フジサービス株式会社
https://www.fuji-serv.com/
マイナスからのスタート――M&A後に社員との信頼関係を築くプロセス
M&Aが成立しても、その情報が現場の社員に届いていないケースがほとんどです。社員も自分もお互いに不安な中で、どうやって信頼を築いていくのか。M&A後の統合プロセスで実践している具体的なアプローチを聞きました。
── M&Aの成立は、譲渡企業の社員に事前に伝わっていましたか。
正直、ほとんど伝わっていなかったと思います。経営に近い一部の方々は話を聞いていたかもしれませんが、多くの社員の方は全く知らない状態でした。説明会の場でも、実際に話を聞いた社員は「すごくびっくりした」と話していました。何が始まるんだろうという状況の中、不安しかなかったと思います。
── M&A後、社員との信頼関係はどのようなプロセスで築いていきますか。
まず、契約成立後すぐに社員全員に集まっていただいて、全体説明会を行います。その後、個別面談を実施したり、グループでの懇親会、食事会、飲み会といった場を設けたりします。そういった取り組みを重ねていきますね。我々はマイナスからのスタートですから、まず0にしたい、というところから始まります。中には最初からファイティングポーズを取られている方もいらっしゃいます。もし自分が社員の立場だったら、同じようになると思いますよ。
── 個別面談や懇親会はどれくらいのスパンで実施しますか。
全体説明会の後、個別面談はわりとすぐに始めます。2週間後くらいには動いている感じですね。全体説明会ではなかなか質問できないじゃないですか。こちらから「質問はありますか」と言っても、当然その場では出てこないんです。なので、個別面談や食事会といった距離の近い場を通じて、もう少しフランクに質問してもらえるようにしています。顔を合わせて、話して、知ってもらうことで初めて信頼関係が築けると思っています。
事業承継の流れはこちら
急激な変化をさせない――PMI成功のために最も意識していること
信頼関係づくりと並んで、PMIで一貫して大切にしてきたことがあります。それは「変えない」という約束です。なぜ変えないのか。その考え方に迫ります。
── PMIを進める上で、信頼関係づくり以外に特に意識していることはありますか。
一番意識しているのは、会社の環境を急激に変化させないという点です。M&A後に環境を急激に変えてしまうと、社員からの反発が起きやすいんです。いい方向に変えるとしても、時間をかけて変えていく方が反発は少ないです。たとえば、すぐに親会社のルールに合わせてしまうと、社員にとって何もいいことがないですから。
── 変化させていないのに業績は伸びていますよね。どういうことでしょうか。
業績面で改善している部分はもちろんあります。ただ、社員が直接関わる環境や待遇面といったところは本当に変えていません。変えない約束をして、実際に守るということが大切です。逆にもし変えた方がいいと判断する場合は、最初から「この部分は変えさせてください」とお伝えした上で進めますね。ただ、ほとんどの会社には、着実にやってきただけあって変えなくても成立する基盤があるんです。その基盤をそのまま活かしながら成長していけます。
しんどくても続ける理由――PMIの原動力となる「ある瞬間」
社員も自分もお互いに不安な中で、4社にわたってM&Aを繰り返してきました。その原動力はどこにあるのか。今までを振り返りながら語ります。
── PMIを進める中で、しんどいと感じることはありますか。
心が折れそうということはないですが、やはり大変ではあります。初めてM&Aをして社員全員の前で挨拶をするときはやはり怖いです。小学生のとき、お父さんの仕事の都合で転校した経験がある方はわかると思います。みんなすでに仲良しのクラスに、自分だけ飛び込んで挨拶をするあの雰囲気です(笑)
── でも、何度もM&Aをされていますよね。続けられる原動力は何ですか。
長い時間をかけてPMIをやっていくと、社員との信頼関係が築かれていきます。そうするとある瞬間、今まで完全にアウェーだった雰囲気が、「あれ、なんか一緒にやれてるな」と変わる瞬間があるんです。不思議なことにそのタイミングで、会社の財務状況もどんどんよくなっていくんですよね。お金に換えられないくらいの喜びがそこにあります。そうなるまでのプロセスが楽しいんです。それを経験してしまうと、またやりたくなります。
── 一体感が出てくるまで、どれくらいの時間がかかりますか。
少なくとも1年は必要だと思います。最初は私が主体で動く必要があるんですが、それがある時「あれ、社員が主体で動いている」と気づくタイミングがきます。その瞬間がなんとも言えなくて、楽しいんです。そうなるまで正直不安ですが、ポーカーフェイスで臨むようにしています。バレたら余計不安にさせてしまいますから。次にグループに加わる会社の社員の方々、優しくお願いします(笑)
グループ各社の現在――PMIを経て数字はどう変わったか
信頼関係の構築と急激な変化を避けるアプローチは、実際の業績にどう表れているのか。各社の現状と、数字以外の変化についても聞きました。
── 現在の各社の状況を教えてください。
株式会社オーシャン・コンサルティングについては、グループインしてから企業価値が400%以上、営業利益が800%以上に成長しています。正直、最初はこんなに伸びるとは思っていませんでした。社員が頑張ってくれた結果です。グループ全体では企業価値が200%以上、営業利益は500%以上に増加しています。
事業承継後の実績はこちら
── 数字以外で変わったことはありますか。
グループ内で会社の垣根を越えて人材の異動があって、それがクライアントへの信頼にもつながります。やはり各人の強みやスキルを活かした方が質の高い仕事ができます。また人材の異動だけでなく、商材についても別のグループ会社のお客様に販売するといった活動も行っています。一社だけが成長するのではなく、グループ全体で伸ばすのが私たちのスタイルです。M&Aを検討する段階から、この会社にこういう強みがあるならグループの中でこう活かせるんじゃないかというのを意識していますね。
PMIで成長を加速させる2つの柱――教育環境とチャレンジできる仕組み
業績の向上は、どのような取り組みによってもたらされているのでしょうか。PMIを通じて特に力を入れてきた2つのポイントを聞きました。
── PMIを通じて、具体的にどこを見て成長させてきましたか。
大きく2つあります。1つ目は社員の教育環境を整えること、2つ目は社員がチャレンジできる環境を整えることです。今のレベルよりも一つ上のレベルでのチャレンジをしてもらうようにしていて、現場責任者がそれを担ってくれています。チャレンジの積み重ねが成長を加速させていくんです。ただ、そのためにはクライアントとの信頼関係と、失敗してもリカバリーできる体制を整えておくことが前提になります。
── 社員がチャレンジしたくなるような仕組みはあるんですか。
事業承継のタイミングでは、いいきっかけになると感じてくれる社員もいます。一方で、変わりたくないという方もいますが、それはそれでいいと思っています。10人いたら1人か2人はやってみようという気持ちになってくれればいいんです。いろんなチャレンジの選択肢を用意して、やりたい人が手を伸ばせるようにしておく。グループにさまざまな仕事があること自体も、その選択肢の広さにつながっています。
── チャレンジする社員が増えると、会社全体にも影響がありますか。
チャレンジする人が増えてくると、グループ全体の雰囲気にも波及して、だんだんチャレンジしようという空気が生まれていくんです。一人の行動が周りを動かしていく。そういう好循環が生まれていくのが、グループ経営の醍醐味だと思っています。
おわりに
M&A後のPMIは、財務や法務の話だけでは語れません。SDアドバイザーズはM&Aにあたって、急激な変化を避けながら、1年という時間をかけてゆっくりと一体感を育てていきます。SDアドバイザーズでは、事業承継・M&Aを検討している中小企業の経営者の方々とともに、こうした長期的な視点でグループ経営に取り組んでいます。