借金がある会社でも売れる?包括承継・特定承継の違いと選び方を解説

「うちの会社には借金があるけれど、それでも売れるのだろうか」——そう思われている経営者の方は、決して少なくありません。

事業承継やM&Aを検討し始めたとき、「包括承継」「特定承継」という言葉に出会い、どちらが自社に向いているのか迷われる方も多いのではないでしょうか。また、「不採算部門は残して、稼ぎ頭の事業だけ売ることはできるのか」というご質問も、よくいただきます。

この記事では、借金がある会社でも事業承継・M&Aを前に進められる仕組みと、「会社ごと売る方法(包括承継)」「事業だけ売る方法(特定承継)」の違いを、専門用語をできるだけ使わずにわかりやすく解説します。どちらの方法が自社に合っているかの判断基準も、具体的にお伝えします。

「包括承継」「特定承継」とは何か

事業承継やM&Aの手続きを調べると、「包括承継」「特定承継」という法律用語に出会うことがあります。難しく聞こえますが、経営者の方に知っていただきたいのは次の2点です。

包括承継(株式譲渡)—会社をまるごと引き継ぐ方法

包括承継とは、会社の株式をまとめて買い手に譲渡することで、会社そのものを引き継いでもらう方法です。実務では「株式譲渡」と呼ばれます。

株式譲渡では、会社が持っているすべての資産(建物・機械・売掛金など)だけでなく、借入金や買掛金などの負債も含めて、買い手に引き継がれます。会社の法人格(=会社としての権利義務の主体)がそのまま続くためです。

📌 ポイント
包括承継(株式譲渡)とは、「会社の株式を買い手に渡すことで、会社ごと引き継いでもらう」方法です。資産も負債もまとめて引き継がれます。

特定承継(事業譲渡)—事業の一部または全部を売る方法

特定承継とは、会社が持っている事業や資産のうち、売り手と買い手が合意した部分だけを選んで譲渡する方法です。実務では「事業譲渡」と呼ばれます。

事業譲渡では、どの資産を引き渡すか、どの負債を引き継いでもらうかを、契約の中で一つひとつ決めることができます。会社の法人格はそのまま売り手に残るため、譲渡後も会社(器)は存続します。

📌 ポイント
特定承継(事業譲渡)とは、「事業の一部または全部を選んで売る」方法です。どの資産・負債を引き継ぐかを、契約で個別に決められます。

借金がある会社でも売れる理由

「借金があるから売れないだろう」とあきらめている経営者の方は多いですが、それは必ずしも正しくありません。方法によっては、負債を整理しながら事業を引き継いでもらうことが可能です。

株式譲渡の場合—借金ごと引き継いでもらえる

株式譲渡では、借入金も会社の一部として買い手が引き継ぎます。ただし、買い手にとっても借金は引き受けることになるため、売却価格に影響する点は理解しておく必要があります。

買い手は、会社の資産価値(純資産)から負債を差し引いた金額を基に、企業価値を判断します。つまり、借金があるからといって「売れない」わけではありませんが、借金の規模や内容によって、成約価格が変わってきます。

また、経営者個人が会社の借入に個人保証(=経営者自身が連帯して返済を保証すること)をしている場合は、株式譲渡後にその保証をどう扱うかが交渉の焦点になります。近年改訂された「経営者保証に関するガイドライン」では、承継を機に個人保証の解除や移行が認められるケースが整備されており、事前に金融機関と相談することが重要です。

事業譲渡の場合—借金を切り離して事業だけを売れる

事業譲渡では、負債は原則として売り手の会社に残ります。買い手が特定の負債を引き受けることに合意しない限り、借金を切り離した形で事業を売ることが可能です。

たとえば、黒字部門の事業だけを買い手に売り、残った会社(法人格)で負債を処理するという選択肢が生まれます。ただし、その後の負債処理をどうするかは売り手が責任を持って対応する必要があります。

📋 この章のまとめ
・株式譲渡:借金ごと引き継いでもらえるが、売却価格に影響する
・事業譲渡:借金を切り離して事業だけを売ることが可能
・個人保証については、経営者保証ガイドラインの活用を事前に検討すること

包括承継(株式譲渡)のメリット・デメリット

中小企業のM&Aで多く活用されている方法が、株式譲渡(包括承継)です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、株式譲渡は中小M&Aにおける代表的なスキームの一つとして紹介されています。

株式譲渡のメリット

下表は、株式譲渡(包括承継)の主なメリットを整理したものです。

メリット 内容
取引先・契約がそのまま続く 会社の法人格が変わらないため、取引先との契約や許認可が原則そのまま引き継がれます
従業員の雇用がそのまま続く 労働契約は会社に帰属するため、従業員は個別の同意なく自動的に引き継がれます
手続きが比較的シンプル 株式を移転するだけなので、資産・契約の個別移転手続きが不要です
譲渡益への課税が明確 売主が個人の場合、株式の譲渡益に対して申告分離課税(=他の所得と分けて確定申告する課税方式。税率は約20.315%)が適用されます

株式譲渡の注意点

株式譲渡には、経営者が事前に把握しておくべきリスクもあります。

⚠️ 注意
負債も含めて引き継がれるため、買い手は精密な財務調査(デューデリジェンス=買い手が売り手の企業内容を詳しく調査すること)を実施します。簿外債務(=帳簿に記載されていない負債)が後から発覚した場合、売り手が賠償責任を負う可能性があります。
・過去の税務リスク・訴訟リスクなども買い手に移行するため、表明保証条項(=売り手が会社の財務・法務状態を保証する契約条項)の内容の確認が重要です。

特定承継(事業譲渡)のメリット・デメリット

事業譲渡(特定承継)は、売りたい部分だけを柔軟に選べる方法として、一定の場面で有効です。

事業譲渡が有効な状況

下表は、事業譲渡(特定承継)が選択肢になりやすい状況の例です。

自社の状況 事業譲渡が有効な理由
借金が多く株式譲渡が難しい 負債を会社に残し、収益事業の部分だけを売ることができます
特定の事業だけを手放したい 複数の事業を持つ会社で、一部の事業だけを売ることが可能です
過去の問題を引き継がせたくない 引き継ぐ範囲を契約で限定できるため、買い手のリスクを低減できます

事業譲渡の注意点

事業譲渡には、株式譲渡にはない手続き上の負担があります。

⚠️ 注意
・取引先との契約は会社(法人格)ではなく「事業」に紐づいているため、取引先との契約を個別に引き継ぐ手続きが必要になります。取引先の承諾が得られない場合、契約が引き継がれないリスクがあります。
・従業員も自動的には移転せず、一人ひとりの同意と新たな雇用契約が必要です。
・資産の種類によっては消費税が課税される場合があるため、税理士による事前シミュレーションが重要です。

「まずは話だけ聞いてみたい」という方も大歓迎です。

4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。

👉 無料相談・お問い合わせはこちら

「稼ぎ頭の事業だけを売る」ことは可能か

「不採算部門は残して、収益の出ている事業だけ売りたい」——そう考える経営者の方も少なくありません。これは、事業譲渡(特定承継)を使えば実現できる場合があります。

事業の一部だけを売るケース

複数の事業を営んでいる会社の場合、特定の事業部門の資産・契約・在庫などを選んで、買い手に譲渡することが可能です。

たとえば、「建設部門は売る、不動産管理部門は残す」「飲食事業は売って、食品卸事業は続ける」といった形で、事業単位で引き継ぎ先を探すことができます。

ただし、事業ごとに資産や人員、取引先が複雑に絡み合っている場合、切り分けの整理に時間がかかることがあります。税理士・弁護士・M&Aアドバイザーと事前に相談しながら進めることが重要です。

従業員はどうなるか

事業譲渡の場合、従業員は「会社」ではなく「事業」に紐づいていないため、原則として自動的には移転しません

買い手側の会社に移籍してもらうためには、従業員一人ひとりの同意が必要です。また、雇用条件(給与・役職など)についても、新しい会社との間で改めて合意を取ることになります。

一方、株式譲渡(包括承継)の場合は、従業員の労働契約はそのまま引き継がれます。「従業員の雇用を守りたい」というお気持ちが強い場合は、株式譲渡の方がスムーズなケースが多いといえます。

📋 この章のまとめ
・一部事業だけを売ることは、事業譲渡(特定承継)で可能
・ただし取引先との契約・従業員の移転は個別対応が必要
・従業員の雇用を守りたいなら、株式譲渡の方が手続きはシンプル

どちらの方法が自社に向いているか

「包括承継(株式譲渡)」と「特定承継(事業譲渡)」のどちらが向いているかは、会社の状況によって異なります。以下の判断基準を参考にしてみてください。

負債・個人保証の観点から考える

下表は、自社の状況別に向いている方法を整理したものです。

自社の状況 向いている方法
負債が少なく、会社全体を売りたい 株式譲渡(包括承継)
借金が多く、事業だけ売りたい 事業譲渡(特定承継)
個人保証を外したい 株式譲渡+経営者保証ガイドライン活用
特定の事業部門だけを手放したい 事業譲渡(特定承継)

取引先・許認可の観点から考える

取引先との長年の関係や、従業員の雇用の継続性を最優先に考える場合は、株式譲渡(包括承継)が有利なことが多いです。

特定の許認可(建設業許可・飲食店営業許可など)が事業の核となっている場合、株式譲渡であれば許認可もそのまま引き継がれるケースがあります。ただし許認可の種類によって異なるため、専門家への確認が必要です。

📌 ポイント
どちらの方法が向いているかは、負債の状況・従業員数・取引先との関係・許認可の有無など、複数の要素が絡み合います。一つひとつの条件を税理士・弁護士・M&Aアドバイザーと一緒に整理することをおすすめします。▶ 事業承継の流れについて詳しくはこちら

まず何から始めるべきか

「包括承継と特定承継の違いはわかった。でも、自分の会社にはどちらが向いているかわからない」——そう感じる方がほとんどではないでしょうか。

相談前に揃えておくべき書類

いずれの方法を選ぶにしても、事業承継の相談を始める前に最低限の書類を手元に揃えておくと、専門家との相談がスムーズになります。

  • 1

    直近3期分の決算書(貸借対照表・損益計算書)

  • 2

    株主名簿(誰がどれだけ株式を持っているか)

  • 3

    主要な取引先との契約書の概要

  • 4

    借入一覧と個人保証の有無

まずは相談窓口を活用する

国が設置した「事業承継・引継ぎ支援センター」では、全都道府県で無料の相談を受け付けています。「自社にどちらの方法が向いているか」「まず何をすればよいか」という初歩的な疑問も、気軽に相談できる公的機関です。

また、民間のM&Aアドバイザーに相談する際も、方法の違いを事前に理解しておくことで、より的確なアドバイスを引き出せます。

実際の承継事例については、SDアドバイザーズの実績・事例紹介ページもあわせてご覧ください。

✅ 実践ポイント
①まず直近3期分の決算書と借入一覧を手元に用意する
②「事業承継・引継ぎ支援センター」か顧問税理士に初回の方針相談をする
③方法の絞り込みが終わったら、民間M&Aアドバイザーへの相談を検討する▶ SDアドバイザーズの実績・事例紹介はこちら

「借金があるから無理」と決めつける前に、一度話を聞いてみてください。

方法の違いを知るだけで、会社の未来の選択肢が大きく広がります。専門家との一度の相談が、大きな気づきになることも少なくありません。

「まずは話だけ聞いてみたい」という方も大歓迎です。

4040 VISIONでは、事業承継・M&Aに関する無料相談を随時承っております。ご状況を丁寧にお伺いした上で、最適な選択肢をご提案いたします。

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監修:株式会社SDアドバイザーズ 事業承継グループ
私たちSDアドバイザーズ事業承継グループは、外部の企業にM&Aをご支援するコンサルタントではありません。
自社自身が事業承継・M&Aを積極的に活用し、グループ企業を拡大していく譲渡先として活動しています。「40人の社員がいる会社を40社つくる」というビジョンのもと、実際に譲渡企業の経営者様と向き合い、ともにグループの未来を築いてきた経験と実績が、このコラムの情報の裏付けとなっています。

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※ 税務・法務の個別案件については、必ず税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況によって異なる場合があります。

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代表取締役 高木栄児