M&A用語集 - 価格・評価
M&Aの価格算定・企業評価について解説します
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DCF法(Discounted Cash Flow)
DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する手法です。M&Aにおいて最も理論的で広く使用される評価方法で、事業計画の妥当性と割引率の設定が重要です。将来の成長性を反映できる利点がありますが、前提条件により結果が大きく変動するため、複数シナリオでの検証が必要です。
企業価値 = Σ(FCF ÷ (1+r)^n) + TV ÷ (1+r)^n
FCF: フリーキャッシュフロー、r: 割引率、TV: 終価値
FCF: フリーキャッシュフロー、r: 割引率、TV: 終価値
DCF法の計算プロセス
事業計画
5-10年
5-10年
→
FCF予測
営業CF-投資CF
営業CF-投資CF
→
割引率算定
WACC
WACC
→
現在価値
企業価値
企業価値
マルチプル法(類似企業比較法)
マルチプル法は、類似上場企業の株価指標を用いて企業価値を算定する相対評価手法です。EV/EBITDA倍率、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの倍率を適用します。簡便で客観性が高く、市場の評価を反映できる利点があります。適切な類似企業の選定と、事業特性や成長性の差異調整が評価精度の鍵となります。
主要なマルチプル指標
| 指標 | 計算式 | 特徴 | 適用業種 |
|---|---|---|---|
| EV/EBITDA | 企業価値÷EBITDA | 資本構成の影響を排除 | 全般 |
| PER | 株価÷EPS | 収益力重視 | 成熟企業 |
| PBR | 株価÷BPS | 資産価値重視 | 金融・不動産 |
| PSR | 時価総額÷売上高 | 成長性重視 | IT・新興企業 |
💡 マルチプル選定のポイント
- 業界特性に応じた指標選択
- 複数指標による総合評価
- 異常値の除外と中央値の活用
- 成長率・利益率の差異調整
純資産法(コストアプローチ)
純資産法は、企業の資産から負債を差し引いた純資産額を基準に企業価値を評価する手法です。簿価純資産法と時価純資産法があり、M&Aでは含み損益を反映した時価純資産法が一般的です。客観性が高く理解しやすい反面、将来の収益力を反映しにくい欠点があります。清算価値の把握や下限価格の設定に有用で、他の手法と併用されます。
純資産法の種類と特徴
簿価純資産法
帳簿価額ベース
帳簿価額ベース
→
時価純資産法
時価評価調整
時価評価調整
→
修正純資産法
営業権加算
営業権加算
EBITDA(イービットディーエー)
EBITDAは、税引前利益に支払利息と減価償却費を加算した利益指標で、企業の本業での稼ぐ力を示します。国際比較や異なる資本構成の企業間比較に適しており、M&Aの企業価値評価で重要な指標です。キャッシュフロー創出力の代理指標として、EV/EBITDA倍率の算定基準となります。営業利益に近い概念ですが、より実態を反映します。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費
または
EBITDA = 税引前利益 + 支払利息 + 減価償却費
または
EBITDA = 税引前利益 + 支払利息 + 減価償却費
💡 EBITDAマージン業界別目安
- 製造業: 10-15%
- 小売業: 5-10%
- IT・ソフトウェア: 20-30%
- 通信: 30-40%
のれん(Goodwill)
のれんは、M&Aにおいて買収価格が対象企業の純資産を超過する部分で、ブランド価値、顧客基盤、技術力などの無形資産価値を表します。日本基準では20年以内で償却、国際会計基準では非償却で毎期減損テストを実施します。過大なのれんは将来の減損リスクとなるため、買収価格の妥当性検証が重要で、PMI成功の成否を左右する要素です。
のれん = 買収価格 - 純資産時価
のれんの構成要素
- ブランド価値
- 顧客基盤・取引関係
- 人的資源・組織力
- 技術・ノウハウ
のれんのリスク
- 減損による巨額損失
- ROE低下要因
- 統合失敗時の負担
- 株価下落圧力
企業価値(EV:Enterprise Value)
企業価値(EV)は、企業全体の経済的価値を示す指標で、株式時価総額に純有利子負債を加えた金額です。M&Aの買収価格算定の基礎となり、企業間比較やマルチプル分析で使用されます。事業価値と非事業資産価値の合計であり、資本構成に左右されない企業の本源的価値を表します。DCF法による理論価値との比較により、買収価格の妥当性を評価します。
EV = 株式時価総額 + 純有利子負債
= 株式時価総額 + 有利子負債 - 現預金
= 株式時価総額 + 有利子負債 - 現預金
企業価値の構成要素
事業価値
営業資産
営業資産
+
非事業資産
余剰現金等
余剰現金等
=
企業価値
(EV)
(EV)
→
株式価値
+負債価値
+負債価値
株式価値(Equity Value)
株式価値は、企業の株主に帰属する価値で、企業価値から純有利子負債を控除した金額です。M&Aにおける株式の買収価格算定の直接的な基準となります。一株当たりの価値を算出し、プレミアムを加味して買収価格を決定します。市場株価、DCF法、類似企業比較法など複数の手法で算定し、レンジで評価することが一般的です。
株式価値 = 企業価値 - 純有利子負債
一株価値 = 株式価値 ÷ 発行済株式数
一株価値 = 株式価値 ÷ 発行済株式数
価値算定から買収価格への流れ
企業価値
算定
算定
→
株式価値
算出
算出
→
プレミアム
加算
加算
→
買収価格
決定
決定
PER(株価収益率)
PERは株価を一株当たり純利益(EPS)で除した倍率で、利益に対する株価の割高・割安を示す指標です。M&Aでは類似上場企業のPERを用いて対象企業の株式価値を算定します。業界平均や成長性を考慮し、適正倍率を決定します。一般的に成長企業は高PER、成熟企業は低PERとなり、日本企業の平均は15-20倍程度です。
PER = 株価 ÷ EPS(一株当たり純利益)
株式価値 = 純利益 × PER倍率
株式価値 = 純利益 × PER倍率
PER水準の目安
| 企業タイプ | PER水準 | 特徴 |
|---|---|---|
| 高成長企業 | 30倍以上 | 将来性重視 |
| 安定成長企業 | 15-25倍 | 業績安定 |
| 成熟企業 | 10-15倍 | 配当重視 |
| 低成長企業 | 10倍未満 | 割安株 |
PBR(株価純資産倍率)
PBRは株価を一株当たり純資産(BPS)で除した倍率で、純資産に対する株価の評価を示します。1倍割れは解散価値を下回ることを意味し、割安の目安とされます。資産価値を重視する業種(不動産、金融等)の評価に適しています。M&Aでは下限価格の参考指標として活用され、日本企業の多くが1倍前後で推移している点が課題とされています。
PBR = 株価 ÷ BPS(一株当たり純資産)
株式価値 = 純資産 × PBR倍率
株式価値 = 純資産 × PBR倍率
PBR 1倍以上の意味
- 将来収益力への期待
- 無形資産の価値
- 成長性プレミアム
PBR 1倍割れの要因
- 収益性の低迷
- 成長性への懸念
- 資産効率の悪化
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率は、企業価値をEBITDAで除した倍率で、M&A実務で最も使用される評価指標です。資本構成や税率、減価償却方針の違いを排除して企業間比較が可能です。業界や成長性により適正水準は異なりますが、一般的に5-10倍程度が目安となります。キャッシュフロー創出力に対する評価を示し、買収資金回収期間の目安にもなります。
EV/EBITDA = 企業価値 ÷ EBITDA
業界別EV/EBITDA倍率の目安
| 業界 | 倍率目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| IT・ソフトウェア | 10-20倍 | 高成長・高収益 |
| 製造業 | 5-8倍 | 設備投資大 |
| 小売業 | 4-7倍 | 薄利多売 |
| サービス業 | 6-10倍 | 労働集約的 |
コントロールプレミアム
コントロールプレミアムは、企業の支配権を取得するために支払われる追加対価です。経営権を握ることで可能となる戦略的意思決定、シナジー実現、経営改善などの価値を反映します。一般的に20-30%程度とされ、過半数取得時に発生します。少数株主の株式価値評価では、このプレミアムが含まれないため、マイノリティディスカウントが適用されます。
株式保有比率と支配権
| 保有比率 | 支配権の内容 | プレミアム水準 |
|---|---|---|
| 66.7%以上 | 特別決議(定款変更等) | 最大 |
| 50%超 | 普通決議(取締役選任等) | 高 |
| 33.4%以上 | 拒否権(特別決議阻止) | 中 |
| 33.3%未満 | 少数株主権 | 低/なし |
マイノリティディスカウント
マイノリティディスカウントは、少数株式の評価において支配権の欠如を反映して適用される割引です。経営に関与できない、流動性が低い、情報の非対称性などが要因で、通常20-30%程度割り引かれます。非上場企業の少数株式評価や、合弁解消時の買取価格算定で考慮されます。裁判例では、客観的な企業価値からの割引の妥当性が争点となります。
ディスカウント要因と割引率
支配権なし
-10~15%
-10~15%
+
流動性なし
-10~15%
-10~15%
=
合計割引
-20~30%
-20~30%
流動性ディスカウント
流動性ディスカウントは、株式の換金困難性を反映した評価上の割引です。非上場株式は市場での売却が困難なため、上場企業と比較して10-30%程度割り引かれます。譲渡制限の有無、既存株主の属性、業績の安定性などにより割引率が変動します。M&Aにおいては、Exit戦略の困難性を価格に反映させる重要な調整要素となります。
割引率を左右する要因
- 上場可能性の有無
- 既存株主の買取意向
- 配当政策の充実度
- 情報開示の透明性
高割引となるケース
- 譲渡制限付株式
- 少数株主の孤立
- 業績の不安定性
- Exit手段の欠如
正常収益力
正常収益力は、一時的・特殊要因を除外した企業の持続可能な収益水準です。M&Aの企業価値評価において、過去3-5年の業績を分析し、特別損益や異常値を調整して算出します。季節変動、一過性の大口受注、リストラ費用などを正常化し、買収後に期待できる実力ベースの収益を把握します。EBITDAの算定基礎となる重要な概念です。
正常化調整の項目
| 調整項目 | 内容 | 処理 |
|---|---|---|
| 一時的収益 | 資産売却益、補助金 | 除外 |
| 一時的費用 | リストラ費用、訴訟 | 除外 |
| オーナー関連 | 過大役員報酬、私的経費 | 正常化 |
| 会計方針 | 減価償却、引当金 | 統一化 |
ネットデット(純有利子負債)
ネットデットは、有利子負債から現預金を控除した実質的な負債額で、企業価値から株式価値を算出する際の重要な調整項目です。M&A時点での正確な把握が必要で、リース債務や退職給付債務などの「負債類似項目」も含めて評価します。買収資金調達やレバレッジ水準の判断基準となり、企業の実質的な財務負担を示す指標として重視されます。
ネットデット = 有利子負債 - 現預金
株式価値 = 企業価値 - ネットデット
株式価値 = 企業価値 - ネットデット
ネットデットの構成要素
借入金
社債
社債
+
リース債務
退職給付債務
退職給付債務
-
現預金
短期有価証券
短期有価証券
=
ネットデット
運転資本(Working Capital)
運転資本は、事業運営に必要な短期的な資金で、売上債権と在庫から買入債務を控除して算出します。M&Aでは正常運転資本水準を設定し、クロージング時の実績との差額を価格調整します。季節変動や取引条件の変更により大きく変動するため、過去12ヶ月平均などで正常化します。買収後の資金需要を把握する上で重要な分析項目です。
運転資本 = 売上債権 + 在庫 - 買入債務
運転資本の改善施策
| 項目 | 改善施策 | 効果 |
|---|---|---|
| 売上債権 | 回収期間短縮 | 資金効率向上 |
| 在庫 | 在庫回転率向上 | 保管コスト削減 |
| 買入債務 | 支払条件改善 | 資金繰り改善 |
フリーキャッシュフロー(FCF)
フリーキャッシュフロー(FCF)は、事業活動から生み出される現金から設備投資等を控除した、自由に使える現金流量です。DCF法による企業価値評価の基礎となり、借入返済や配当、新規投資の原資となります。EBITDAから運転資本増減と設備投資を調整して算出し、企業の真の稼ぐ力を示します。買収資金の返済能力を測る重要指標です。
FCF = EBITDA - 税金 - 運転資本増加 - 設備投資
FCFの使途
FCF創出
→
借入返済
利息支払
利息支払
→
株主還元
配当
配当
→
成長投資
M&A
M&A
簿外債務
簿外債務は、貸借対照表に計上されていない潜在的な債務で、M&Aの重大なリスク要因となります。未払残業代、退職給付債務の不足、環境対策費用、訴訟リスク、保証債務などが該当します。デューデリジェンスでの発見が重要で、発覚した場合は買収価格の減額要因となります。表明保証条項でカバーし、エスクロー設定により対応することが一般的です。
主な簿外債務の種類
| 種類 | 内容 | 発見方法 |
|---|---|---|
| 労務関連 | 未払残業代、退職金不足 | 労務DD |
| 税務関連 | 追徴課税リスク | 税務DD |
| 法務関連 | 訴訟、保証債務 | 法務DD |
| 環境関連 | 土壌汚染、アスベスト | 環境DD |
減損(Impairment)
減損は、資産の収益性が低下し帳簿価額が回収可能価額を下回った場合に、その差額を損失計上する会計処理です。M&A後ののれんや買収した事業資産が対象となりやすく、統合の失敗や市場環境悪化により発生します。巨額の減損は株価下落や経営責任問題につながるため、買収価格の妥当性検証と統合後のモニタリングが重要です。
減損判定のフロー
減損の兆候
業績悪化等
業績悪化等
→
減損テスト
回収可能性評価
回収可能性評価
→
減損損失
計上
計上
→
開示
影響説明
影響説明