M&A用語集 - 契約・書類

M&Aの契約書類について解説します

契約・書類

LOI(レター・オブ・インテント)
LOIは、買収の基本的な条件を記載した意向表明書です。買収価格の目安、スケジュール、主要条件などを記載しますが、法的拘束力は一般的に限定的です。独占交渉権や秘密保持義務など、一部の条項のみが法的拘束力を持ちます。

LOIの主な記載内容

項目 法的拘束力 備考
買収価格の目安 なし(参考値) 想定レンジで記載
買収スキーム なし 株式譲渡・事業譲渡等
スケジュール なし DD・契約締結の目安
独占交渉権 あり 通常30-90日
秘密保持義務 あり 情報管理の義務
費用負担 あり 各自負担が原則

M&Aプロセスにおける位置づけ

初期協議・
企業評価
→
LOI締結
(意向表明)
→
DD実施
→
最終契約
締結

💡 LOIのポイント

  • DD実施前の意向確認段階で締結
  • 独占交渉期間中に詳細調査を実施
  • 価格は「想定レンジ」で記載することが多い
  • 最終契約締結の義務はない(ノンバインディング)
  • 独占交渉権・秘密保持のみ法的拘束力あり
基本合意書(MOU)
基本合意書は、M&Aの基本的な条件について当事者間で締結する合意書です。Memorandum of Understandingの略で、買収価格、スキーム、デューデリジェンスの実施、独占交渉期間などを定めます。LOIと同様、法的拘束力は限定的です。

MOUの締結タイミング

初期協議・
条件交渉
→
LOI/MOU
締結
→
DD実施
(30-60日)
→
最終契約
締結
→
クロージング

MOUの主要条項

条項 内容 法的拘束力
取引条件 買収価格、スキーム、支払条件 原則なし
DD実施 範囲、期間、協力義務 協力義務はあり
独占交渉 期間、禁止行為 あり
前提条件 取締役会承認、当局認可等 条件付き
秘密保持 情報管理義務 あり

LOIとの違い

  • LOIより詳細な条件を記載
  • DD実施の枠組みを明確化
  • 前提条件を具体的に列挙

留意点

  • 最終契約への義務はない
  • 条件変更の可能性あり
  • DD結果次第で破談もあり得る
最終契約書(SPA)
最終契約書は、Stock Purchase Agreementの略で、M&Aの詳細な条件を定めた最終的な契約書です。買収価格、支払条件、前提条件、表明保証、補償条項、クロージング手続きなどを詳細に規定します。法的拘束力を持ち、契約締結後はクロージングに向けて手続きを進めます。

SPAの主要条項

【1】
取引条件
(買収価格・
支払方法・
対象株式)
→
【2】
表明保証
(売買双方の
事実表明)
→
【3】
前提条件
(クロージングの
前提条件)
↓
【4】
補償条項
(損害賠償の
範囲・上限)
→
【5】
コベナンツ
(クロージング前
の制約)
→
【6】
クロージング
(実行手続き)

SPA締結からクロージングまで

SPA締結
(Signing)
→
前提条件
充足作業
(1-3ヶ月)
→
前提条件
確認
→
クロージング
(Closing)

💡 SPA交渉の主要ポイント

  • 買収価格調整: クロージング時の運転資本・純資産による調整
  • 表明保証の範囲: 対象期間、重要性基準の設定
  • 補償上限額(Cap): 買収価格の10-30%が一般的
  • 免責金額(Basket): 買収価格の0.5-1.5%が一般的
  • エスクロー: 預託金額と期間の設定
  • MAC条項: 重大な悪化事象の定義
表明保証(R&W)
表明保証は、Representations & Warrantiesの略で、売り手が買い手に対して行う事実の表明と保証です。財務諸表の正確性、法令遵守、訴訟の不存在、資産の所有権などについて保証します。違反があった場合、売り手は補償義務を負います。

主な表明保証事項

カテゴリー 具体的内容 重要度
会社の組織 適法な設立、権限、定款 高
財務情報 財務諸表の正確性、簿外債務不存在 最高
法令遵守 許認可取得、法令違反不存在 高
訴訟 係争中の訴訟・紛争不存在 高
資産 所有権、担保権設定の有無 高
契約 重要契約の開示、違反不存在 中
労働 労使関係、未払賃金不存在 中
知的財産 権利の保有、侵害不存在 中~高
環境 環境法令遵守、汚染不存在 中~高

表明保証違反時の対応フロー

違反の
発見
→
売手への
通知
→
協議・
調査
→
補償請求
or
是正要求
→
エスクロー
から控除
or
直接支払

💡 表明保証の実務ポイント

  • 重要性基準: 「重大な」「著しい」の金額基準を明確化
  • 知識制限: 「知る限り」という限定を付けるか
  • 開示スケジュール: 例外事項を別紙で開示
  • 存続期間: 一般事項1-2年、税務3-7年が標準的
補償条項(Indemnity)
補償条項は、表明保証の違反や予期しない損失が発生した場合の損害補償に関する条項です。補償の範囲、上限額、請求期間、免責事項などを規定します。買い手のリスクを軽減する重要な条項で、交渉の焦点となることが多いです。

補償条項の主要要素

要素 一般的な設定 交渉ポイント
補償上限(Cap) 買収価格の10-30% リスクの大きさで変動
免責金額(Basket/Deductible) 買収価格の0.5-1.5% Tipping型 vs Deductible型
請求期間(一般事項) 1-2年 業種・リスクで調整
請求期間(税務) 3-7年 税務調査期間に対応
請求期間(環境) 5-10年 長期リスクに対応
エスクロー 買収価格の10-20%、12-24ヶ月 補償確保の手段

Basketの種類と違い

【Deductible型】
損害が基準額を
超えた場合
↓
超過分のみ補償

例:基準100万円
損害150万円
→補償50万円
vs
【Tipping/Threshold型】
損害が基準額を
超えた場合
↓
全額補償

例:基準100万円
損害150万円
→補償150万円

買手の視点

  • Cap・Basketは低く設定したい
  • 請求期間は長く設定したい
  • Tipping型を好む
  • エスクローで確実に回収したい

売手の視点

  • Cap・Basketは高く設定したい
  • 請求期間は短く設定したい
  • Deductible型を好む
  • エスクロー額・期間を最小化したい

💡 補償条項交渉の実務

補償条項は売買双方の利害が対立する最も交渉が難航する条項です。DD結果、業界慣行、取引規模を考慮し、リスクとリターンのバランスを取ることが重要です。

エスクロー
エスクローは、取引代金の一部を第三者機関に預託し、条件達成時に支払う仕組みです。表明保証違反や補償請求に備えて、買収代金の10-20%程度を一定期間(通常12-24ヶ月)預託します。買い手の補償請求権を確保する手段として使用されます。

エスクローの仕組み

買収代金
100%
→
売主へ直接
80-90%
+
エスクロー口座
(第三者預託)
10-20%

エスクロー解除のパターン

【パターン1】
無事故
↓
期間満了で
全額返還
or
【パターン2】
補償請求あり
↓
請求額控除後
に返還
or
【パターン3】
係争中
↓
解決まで
継続保管

エスクロー期間の設定

対象事項 一般的な期間 理由
一般的な表明保証 12-18ヶ月 通常の問題発見期間
税務事項 3-7年 税務調査の時効期間
環境問題 5-10年 長期的な環境リスク
製造物責任 3-5年 製品保証期間

エスクローエージェント

信託銀行
or
弁護士
事務所
or
専門の
エスクロー
会社

💡 エスクロー設定のポイント

  • 預託金額: 予想される最大補償額をカバーする水準
  • 預託期間: リスクの性質に応じて段階的に解除
  • 利息: 預託金の利息の帰属先を事前合意
  • 解除条件: 無条件解除と補償請求時の手続きを明確化
  • 係争時: 紛争解決まで継続保管する条項を設定