M&A用語集 - その他

その他の重要なM&A用語について解説します

その他の専門用語

フェアネスオピニオン
フェアネスオピニオンは、M&A価格の財務的公正性について第三者機関が発行する専門的意見書です。取締役の善管注意義務履行の証拠となり、少数株主保護の観点から重要です。複数の評価手法による分析、類似取引との比較、シナジー効果の検証などを行い、価格の妥当性を評価します。MBOや支配株主による買収で特に重要視され、日本でも取得事例が増加しています。

フェアネスオピニオンの評価プロセス

複数手法
評価
レンジ
分析
比較
検証
意見書
発行

💡 取得が推奨されるケース

  • MBO(経営陣による買収)
  • 支配株主による完全子会社化
  • 利益相反の可能性がある取引
  • 上場廃止を伴う組織再編
スクイーズアウト
スクイーズアウトは、支配株主が少数株主を強制的に排除し、完全子会社化する手法です。特別支配株主の株式等売渡請求(90%以上保有)、株式併合、全部取得条項付種類株式などの方法があります。経営の機動性確保、上場維持コスト削減、情報管理強化などが目的ですが、少数株主保護の観点から、公正な価格での買取りが法的に保証されています。

スクイーズアウトの手法

手法 必要議決権 特徴
株式売渡請求 90%以上 最も簡便・迅速
株式併合 66.7%以上 端数処理で排除
株式交換 66.7%以上 完全親子会社関係
全部取得条項付 66.7%以上 種類株式活用
ロールアップ戦略
ロールアップ戦略は、分散した同一業界の中小企業を連続的に買収・統合し、規模の経済とシナジー効果により企業価値を向上させる戦略です。業界再編のプラットフォームを構築し、購買力強化、経営効率化、クロスセリングなどを実現します。PEファンドが多用する手法で、最初の基盤企業(プラットフォーム)取得後、追加買収(アドオン)を重ねて成長を加速させます。

ロールアップの進行段階

プラットフォーム
取得
アドオン
買収×複数
統合・効率化
シナジー実現
Exit
IPO/売却

成功要因

  • 業界の細分化・非効率性
  • 統合による明確なシナジー
  • 優秀な経営チーム
  • 買収・統合の実行力

リスク・課題

  • 統合の複雑性・コスト
  • 文化衝突・人材流出
  • 買収価格の高騰
  • 過度な借入依存
プラットフォーム投資
プラットフォーム投資は、PEファンドがロールアップ戦略の基盤となる最初の企業を買収することです。業界のリーディングポジション、優秀な経営陣、拡張可能なビジネスモデルを持つ企業を選定します。この基盤企業を軸に、追加買収により規模拡大と地域展開を進め、業界再編を主導します。投資期間中に企業価値を3-5倍に成長させることを目標とします。

プラットフォーム企業の要件

要件 内容 重要度
市場地位 地域No.1-3
経営陣 買収経験・統合能力 最高
財務基盤 安定CF・低レバレッジ
成長余地 地域・製品拡大可能
システム 拡張可能な業務基盤
競業避止義務
競業避止義務は、M&A後に売手(特に経営陣)が同業他社への関与や競合事業の立ち上げを制限する契約条項です。買収した事業価値の保護、顧客・従業員の引き抜き防止、ノウハウ流出防止を目的とします。地域・期間・事業範囲を明確に定義し、通常2-5年間設定されます。過度な制限は公序良俗違反となるため、合理的な範囲設定が重要です。

競業避止の要素

要素 一般的な設定 考慮事項
期間 2-5年 業界慣行・役職
地域 事業展開地域 合理的範囲
事業範囲 同一・類似事業 明確な定義
対価 別途支払/買収価格込 税務上の取扱い
アーンアウト(Earn-out)
アーンアウトは、M&Aの買収価格の一部を、将来の業績達成を条件に支払う仕組みです。買手と売手の企業価値評価ギャップを埋め、リスク分担を図る効果があります。売上高、EBITDA、特定マイルストーンなどを指標とし、1-3年間の業績に連動させます。売手のモチベーション維持と買手のリスク軽減を両立させますが、目標設定と測定方法の明確化が重要です。

アーンアウトの仕組み

初期支払
60-80%
+
業績連動
20-40%
1-3年
=
総買収価格
100%+α

💡 アーンアウト設計のポイント

  • 明確で客観的な指標(売上、EBITDA等)
  • 現実的な目標水準設定
  • 会計方針・測定方法の事前合意
  • 経営の自由度と制限のバランス
ベンダーデューデリジェンス(VDD)
ベンダーデューデリジェンスは、売手が売却プロセス開始前に自ら実施するデューデリジェンスです。潜在的な問題の事前把握と対処、買手への情報開示の効率化、交渉position改善を目的とします。財務・税務・法務面の課題を洗い出し、改善策を実施してから売却プロセスを開始します。買手の信頼獲得と、円滑な取引実行に寄与する先進的な手法です。

VDDのメリット

  • 問題点の事前把握・解決
  • 売却プロセスの短縮
  • 買手の信頼性向上
  • 価格交渉力の強化

実施上の留意点

  • コスト負担(売手負担)
  • 独立性・客観性の確保
  • 買手独自DDの省略不可
  • 情報開示範囲の管理
レバレッジド・リキャップ
レバレッジド・リキャピタライゼーションは、企業が借入を増やして特別配当や自社株買いを実施し、資本構成を大幅に変更する財務戦略です。PEファンドが投資先から資金回収する手法として使用され、企業価値を維持しながら投資元本の早期回収が可能です。財務レバレッジ上昇によるリスク増大と、タックスシールド効果のバランスを考慮した高度な財務戦略です。

リキャップの流れ

追加借入
実行
特別配当
支払い
投資回収
元本の50-100%
継続保有
追加upside
企業価値評価(バリュエーション)
企業価値評価は、企業や事業の経済的価値を客観的に算定するプロセスです。M&Aにおける買収価格決定、資金調達、財務報告など様々な場面で必要とされます。DCF法、類似企業比較法、類似取引比較法などの手法があり、通常は複数の手法を併用して評価の妥当性を検証します。

主な評価手法

評価手法 特徴
DCF法 将来CFの現在価値化
類似企業比較法 上場類似企業との比較
類似取引比較法 過去M&A事例との比較
DCF法
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定する手法です。最も理論的で精緻な評価方法とされ、M&Aや投資判断で広く利用されます。5-10年の事業計画を基に将来CFを予測し、WACCで割り引いて現在価値を算出します。

DCF法の計算式

企業価値 = Σ(将来FCF ÷ (1+WACC)^n) + 継続価値

DCF法の利点

  • 理論的に最も精緻な手法
  • 将来の成長性を反映可能
  • 事業特性を詳細に考慮

DCF法の課題

  • 将来予測の不確実性
  • 前提条件により結果が変動
  • 計算の複雑性
類似企業比較法(マルチプル法)
類似企業比較法は、業種や事業内容が類似する上場企業の株価倍率(マルチプル)を基準として、対象企業の価値を評価する手法です。PER、PBR、EV/EBITDA倍率などが用いられます。市場価格を反映した客観的な評価が可能で、計算も比較的簡便です。

主なマルチプル指標

指標 計算式
PER 株価 ÷ 1株当たり利益
PBR 株価 ÷ 1株当たり純資産
EV/EBITDA 企業価値 ÷ EBITDA
類似取引比較法
類似取引比較法は、過去に実行された類似するM&A取引の価格倍率を参考に、対象企業の価値を評価する手法です。実際の取引価格には買収プレミアムやシナジー効果が反映されているため、市場実勢を踏まえた評価が可能です。業種、規模、地域が類似する取引を選定し、EV/EBITDA、EV/売上高などの倍率を適用します。

評価プロセス

【ステップ1】
類似取引の選定
(3-10件程度)
【ステップ2】
取引倍率の
算定・分析
【ステップ3】
適用倍率
レンジ決定
【ステップ4】
対象企業への
適用・価値算定

メリット

  • 実際の取引価格を反映
  • 買収プレミアムを含む
  • 市場の取引慣行が分かる
  • 交渉の参考資料として有用

制約

  • 取引情報の入手困難性
  • 完全に類似する取引は稀
  • 取引時期により環境が異なる
  • サンプル数の限界
EBITDA
EBITDAは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略で、利息・税金・減価償却費控除前の利益を指します。企業の本業での稼ぐ力(営業キャッシュフロー創出力)を測る指標として、M&Aや企業評価で広く使用されます。会計方針や資本構成の影響を受けにくく、企業間の比較に適しています。

EBITDAの計算式

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

デューデリジェンス(DD)
デューデリジェンスは、買収対象企業の財務、法務、ビジネス、税務などを詳細に調査・分析するプロセスです。投資判断の基礎となる重要な手続きで、財務DD、法務DD、ビジネスDD、人事DDなど複数の分野で実施されます。潜在的なリスクや問題点を事前に発見し、買収価格の妥当性を検証します。

DDの主な種類

種類 調査内容
財務DD 財務諸表、業績、資産負債の精査
法務DD 契約、訴訟、コンプライアンス
ビジネスDD 事業計画、市場、競争環境
税務DD 税務申告、繰越欠損金、税務リスク
会社法
会社法は、会社の組織や運営に関する基本的な法律です。M&Aの手続き、株主総会の決議、取締役の責任、組織再編の要件などが規定されています。株式譲渡、合併、会社分割、株式交換などのM&A手法は、会社法の定めに従って実行する必要があります。

会社法が規定する主なM&A手法

手法 主な要件 株主総会決議
合併 債権者保護手続き必要 特別決議(2/3以上)
株式交換 完全子会社化 特別決議
会社分割 事業の承継 原則特別決議
事業譲渡 重要な財産の処分 特別決議(重要な場合)

💡 会社法上の留意点

  • 反対株主の株式買取請求権
  • 債権者保護手続きの実施
  • 適時適切な情報開示
  • 取締役の善管注意義務
金融商品取引法
金融商品取引法は、上場企業のM&Aに関する情報開示や手続きを規定する法律です。TOBルール、大量保有報告制度、インサイダー取引規制などが含まれます。M&A関係者は、適時開示義務や内部者取引規制を遵守する必要があります。

金融商品取引法の主な規制

規制 内容 対象
TOBルール 公開買付の手続き規制 上場企業の買収
大量保有報告 5%超の株式取得報告 上場企業株式
インサイダー規制 内部情報利用の禁止 内部者・情報受領者
開示規制 重要事実の適時開示 上場企業

💡 実務上のポイント

  • TOBは原則1/3超の取得で義務化
  • 大量保有報告は5営業日以内
  • 重要事実公表後2営業日は取引禁止
  • 違反時は刑事罰・課徴金の対象
インサイダー取引規制
インサイダー取引規制は、内部情報を利用した株式取引を禁止する規制です。M&A情報は重要な内部情報に該当するため、M&A関係者は株式売買が厳しく制限されます。違反した場合は、刑事罰や課徴金の対象となります。

インサイダー取引が成立する要件

重要事実を
知る
公表前に
株式売買
=
インサイダー
取引成立

M&Aにおける重要事実

重要事実 具体例
合併・買収 合併、株式交換、TOBの決定
業務提携 重要な業務提携の決定
株式譲渡 親会社・子会社の異動を伴う譲渡

適用除外

  • 公表後2営業日経過後の取引
  • 公開買付に応募する場合
  • 会社からの取得

罰則

  • 刑事罰:5年以下の懲役or500万円以下の罰金
  • 課徴金:違反取引による利得相当額
  • 法人にも両罰規定
反対株主の株式買取請求権
反対株主の株式買取請求権は、M&Aに反対する株主が会社に対して公正価格での株式買取を請求できる権利です。合併、株式交換、事業譲渡などの重要な組織再編において、少数株主の保護を目的として認められています。

株式買取請求の流れ

【ステップ1】
株主総会前の
反対通知
【ステップ2】
株主総会で
反対
【ステップ3】
買取請求
(効力発生日の
20日前~前日)
【ステップ4】
協議・
価格決定
【ステップ5】
裁判所へ
申立
(不成立時)

買取請求権が認められる主な場合

組織再編行為 対象株主
吸収合併・新設合併 消滅会社の株主
株式交換・株式移転 完全子会社となる会社の株主
事業譲渡(重要な一部) 譲渡会社の株主

💡 買取価格の決定

買取価格は「公正な価格」とされ、通常は組織再編がなかった場合の株式価値を基準とします。当事者間で協議が成立しない場合、裁判所が価格を決定します。

のれん
のれんは、買収価格が純資産を上回る部分を指す会計科目です。ブランド価値、顧客基盤、従業員のノウハウなどの無形資産を表します。買収後は定期的に減損テストを実施し、価値が毀損している場合は減損損失を計上します。

のれんの計算

のれん = 買収価格 - 純資産の公正価値

のれんの計算

のれん = 買収価格 - 純資産の公正価値

のれんの構成要素

無形資産の種類 具体例
ブランド価値 商標、ブランド認知度、評判
顧客関連 顧客基盤、契約関係、顧客ロイヤルティ
人的資源 優秀な従業員、経営陣、ノウハウ
組織力 企業文化、業務プロセス、ネットワーク

のれんの会計処理

会計基準 処理方法
日本基準 20年以内の規則的償却
IFRS 非償却、年1回の減損テスト
US GAAP 非償却、年1回の減損テスト

💡 M&Aにおけるのれんの重要性

のれんは買収価格の妥当性を示す指標となります。過大なのれん計上は、将来的な減損リスクを高めるため、買収時の適正な価格評価が重要です。

PPA(Purchase Price Allocation)
PPAは、買収価格を取得した資産・負債に配分する会計処理です。取得した有形・無形資産を公正価値で評価し、買収価格との差額をのれんとして計上します。M&A後の財務諸表作成に必要な重要な手続きです。

PPAのプロセス

【ステップ1】
識別可能な
資産・負債の特定
【ステップ2】
公正価値の
算定
【ステップ3】
買収価格の
配分
【ステップ4】
のれんの
計上

PPAの配分例

買収価格
100億円
純資産
60億円
+
無形資産
20億円
+
のれん
20億円

💡 主な無形資産

  • 顧客関連資産(顧客リスト、契約等)
  • 技術関連資産(特許、ノウハウ等)
  • マーケティング関連資産(商標、ブランド等)
  • 契約関連資産(供給契約、リース契約等)
連結財務諸表
連結財務諸表は、親会社と子会社を一つの企業体として作成する財務諸表です。M&A後は、買収した企業を連結対象とし、グループ全体の財務状況を報告します。内部取引は相殺消去し、グループの実態を反映します。

連結財務諸表の作成プロセス

【ステップ1】
個別財務諸表の
合算
【ステップ2】
内部取引の
相殺消去
【ステップ3】
未実現利益の
消去
【ステップ4】
資本連結
【ステップ5】
非支配株主持分
の計上

連結範囲の判定

持株比率 会計処理
50%超 原則として連結子会社
20-50% 持分法適用関連会社
20%未満 その他有価証券

💡 M&A後の連結処理

買収日から連結範囲に含め、取得原価と被取得企業の純資産の差額をのれんとして計上します。段階取得の場合は、支配獲得時に評価替えを実施します。

減損会計
減損会計は、資産の価値が著しく下落した場合に帳簿価額を切り下げる会計処理です。M&Aで計上したのれんが、期待した収益を生まない場合、減損損失を計上する必要があります。減損は企業の業績に大きな影響を与えます。

減損会計のプロセス

【ステップ1】
減損の兆候の
把握
【ステップ2】
減損損失の
認識判定
【ステップ3】
減損損失の
測定
【ステップ4】
減損損失の
計上

減損の兆候(例)

カテゴリー 具体的な兆候
営業損益 継続的な営業赤字
キャッシュフロー 継続的なマイナスCF
市場環境 市場価格の著しい下落
経営環境 経営環境の著しい悪化

減損テストの頻度

  • 通常の固定資産:兆候がある場合
  • のれん:日本基準では兆候ベース
  • IFRS:のれんは年1回必須

M&Aへの影響

  • 買収後の業績悪化で多額の減損
  • 株価・信用力への悪影響
  • 経営責任の追及リスク
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、企業が事業活動から生み出す実質的な現金収支です。営業キャッシュフローから必要な設備投資を控除した金額で、企業が自由に使える現金を表します。企業価値評価の重要な指標で、DCF法の基礎となります。

FCFの計算式

FCF = 営業CF - 設備投資

WACC(加重平均資本コスト)
WACCは、企業の資金調達コストの加重平均です。株主資本コストと負債コストを、それぞれの構成比率で加重平均して算出します。DCF法における割引率として使用され、企業の要求収益率を表します。

WACCの計算式

WACC = (株主資本コスト × 株主資本比率) + (負債コスト × (1-税率) × 負債比率)

レバレッジ効果
レバレッジ効果は、借入金を活用することで自己資本利益率を向上させる効果です。借入コストよりも高い収益率で事業を運営できれば、借入により株主へのリターンが増加します。LBOで重要な概念ですが、過度な借入は財務リスクを高めます。

レバレッジ効果の仕組み

借入活用
ROA > 借入コスト
ROE向上

💡 具体例

ケースA(無借入):自己資本100億円、営業利益10億円 → ROE 10%

ケースB(借入活用):自己資本50億円、借入50億円(金利4%)、営業利益10億円
→ 支払利息2億円、純利益8億円 → ROE 16%

同じ事業でも、借入活用により株主リターンが向上します。

正のレバレッジ効果

  • ROA > 借入金利で発生
  • 株主リターンの向上
  • タックスシールド効果

負のレバレッジ効果

  • ROA < 借入金利で発生
  • 株主リターンの悪化
  • 財務リスクの増大
財務レバレッジ
財務レバレッジは、総資産に対する有利子負債の比率を指し、企業の財務リスクを測る指標です。レバレッジが高いほど、借入依存度が高く、金利変動や業績悪化の影響を受けやすくなります。M&Aでは適切なレバレッジ水準の維持が重要です。

財務レバレッジの計算式

財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本

または

D/Eレシオ = 有利子負債 ÷ 自己資本

財務レバレッジの水準評価

レバレッジ水準 D/Eレシオ 評価
低レバレッジ 0.5倍以下 財務健全性高いが成長性に制約
適正レバレッジ 0.5-1.5倍 バランスの取れた資本構成
高レバレッジ 2.0倍以上 財務リスク高いが成長機会あり

💡 M&Aにおける留意点

  • 買収後のレバレッジ水準を事前シミュレーション
  • 金融機関の融資条件(コベナンツ)を確認
  • 業界平均との比較分析
  • 格付機関の評価基準を考慮
みなし配当
みなし配当は、株式の売却代金のうち、税法上配当とみなされる部分です。株式譲渡の際、資本等の金額を超える部分が配当として課税されます。個人株主の場合、配当所得として総合課税または源泉分離課税の対象となり、税務上の取扱いが異なります。

みなし配当の計算

株式譲渡対価
-
資本等の金額
=
みなし配当

個人株主の課税方式

課税方式 税率 特徴
総合課税 15-55%(累進) 配当控除適用可能
申告分離課税 20.315% 他の株式譲渡損益と通算可
源泉分離課税 20.315% 申告不要

💡 実務上のポイント

株式譲渡代金のうち、資本等の金額を超える部分がみなし配当として配当所得になります。残りの部分は株式の譲渡所得として譲渡所得税の対象となります。

タックスヘイブン対策税制
タックスヘイブン対策税制は、軽課税国の子会社を利用した租税回避を防止する制度です。一定の要件を満たす外国子会社の所得は、親会社の所得に合算して課税されます。海外M&Aでは、この税制への対応が重要な検討事項となります。

タックスヘイブン対策税制の適用要件

【要件1】
外国子会社の
税負担率が
20%未満
+
【要件2】
親会社の
持株比率
50%超
+
【要件3】
適用除外要件を
満たさない

主な適用除外要件

類型 要件
事業基準 主たる事業が株式保有・知財保有等以外
実体基準 本店所在地国で事業管理・支配
管理支配基準 本店所在地国で事業管理・支配
非関連者基準 関連者以外との取引が50%超

💡 M&Aにおける留意点

  • 買収対象の海外子会社の税務構造を事前調査
  • 適用除外要件の充足状況を確認
  • 合算課税のインパクトを試算
  • 必要に応じて税務リストラクチャリング検討
ロングリスト
ロングリストは、買収候補企業の幅広いリストです。M&Aプロセスの初期段階で作成され、業種、規模、地域などの条件に合致する企業を網羅的にリストアップします。通常30-100社程度の候補先を含み、その後のスクリーニングでショートリストに絞り込まれます。

ロングリスト作成のプロセス

【ステップ1】
買収戦略・
ターゲット像の
明確化
【ステップ2】
スクリーニング
基準の設定
【ステップ3】
データベース
検索・情報収集
【ステップ4】
初期評価・
リスト化
(30-100社)

主なスクリーニング基準

カテゴリー 基準例
業種 同業・隣接業種・川上/川下
規模 売上高・従業員数・拠点数
地域 営業エリア・本社所在地
財務 収益性・成長性・財務健全性
ショートリスト
ショートリストは、ロングリストから絞り込まれた優先的な買収候補企業のリストです。戦略的適合性、財務状況、シナジー効果などを評価し、5-15社程度に厳選します。ショートリストの企業に対して、具体的なアプローチを開始します。

ショートリスト絞り込みプロセス

【ステップ1】
ロングリストの
詳細評価
【ステップ2】
戦略的適合性の
分析
【ステップ3】
シナジー効果の
試算
【ステップ4】
優先順位付け
(5-15社)

評価項目

評価軸 チェックポイント
戦略的適合性 事業シナジー、市場補完性
財務状況 収益性、成長性、財務健全性
組織・文化 経営陣、企業文化、従業員
リスク 法務・税務・オペレーショナル
ティーザー
ティーザーは、対象企業の概要を匿名で紹介する簡易的な資料です。企業名を伏せた状態で、事業内容、規模、財務ハイライトなどの基本情報を記載し、潜在的な買収者の関心を探ります。通常1-2ページの簡潔な資料で、M&Aプロセスの初期段階で使用されます。

ティーザーの主な記載内容

項目 内容
事業概要 業種、主要製品・サービス(匿名化)
規模感 売上高レンジ、従業員数レンジ
財務ハイライト 売上成長率、利益率水準
取引条件 スキーム、スケジュール概要

💡 ティーザーの特徴

  • 通常1-2ページの簡潔な資料
  • 企業名は伏せて匿名性を維持
  • NDA締結前に配布可能
  • 関心度合いを測るマーケティングツール
IM(インフォメーション・メモランダム)
IMは、対象企業の詳細情報をまとめた資料です。事業内容、財務情報、市場環境、経営陣、成長戦略などを包括的に記載し、NDA締結後の潜在的買収者に提供されます。通常30-100ページの詳細な資料で、買収検討の判断材料となります。

IMの主な構成

【1. エグゼクティブサマリー - 投資ハイライト
2. 会社概要 - 沿革、組織、経営陣
3. 事業内容 - 製品・サービス、ビジネスモデル
4. 市場環境 - 市場規模、競合、トレンド
5. 財務情報 - 過去3-5年の財務諸表、KPI
6. 成長戦略 - 今後の事業計画

💡 IMの特徴

  • 通常30-100ページの詳細資料
  • NDA締結後に開示
  • FAが作成を支援
  • 投資判断の重要な基礎資料
バリューオークション
バリューオークションは、複数の買収候補者による競争入札形式の売却プロセスです。複数の候補者を同時に進行させることで競争を促し、高値での売却を目指します。入札プロセスを管理し、透明性と公平性を確保しながら、最適な買収者を選定します。

オークションプロセス

第1ラウンド】 IM配布 → 初期的関心表明(IOI)提出
第2ラウンド: 選抜候補者によるDD実施
第3ラウンド: 最終提案書(バインディングオファー)提出
最終段階: 優先交渉権者選定 → 最終交渉

メリット

  • 競争により高値での売却期待
  • 複数候補の比較検討可能
  • プロセスの透明性確保
  • 売却確度の向上

デメリット

  • 時間とコストがかかる
  • 情報漏洩リスク
  • 社内への影響
  • 候補者離脱の可能性
買収者(アクワイアラー)
買収者は、他社を買収する企業です。戦略的投資家(事業会社)と財務的投資家(PEファンド等)に分類されます。戦略的投資家はシナジー効果を重視し、財務的投資家は投資リターンを重視する傾向があります。

買収者の種類

種類 特徴 買収動機
戦略的投資家 同業・関連業界の事業会社 シナジー効果、市場拡大
財務的投資家 PEファンド、VC等 投資リターン、EXIT
事業承継買収者 経営陣・従業員 事業継続、雇用維持
対象会社(ターゲット)
対象会社は、買収や合併の対象となる企業です。被買収企業とも呼ばれます。事業承継、成長資金の確保、親会社からの独立などの理由で、M&Aの対象となります。

魅力的なターゲットの特徴

要素 ポイント
市場ポジション 独自性、競争優位性、市場シェア
収益性 安定収益、高利益率、CF創出力
成長性 成長市場、拡大余地、スケーラビリティ
組織 優秀な経営陣、人材、企業文化
売り手(セラー)
売り手は、M&A取引において対象企業の株式等を売却する側の当事者です。創業者、既存株主、親会社などが該当します。事業承継、資金回収、事業の選択と集中などの目的で売却を決断します。

売却の主な動機

カテゴリー 具体的な動機
事業承継 後継者不在、世代交代
戦略的理由 事業の選択と集中、本業回帰
財務的理由 資金回収、債務返済、事業再編
成長促進 資本・経営資源の獲得
戦略的投資家
戦略的投資家は、事業上のシナジー効果を目的として投資や買収を行う事業会社です。同業他社や関連業界の企業が多く、買収後の事業統合によるコスト削減や売上拡大を目指します。財務的投資家と比較して、長期保有を前提とする傾向があります。

戦略的投資家の強み

  • 事業シナジーによる高い評価額
  • 長期保有・事業育成志向
  • 既存事業との統合機会
  • 販路・技術・ノウハウの提供

留意点

  • 競合情報の流出リスク
  • 大幅な組織変更の可能性
  • 企業文化の衝突
  • 独立性の喪失
LOI(レター・オブ・インテント)
LOIは、買収の基本的な条件を記載した意向表明書です。買収価格の目安、スケジュール、主要条件などを記載しますが、法的拘束力は一般的に限定的です。独占交渉権や秘密保持義務など、一部の条項のみが法的拘束力を持ちます。

LOIの主な記載内容

項目 法的拘束力
買収価格の目安 なし(参考値)
買収スキーム なし
スケジュール なし
独占交渉権 あり(通常30-90日)
秘密保持義務 あり
費用負担 あり

💡 LOIのポイント

  • DD実施前の意向確認段階で締結
  • 独占交渉期間中に詳細調査を実施
  • 価格は「想定レンジ」で記載
  • 最終契約締結の義務はない
基本合意書(MOU)
基本合意書は、M&Aの基本的な条件について当事者間で締結する合意書です。Memorandum of Understandingの略で、買収価格、スキーム、デューデリジェンスの実施、独占交渉期間などを定めます。LOIと同様、法的拘束力は限定的です。

MOUの締結タイミング

初期協議
LOI/MOU
締結
DD実施
最終契約

MOUの主要条項

条項 内容
取引条件 買収価格、スキーム、支払条件
DD実施 範囲、期間、協力義務
独占交渉 期間、禁止行為
前提条件 取締役会承認、当局認可等
最終契約書(SPA)
最終契約書は、Stock Purchase Agreementの略で、M&Aの詳細な条件を定めた最終的な契約書です。買収価格、支払条件、前提条件、表明保証、補償条項、クロージング手続きなどを詳細に規定します。法的拘束力を持ち、契約締結後はクロージングに向けて手続きを進めます。

SPAの主要条項

【1】
取引条件
(買収価格・
支払方法・
対象株式)
【2】
表明保証
(売買双方の
事実表明)
【3】
前提条件
(クロージングの
前提条件)
【4】
補償条項
(損害賠償の
範囲・上限)
【5】
コベナンツ
(クロージング前
の制約)
【6】
クロージング
(実行手続き)

💡 SPA交渉のポイント

  • 表明保証の範囲と期間
  • 補償上限額(Cap)と免責金額(Deductible)
  • エスクロー金額と期間
  • MAC条項の定義
表明保証(R&W)
表明保証は、Representations & Warrantiesの略で、売り手が買い手に対して行う事実の表明と保証です。財務諸表の正確性、法令遵守、訴訟の不存在、資産の所有権などについて保証します。違反があった場合、売り手は補償義務を負います。

主な表明保証事項

カテゴリー 具体的内容
会社の組織 適法な設立、権限、定款
財務情報 財務諸表の正確性、簿外債務不存在
法令遵守 許認可取得、法令違反不存在
訴訟 係争中の訴訟・紛争不存在
資産 所有権、担保権設定の有無
契約 重要契約の開示、違反不存在

💡 表明保証違反時の対応

表明保証違反が判明した場合、買い手は補償条項に基づき売り手に損害賠償を請求できます。エスクロー口座から控除されるか、直接請求します。

補償条項(Indemnity)
補償条項は、表明保証の違反や予期しない損失が発生した場合の損害補償に関する条項です。補償の範囲、上限額、請求期間、免責事項などを規定します。買い手のリスクを軽減する重要な条項で、交渉の焦点となることが多いです。

補償条項の主要要素

要素 一般的な設定
補償上限(Cap) 買収価格の10-30%
免責金額(Basket) 買収価格の0.5-1.5%
請求期間 一般事項:1-2年、税務・環境:3-7年
エスクロー 買収価格の10-20%、12-24ヶ月

Basketの種類

Deductible型
超過分のみ補償
vs
Tipping型
超過時は全額補償

💡 交渉のポイント

買い手は補償範囲を広く・期間を長くしたい一方、売り手は限定的にしたいため、補償条項は最も交渉が難航する条項の一つです。

エスクロー
エスクローは、取引代金の一部を第三者機関に預託し、条件達成時に支払う仕組みです。表明保証違反や補償請求に備えて、買収代金の10-20%程度を一定期間(通常12-24ヶ月)預託します。買い手の補償請求権を確保する手段として使用されます。

エスクローの仕組み

買収代金
100%
売主へ
80-90%
+
エスクロー
10-20%

エスクロー解除のパターン

【パターン1】
無事故

期間満了で
全額返還
or
【パターン2】
補償請求あり

請求額控除後
に返還
or
【パターン3】
係争中

解決まで
継続保管

💡 エスクロー期間の設定

  • 一般的な表明保証:12-18ヶ月
  • 税務事項:税務調査期間に対応(3-7年)
  • 環境問題:長期(5-10年)
買収防衛策
買収防衛策は、敵対的買収から会社を守るために事前に講じる対策です。ポイズンピル、ホワイトナイト、焦土作戦などの手法があります。株主利益の最大化と経営陣の保身のバランスが重要で、過度な防衛策は株主から批判されることがあります。

主な買収防衛策

防衛策 内容
ポイズンピル 新株予約権の割当による希釈化
ホワイトナイト 友好的な第三者による買収
焦土作戦 重要資産の売却等
黄金株 拒否権付株式の発行
スタッガード・ボード 取締役の任期をずらして配置

防衛策導入の意義

  • 敵対的買収の抑止
  • 交渉時間の確保
  • より良い条件の引き出し

株主からの懸念

  • 経営陣の保身と見なされる
  • 株主価値の毀損
  • 経営規律の低下
統合計画
統合計画は、M&A後に両社を統合するための具体的な計画です。組織統合、システム統合、業務プロセス統合、企業文化の融合などを含みます。100日プラン、1年計画など、段階的な統合ロードマップを策定し、シナジー効果の実現を目指します。

統合計画の主要領域

領域 統合内容
組織・人事 組織再編、人事制度統合、キーパーソン維持
業務プロセス 業務フロー統合、ベストプラクティス展開
ITシステム 基幹システム統合、データ移行
企業文化 価値観の共有、コミュニケーション促進

100日プランの例

【Day 1-30】
統合体制確立
Quick Win
実現
【Day 31-60】
詳細統合計画
策定
課題解決
【Day 61-100】
統合実行
シナジー効果
実現開始
リテンション
リテンションは、M&A後に重要な人材を引き留めるための施策です。金銭的インセンティブ(リテンションボーナス)、株式報酬、キャリアパスの提示などが含まれます。キーパーソンの流出は統合の失敗につながるため、早期の対策が重要です。

リテンション施策の種類

施策 内容
リテンションボーナス 一定期間在籍で支給される一時金
株式報酬 ストックオプション、譲渡制限付株式
雇用保証 一定期間の雇用継続を保証
キャリアパス 明確なキャリア機会の提示

💡 リテンション設計のポイント

  • 対象者の明確化(経営陣、キーパーソン)
  • 支給条件の設定(在籍期間、業績目標)
  • 支給額の決定(年収の50-200%程度)
  • 早期のコミュニケーション
コベナンツ
コベナンツは、契約に記載される制約条項です。M&A契約では、クロージングまでの期間中、売り手が通常の事業運営から逸脱する行為(大型投資、配当、資産売却など)を制限します。買収後の企業価値を保全する目的で設定されます。

主なコベナンツ条項

禁止・制限事項 目的
通常の範囲を超える資産処分 資産価値の保全
多額の設備投資・借入 財務状況の維持
配当・自己株買い キャッシュの保全
重要な契約変更 事業価値の維持
定款・組織変更 支配構造の維持

💡 コベナンツ違反時

コベナンツに違反した場合、買い手は契約を解除できる権利を持ちます。ただし、軽微な違反の場合は是正を求めることが一般的です。

MAC条項
MAC条項は、Material Adverse Changeの略で、重大な悪化事象が発生した場合の契約解除条項です。対象企業の業績や財務状況が著しく悪化した場合、買い手が取引を中止できる権利を定めます。「重大な悪化」の定義が交渉の焦点となります。

MACの典型的な定義

【重大な悪影響 (MAC)】
対象会社の事業、財務状況、経営成績に
著しく悪影響を及ぼす事象

MAC条項の除外事項(Carve-out)

除外事項 理由
一般的な経済・市場環境の変化 買い手が負うべきリスク
業界全体に影響する事象 対象会社固有ではない
法令変更 予測不可能な外部要因
M&A公表による影響 M&A自体による影響

💡 MAC条項の交渉ポイント

「重大な」「著しく」の程度が曖昧なため、可能な限り具体的な基準(例:EBITDA 30%減少)を設定することが望ましいですが、実務上は合意が難しく、抽象的な表現になることが多いです。

ロールアップ
ロールアップは、同一業界の複数の企業を継続的に買収して統合を進める戦略です。規模の経済、市場支配力の向上、業界再編の主導を目的とします。プライベートエクイティファンドがよく用いる戦略で、最初のプラットフォーム投資に続いて複数のアドオン買収を実行します。

ロールアップ戦略のプロセス

【ステップ1】
プラットフォーム
企業の買収
(業界の有力企業)
【ステップ2】
アドオン買収の
連続実施
(3-10社程度)
【ステップ3】
統合による
シナジー実現
【ステップ4】
規模拡大後に
EXIT
(IPO or 売却)

ロールアップのメリット

  • 規模の経済によるコスト削減
  • 市場シェアの急速な拡大
  • 統合企業の評価倍率向上
  • 業界の再編を主導

リスクと課題

  • 統合の複雑さ・難易度
  • 企業文化の衝突
  • 過度なレバレッジ
  • 買収価格の上昇