M&A用語集 - 法務・規制
M&Aに関する法務・規制について解説します
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独占禁止法
独占禁止法は、市場における公正な競争を維持するための法律で、M&Aによる過度な市場集中を規制します。企業結合により競争が実質的に制限される場合、公正取引委員会が是正措置を命じることができます。事前届出制度により、一定規模以上のM&Aは審査対象となり、市場シェアや参入障壁などを総合的に判断されます。
規制の目的
- 市場における公正な競争確保
- 消費者利益の保護
- 経済の民主的発展促進
- 中小企業の事業機会確保
禁止される企業結合
- 市場支配力の形成・維持・強化
- 競争の実質的制限
- 一定の取引分野における競合排除
- 価格統制力の獲得
💡 審査の考慮要素
市場シェア、市場集中度、競合企業の存在、参入障壁、効率性の向上、技術革新などを総合的に判断企業結合規制
企業結合規制は、独占禁止法に基づくM&Aの競争制限効果を審査する制度です。国内売上高が一定規模を超える企業結合は、公正取引委員会への事前届出が義務付けられます。第1次審査(30日)で問題なければ承認、懸念がある場合は第2次審査(90日延長)を実施します。グローバル企業のM&Aでは、複数国での競争法審査が必要となります。
企業結合規制の届出基準(日本)
| 項目 | 株式取得 | 合併 |
|---|---|---|
| 国内売上高合計 | 200億円超 | 200億円超 |
| 相手方売上高 | 50億円超 | 50億円超 |
| 取得割合 | 20%、50%超 | - |
| 審査期間 | 30日(第1次) | 30日(第1次) |
審査プロセス
事前相談
任意
任意
→
届出
必要書類提出
必要書類提出
→
第1次審査
30日
30日
→
第2次審査
90日(必要時)
90日(必要時)
外為法(外国為替及び外国貿易法)
外為法は、外国投資家による日本企業への投資を規制し、国家安全保障や公の秩序維持を図る法律です。武器、航空機、原子力、通信などの指定業種では、1%以上の株式取得で事前届出が必要です。2020年の改正により規制が強化され、コア業種の事前届出基準が10%から1%に引き下げられました。違反時は投資の中止・禁止命令が可能です。
外為法の規制対象業種フロー
コア業種
武器・原子力等
1%以上届出
武器・原子力等
1%以上届出
→
非コア業種
医薬品・半導体等
条件付き届出
医薬品・半導体等
条件付き届出
→
一般業種
その他業種
10%以上報告
その他業種
10%以上報告
事前届出プロセス
①事前相談
2週間
届出要否確認
2週間
届出要否確認
→
②届出提出
30日前
必要書類準備
30日前
必要書類準備
→
③審査
30日~5ヶ月
当局審査
30日~5ヶ月
当局審査
→
④承認
投資実行可
投資実行可
審査期間と手続き
| 手続き | 期間 | 内容 |
|---|---|---|
| 事前届出 | 30日前 | 投資実行の30日前までに届出 |
| 審査期間 | 最大5ヶ月 | 通常30日、延長時最大5ヶ月 |
| 事前相談 | 2週間程度 | 届出要否の確認 |
規制対象取引
- 株式・持分の取得
- 議決権の取得
- 役員への就任
- 重要な事業変更の同意
審査の観点
- 国家安全保障への影響
- 公の秩序維持
- 公衆の安全確保
- 日本経済の円滑な運営
会社法(組織再編)
会社法は、M&Aにおける組織再編行為を規定する基本法です。合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付などの手法を定め、株主保護と債権者保護の仕組みを規定しています。特別決議要件、反対株主の買取請求権、債権者保護手続きなど、M&A実行に必要な法的手続きを定めており、適正な組織再編の実現を図ります。
組織再編の手法
合併
複数会社統合
複数会社統合
→
会社分割
事業切り出し
事業切り出し
→
株式交換
完全子会社化
完全子会社化
→
株式移転
持株会社設立
持株会社設立
株主・債権者保護手続き
| 手続き | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 株主総会決議 | 特別決議(2/3以上) | 効力発生日前 |
| 反対株主買取請求 | 公正な価格での買取 | 20日前から20日後 |
| 債権者保護 | 異議申述公告・催告 | 1ヶ月以上 |
| 事前開示 | 組織再編契約書等 | 2週間前から |
金融商品取引法(開示規制)
金融商品取引法は、上場企業のM&Aにおける情報開示と公正な取引を規制する法律です。TOB規制、インサイダー取引規制、適時開示規則などを定め、投資家保護と市場の公正性を確保します。重要事実の公表、公開買付届出書の提出、大量保有報告書の開示など、透明性の高いM&A取引の実現を図り、市場の信頼性を維持します。
主要な開示制度
TOB開示
公開買付届出書
公開買付届出書
→
大量保有
5%ルール報告
5%ルール報告
→
適時開示
重要事実公表
重要事実公表
開示タイミング
- 決定事実:決定後速やかに
- 発生事実:発生後速やかに
- 決算情報:確定後速やかに
- 業績予想修正:判明後速やかに
違反時の制裁
- 課徴金処分
- 刑事罰(懲役・罰金)
- 民事責任(損害賠償)
- 上場廃止リスク
インサイダー取引規制
インサイダー取引規制は、上場企業の内部情報を利用した株式取引を禁止する制度です。M&Aなどの重要事実を知った会社関係者は、公表後12時間経過まで株式売買が禁止されます。役員、従業員、アドバイザー、契約交渉相手など幅広い関係者が規制対象となり、違反には刑事罰(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)と課徴金が科されます。情報管理の徹底が不可欠です。
インサイダー取引規制の対象者
会社関係者
役員・従業員
役員・従業員
→
情報受領者
第一次・第二次
第一次・第二次
→
契約交渉者
FA・弁護士等
FA・弁護士等
重要事実の例(M&A関連)
| 重要事実 | 具体例 |
|---|---|
| 株式交換・移転 | 株式交換・株式移転の決定 |
| 合併 | 合併契約の締結決定 |
| 会社分割 | 吸収分割・新設分割の決定 |
| 事業譲渡・譲受 | 重要な事業の全部または一部の譲渡・譲受 |
| TOB | 公開買付けの実施・中止 |
禁止される行為
- 重要事実知得後の株式売買
- 重要事実の伝達・推奨
- 公表前情報の漏洩
- 情報受領後の取引
違反時の制裁
- 刑事罰:5年以下の懲役または500万円以下の罰金
- 課徴金:利益相当額
- 民事責任:損害賠償請求
- 社会的信用の失墜
💡 実務上の対応
- 情報管理体制の構築(情報遮断壁の設置)
- 役職員への教育・研修の実施
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- アクセス制限の徹底(VDRの管理等)
反対株主の株式買取請求権
反対株主の株式買取請求権は、組織再編に反対する株主が会社に対して公正な価格での株式買取を請求できる権利です。合併、株式交換、会社分割などの重要な組織再編に際し、株主総会で反対した株主は、この権利を行使できます。買取価格は当事者間の協議で決まらない場合、裁判所の価格決定手続きにより決定されます。少数株主保護の重要な制度です。
株式買取請求権が認められる組織再編
合併
吸収・新設
吸収・新設
→
株式交換
株式移転
株式移転
→
会社分割
吸収・新設
吸収・新設
→
事業譲渡
重要な一部
重要な一部
株式買取請求の手続きフロー
| ステップ | 期限 | 内容 |
|---|---|---|
| ①反対の通知 | 株主総会前 | 議案に反対する旨を通知 |
| ②総会での反対 | 株主総会当日 | 株主総会で議案に反対票を投じる |
| ③買取請求 | 効力発生日の20日前から効力発生日前日 | 買取を請求する株式数を通知 |
| ④価格協議 | 効力発生日から30日以内 | 買取価格について会社と協議 |
| ⑤価格決定申立 | 効力発生日から30日以内 | 協議不調の場合、裁判所へ申立 |
株主のメリット
- 不本意な組織再編から離脱可能
- 公正な価格での買取保証
- 少数株主の保護
- 裁判所による客観的価格決定
会社側のリスク
- 想定外の資金流出
- 買取価格交渉の長期化
- M&Aスケジュールへの影響
- 裁判手続きのコスト
💡 買取価格の算定
- 市場株価を基準とする方法
- DCF法などによる理論価格
- 類似企業比較法
- 裁判所による鑑定評価
労働法(事業承継時の雇用)
M&Aにおける労働法は、従業員の雇用と労働条件の保護を定めます。事業譲渡では個別同意が必要ですが、合併や会社分割では労働契約が自動承継されます。労働契約承継法により、労働者への通知と協議が義務付けられ、不利益変更には合理性が求められます。雇用の安定と円滑な事業承継の両立が、M&A成功の重要な要素となります。
M&Aスキーム別の雇用承継
| スキーム | 雇用承継 | 必要手続き |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 自動承継(雇用主変更なし) | 特になし |
| 事業譲渡 | 個別同意必要 | 転籍同意書取得 |
| 合併 | 包括承継 | 事前通知 |
| 会社分割 | 承継法による | 労働者協議・通知 |
💡 労働条件変更の留意点
- 不利益変更には高度の必要性と合理性が必要
- 労働組合との協議・同意が重要
- 激変緩和措置の検討(経過措置等)
税制(組織再編税制)
組織再編税制は、M&Aにおける課税の繰延べや非課税措置を定める制度です。適格要件を満たす組織再編では、譲渡益課税が繰り延べられ、税負担を軽減できます。適格合併、適格分割、適格株式交換などの要件として、事業継続性、従業員引継ぎ、株式継続保有などが求められます。税務効率的なM&Aストラクチャー設計の基礎となります。
適格組織再編の要件
完全支配
100%関係
100%関係
→
支配関係
50%超関係
50%超関係
→
共同事業
要件複雑
要件複雑
主な税務上の取扱い
| 項目 | 適格組織再編 | 非適格組織再編 |
|---|---|---|
| 譲渡損益 | 繰延べ(非課税) | 課税 |
| 資産評価 | 簿価引継ぎ | 時価評価 |
| 欠損金 | 引継ぎ可能(制限あり) | 引継ぎ不可 |
| のれん | 税務上認識せず | 5年均等償却 |
💡 税務デューデリジェンスの重要性
- 繰越欠損金の利用可能性確認
- 移転価格税制リスクの検証
- 組織再編後の実効税率への影響分析