M&A用語集 - 財務・会計

M&Aの財務・会計処理について解説します

財務・会計

のれん
のれんは、買収価格が純資産を上回る部分を指す会計科目です。ブランド価値、顧客基盤、従業員のノウハウなどの無形資産を表します。買収後は定期的に減損テストを実施し、価値が毀損している場合は減損損失を計上します。

のれんの計算

のれん = 買収価格 - 純資産の公正価値

のれんの構成要素

無形資産の種類 具体例
ブランド価値 商標、ブランド認知度、評判
顧客関連 顧客基盤、契約関係、顧客ロイヤルティ
人的資源 優秀な従業員、経営陣、ノウハウ
組織力 企業文化、業務プロセス、ネットワーク

のれんの会計処理

会計基準 処理方法 減損テスト
日本基準 20年以内の規則的償却 兆候ベース
IFRS 非償却 年1回必須
US GAAP 非償却 年1回必須

買収価格の配分例

買収価格
100億円
=
純資産
(公正価値)
60億円
+
識別可能
無形資産
20億円
+
のれん
20億円

💡 M&Aにおけるのれんの重要性

のれんは買収価格の妥当性を示す指標となります。過大なのれん計上は、将来的な減損リスクを高めるため、買収時の適正な価格評価が重要です。また、買収後も定期的に減損の兆候を監視し、必要に応じて減損損失を計上する必要があります。

PPA(Purchase Price Allocation)
PPAは、買収価格を取得した資産・負債に配分する会計処理です。取得した有形・無形資産を公正価値で評価し、買収価格との差額をのれんとして計上します。M&A後の財務諸表作成に必要な重要な手続きです。

PPAのプロセス

【ステップ1】
識別可能な
資産・負債の特定
【ステップ2】
公正価値の
算定
【ステップ3】
買収価格の
配分
【ステップ4】
のれんの
計上

PPAの配分例

買収価格
100億円
純資産
60億円
+
無形資産
20億円
+
のれん
20億円

識別可能な無形資産の例

無形資産の種類 具体例 評価手法
顧客関連資産 顧客リスト、契約、顧客関係 超過収益法、ロイヤルティ免除法
技術関連資産 特許、ノウハウ、技術文書 ロイヤルティ免除法
マーケティング関連資産 商標、ブランド、ドメイン名 ロイヤルティ免除法
契約関連資産 供給契約、リース契約 差額法

💡 主な無形資産

  • 顧客関連資産(顧客リスト、契約等)
  • 技術関連資産(特許、ノウハウ等)
  • マーケティング関連資産(商標、ブランド等)
  • 契約関連資産(供給契約、リース契約等)

💡 PPA実施のポイント

  • 専門家の活用: 無形資産評価には評価専門家の関与が必要
  • タイミング: 買収後1年以内(遡及修正期間)に確定
  • 償却: 識別した無形資産は耐用年数で償却
  • 税務影響: 会計と税務で取扱いが異なる場合がある
連結財務諸表
連結財務諸表は、親会社と子会社を一つの企業体として作成する財務諸表です。M&A後は、買収した企業を連結対象とし、グループ全体の財務状況を報告します。内部取引は相殺消去し、グループの実態を反映します。

連結財務諸表の作成プロセス

【ステップ1】
個別財務諸表の
合算
【ステップ2】
内部取引の
相殺消去
【ステップ3】
未実現利益の
消去
【ステップ4】
資本連結
【ステップ5】
非支配株主持分
の計上

連結範囲の判定

持株比率 会計処理 支配の考え方
50%超 原則として連結子会社 議決権の過半数保有
50%以下でも支配 連結子会社 実質支配力基準
20-50% 持分法適用関連会社 重要な影響力
20%未満 その他有価証券 影響力なし

主な連結修正仕訳

修正項目 内容
内部取引の消去 グループ内の売上・仕入の相殺
債権債務の消去 グループ内の貸借の相殺
未実現利益の消去 グループ内取引による利益の消去
投資と資本の相殺 親会社の投資と子会社の資本の相殺

💡 M&A後の連結処理

買収日から連結範囲に含め、取得原価と被取得企業の純資産の差額をのれんとして計上します。段階取得の場合は、支配獲得時に既保有持分を公正価値で評価替えします。買収後は四半期ごとに連結財務諸表を作成し、グループ全体の財務状況を報告します。

減損会計
減損会計は、資産の価値が著しく下落した場合に帳簿価額を切り下げる会計処理です。M&Aで計上したのれんが、期待した収益を生まない場合、減損損失を計上する必要があります。減損は企業の業績に大きな影響を与えます。

減損会計のプロセス

【ステップ1】
減損の兆候の
把握
【ステップ2】
減損損失の
認識判定
【ステップ3】
減損損失の
測定
【ステップ4】
減損損失の
計上

減損の兆候(例)

カテゴリー 具体的な兆候
営業損益 継続的な営業赤字
キャッシュフロー 継続的なマイナスCF
市場環境 市場価格の著しい下落
経営環境 経営環境の著しい悪化

減損テストの頻度

  • 通常の固定資産:兆候がある場合
  • のれん(日本基準):兆候ベース
  • のれん(IFRS):年1回必須

M&Aへの影響

  • 買収後の業績悪化で多額の減損
  • 株価・信用力への悪影響
  • 経営責任の追及リスク
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、企業が事業活動から生み出す実質的な現金収支です。営業キャッシュフローから必要な設備投資を控除した金額で、企業が自由に使える現金を表します。企業価値評価の重要な指標で、DCF法の基礎となります。

FCFの計算式

FCF = 営業キャッシュフロー - 設備投資

または

FCF = EBIT × (1-税率) + 減価償却費 - 運転資本増加額 - 設備投資

FCFの構成要素

営業CF
(本業で稼いだ
現金)
-
設備投資
(事業維持に
必要な投資)
=
FCF
(自由に使える
現金)

FCFの使途

使途 内容
配当 株主への還元
自己株買い 株主還元・資本政策
借入返済 財務体質改善
M&A 成長投資
現金保有 将来の投資機会に備える

FCFの評価基準

FCFの状況 評価
継続的にプラス 優良企業、成長余力あり
一時的にマイナス 成長投資中、要注意
継続的にマイナス 事業モデルに課題、資金繰り懸念

💡 M&AにおけるFCFの重要性

FCFは企業の真の収益力を示す指標であり、DCF法による企業価値評価の基礎となります。M&Aでは、対象企業の将来FCFを予測し、現在価値に割り引いて企業価値を算定します。また、LBOでは、対象企業のFCFで借入金を返済できるかが重要な判断基準となります。

WACC(加重平均資本コスト)
WACCは、企業の資金調達コストの加重平均です。株主資本コストと負債コストを、それぞれの構成比率で加重平均して算出します。DCF法における割引率として使用され、企業の要求収益率を表します。

WACCの計算式

WACC = (株主資本コスト × 株主資本比率) + (負債コスト × (1-税率) × 負債比率)

WACCの構成要素

株主資本コスト
(期待収益率)
×
株主資本比率
+
負債コスト
(金利)
×
(1-税率)
×
負債比率
=
WACC
(総合的な
資本コスト)

株主資本コストの算定(CAPM)

要素 説明 一般的な値
リスクフリーレート 無リスク資産の利回り(国債利回り) 0.5-2%
ベータ(β) 市場との連動性(リスクの大きさ) 0.8-1.5
マーケットリスクプレミアム 市場全体の期待超過収益率 5-7%

株主資本コスト = リスクフリーレート + β × マーケットリスクプレミアム

💡 計算例

前提条件:

  • 株主資本コスト: 8%、負債コスト: 2%、税率: 30%
  • 株主資本比率: 60%、負債比率: 40%

計算:

WACC = (8% × 60%) + (2% × (1-30%) × 40%)

= 4.8% + 0.56% = 5.36%

この企業は、年率5.36%以上のリターンを生み出す必要があります。

💡 M&AにおけるWACCの活用

WACCはDCF法における割引率として使用され、対象企業の企業価値を算定する際の重要な要素です。WACCが低いほど企業価値は高く評価され、高いほど低く評価されます。買収後の最適資本構成を検討する際にもWACCの概念が活用されます。

レバレッジ効果
レバレッジ効果は、借入金を活用することで自己資本利益率を向上させる効果です。借入コストよりも高い収益率で事業を運営できれば、借入により株主へのリターンが増加します。LBOで重要な概念ですが、過度な借入は財務リスクを高めます。

レバレッジ効果の仕組み

借入活用
ROA >
借入コスト
ROE向上
(株主リターン
増加)

💡 具体例:正のレバレッジ効果

ケースA(無借入):

  • 自己資本: 100億円、借入: 0円
  • 営業利益: 10億円(ROA 10%)
  • 純利益: 10億円 → ROE 10%

ケースB(借入活用):

  • 自己資本: 50億円、借入: 50億円(金利4%)
  • 営業利益: 10億円(ROA 10%)
  • 支払利息: 2億円、純利益: 8億円 → ROE 16%

借入を活用することで、ROEが10%から16%に向上!

レバレッジ効果が働く条件

条件 効果 説明
ROA > 借入金利 正のレバレッジ 借入により株主リターン向上
ROA = 借入金利 中立 借入の効果なし
ROA < 借入金利 負のレバレッジ 借入により株主リターン悪化

レバレッジのメリット

  • ROE(株主リターン)の向上
  • タックスシールド効果(金利の税控除)
  • 自己資本の有効活用
  • 成長投資の加速

レバレッジのリスク

  • 業績悪化時の財務リスク増大
  • 金利上昇のリスク
  • 返済負担の増加
  • 財務制約(コベナンツ)

💡 M&Aにおけるレバレッジ活用

LBO(レバレッジド・バイアウト)は、レバレッジ効果を最大限活用したM&A手法です。対象企業の資産やキャッシュフローを担保に借入を行い、少ない自己資金で大型買収を実現します。ただし、過度なレバレッジは財務リスクを高めるため、適切な水準の管理が重要です。

財務レバレッジ
財務レバレッジは、総資産に対する有利子負債の比率を指し、企業の財務リスクを測る指標です。レバレッジが高いほど、借入依存度が高く、金利変動や業績悪化の影響を受けやすくなります。M&Aでは適切なレバレッジ水準の維持が重要です。

財務レバレッジの計算式

財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本

または

D/Eレシオ = 有利子負債 ÷ 自己資本

財務レバレッジの水準評価

レバレッジ水準 財務レバレッジ D/Eレシオ 評価
低レバレッジ 1.0-1.5倍 0.5倍以下 財務健全性高いが成長性に制約
適正レバレッジ 1.5-2.5倍 0.5-1.5倍 バランスの取れた資本構成
高レバレッジ 2.5-4.0倍 2.0倍以上 財務リスク高いが成長機会あり
過大レバレッジ 4.0倍超 3.0倍超 財務危機のリスク

業種別の平均的なレバレッジ

業種 D/Eレシオ目安 特徴
製造業 0.5-1.0倍 設備投資が多いが安定
小売・サービス 0.3-0.8倍 運転資本中心
不動産 1.5-3.0倍 資産担保による高レバレッジ
IT・ソフトウェア 0.1-0.5倍 固定資産少なく低レバレッジ

💡 計算例

企業Aの財務データ:

  • 総資産: 200億円
  • 自己資本: 80億円
  • 有利子負債: 60億円

計算:

財務レバレッジ = 200億円 ÷ 80億円 = 2.5倍

D/Eレシオ = 60億円 ÷ 80億円 = 0.75倍

→ 適正なレバレッジ水準と評価できます。

💡 M&Aにおける留意点

  • 買収後のシミュレーション: 買収資金調達後のレバレッジ水準を事前確認
  • 金融機関の融資条件: コベナンツ(財務制限条項)を確認
  • 業界平均との比較: 同業他社のレバレッジ水準と比較分析
  • 格付機関の基準: 格付維持に必要なレバレッジ水準を考慮