M&A用語集 - 基本概念
M&Aの基本的な概念と手法について解説します
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基本概念
M&A(Mergers and Acquisitions)
M&Aは企業の合併と買収の総称で、事業承継、事業拡大、競争力強化などを目的とした企業戦略の手法です。買収により資産や技術、人材、顧客基盤を獲得し、合併により経営資源を統合します。日本では近年、後継者不在による事業承継型M&Aが急増しており、中小企業の重要な存続手段となっています。
M&Aの種類
買収
(Acquisition)
(Acquisition)
+
合併
(Merger)
(Merger)
=
M&A
💡 具体例
ソフトバンクによるアームの買収(3.3兆円)、武田薬品によるシャイアーの買収(6.8兆円)など買収(Acquisition)
買収とは、ある企業が他の企業の経営権を取得することです。株式の過半数以上を取得する株式買収、事業部門を取得する事業買収、資産を取得する資産買収などの手法があります。友好的買収と敵対的買収に分類され、日本では友好的買収が主流ですが、近年は敵対的買収も増加傾向にあります。
メリット
- 迅速な事業拡大
- 新規市場への参入
- 技術・ノウハウの獲得
- シナジー効果の実現
デメリット
- 高額な買収資金
- 統合リスク(PMI)
- のれん減損リスク
- 文化摩擦の発生
合併(Merger)
合併とは、複数の企業が法的に一つの企業となることです。吸収合併では存続会社が消滅会社の権利義務を承継し、新設合併では全ての会社が消滅して新会社を設立します。規模の経済やコスト削減、競争力強化を目的に実施され、株主総会の特別決議が必要となるため、関係者の合意形成が重要なプロセスとなります。
合併の種類
吸収合併
A社がB社を吸収
A社がB社を吸収
→
新設合併
A社+B社=C社
A社+B社=C社
TOB(Take Over Bid / 公開買付)
TOBは上場企業の株式を市場外で大量に買い付ける手法で、買付期間、価格、株数を公表して実施します。経営権取得を目的とし、市場価格にプレミアムを上乗せすることが一般的です。金融商品取引法により、議決権の3分の1超を取得する場合はTOBが義務付けられており、全株主に平等な売却機会を提供する制度となっています。
TOBの流れ
①公表
条件提示
条件提示
→
②応募
20-60日間
20-60日間
→
③成立
下限達成
下限達成
→
④決済
株式取得
株式取得
💡 プレミアム率
通常、市場価格の30-50%程度のプレミアムが付加されます。MBO(Management Buy-Out)
MBOは企業の経営陣が自社株式を買い取り、企業を非公開化する手法です。短期的な株主利益に左右されない長期的な経営戦略の実行、抜本的な事業再編、迅速な意思決定を可能にします。投資ファンドと共同で実施されることが多く、経営の自由度向上と企業価値向上を両立させる手段として、上場企業の戦略的選択肢となっています。
経営陣のメリット
- 経営の自由度向上
- 長期視点での経営
- 情報開示コスト削減
- 敵対的買収の回避
株主への課題
- 利益相反の懸念
- 価格の妥当性検証
- 少数株主の保護
- 透明性の確保
LBO(Leveraged Buy-Out)
LBOは買収対象企業の資産や将来キャッシュフローを担保に借入金を調達して行う買収手法です。少ない自己資金で大規模な買収が可能となり、レバレッジ効果により高いリターンを狙えます。プライベートエクイティファンドが多用する手法で、買収後の経営改善と企業価値向上が成功の鍵となります。負債比率が高まるため、慎重な計画が必要です。
LBOの仕組み
自己資金
20-30%
20-30%
+
借入金
70-80%
70-80%
=
買収資金
100%
100%
レバレッジ倍率 = 買収金額 ÷ EBITDA
通常4-6倍程度が適正水準
通常4-6倍程度が適正水準
シナジー効果
シナジー効果とは、M&Aにより単独経営時の合計を上回る価値を創出する相乗効果です。売上シナジー(クロスセル、新市場開拓)、コストシナジー(規模の経済、重複部門削減)、財務シナジー(資金調達力向上、税務効果)が主要な種類です。買収価格の妥当性判断やPMI計画の基礎となり、M&A成功の鍵を握る重要概念です。
シナジー効果の種類
売上シナジー
顧客基盤共有
新商品開発
顧客基盤共有
新商品開発
+
コストシナジー
重複削減
調達力強化
重複削減
調達力強化
+
財務シナジー
信用力向上
資金効率化
信用力向上
資金効率化
=
企業価値向上
1+1>2
1+1>2
実現可能なシナジー
- 販売チャネルの相互活用
- 購買力の強化
- 研究開発の効率化
- 間接部門の統合
実現の課題
- 統合コストの過小評価
- 実現期間の長期化
- 組織文化の衝突
- 顧客・人材の流出
友好的買収
友好的買収は、対象企業の取締役会や経営陣の同意・協力を得て実施する買収です。デューデリジェンスの円滑な実施、従業員の協力確保、顧客関係の維持など、統合プロセスがスムーズに進みやすい利点があります。日本では文化的背景もあり大半が友好的買収で、長期的な企業価値向上を重視する傾向が強く、成功確率が高い手法とされています。
友好的買収のプロセス
初期接触
経営陣協議
経営陣協議
→
基本合意
協力体制構築
協力体制構築
→
DD実施
情報開示
情報開示
→
最終契約
円滑な統合
円滑な統合
戦略的買収
戦略的買収は、事業シナジーの実現や競争優位の構築を目的とした買収です。同業他社の水平統合、サプライチェーンの垂直統合、新市場・新技術獲得などが典型例です。事業会社が主体となり、長期的視点で企業価値向上を図ります。財務的買収と比較して高い買収価格を提示できることが多く、買収後の事業統合が成功の鍵となります。
戦略的買収の目的
- 市場シェア拡大
- 新技術・特許の獲得
- 新規市場への参入
- バリューチェーン強化
財務的買収との違い
- 保有期間:長期 vs 3-5年
- 目的:シナジー vs IRR
- 買手:事業会社 vs ファンド
- Exit:継続保有 vs 売却
財務的買収
財務的買収は、投資収益の最大化を目的とした買収で、主にプライベートエクイティファンドが実施します。3-5年の保有期間で企業価値を向上させ、IPOや他社への売却によりエグジットします。経営改善、財務リストラ、成長戦略実行により、IRR20-30%を目標とします。レバレッジを活用し、経営陣へのインセンティブ設計が重要となります。
財務的買収の価値創造
買収
レバレッジ活用
レバレッジ活用
→
価値向上
経営改善
成長投資
経営改善
成長投資
→
Exit
IPO/売却
3-5年後
IPO/売却
3-5年後
株式譲渡
株式譲渡は、対象企業の株式を売買することで経営権を移転する最も一般的なM&A手法です。株主が変わるだけで法人格は継続するため、許認可や契約関係が原則維持されます。手続きが比較的簡便で、税務上も株式譲渡益課税のみとシンプルです。ただし、簿外債務も含めて包括承継されるため、デューデリジェンスが特に重要となります。
株式譲渡の流れ
株式譲渡契約
締結
締結
→
代金決済
株券交付
株券交付
→
株主名簿
書換
書換
→
経営権
移転完了
移転完了
メリット
- 手続きが簡便
- 許認可等の承継
- 従業員の雇用維持
- 取引関係の継続
留意点
- 簿外債務の承継
- 不要資産の引継ぎ
- 株主全員の同意困難
- 株式の流動性
事業譲渡
事業譲渡は、企業の事業の全部または一部を他社に譲渡する手法です。個別の資産・負債・契約を選択的に移転できるため、不要資産や簿外債務を除外できる利点があります。ただし、許認可の再取得、従業員の個別同意、取引先との契約更新など手続きが煩雑です。特定事業の切り出しや、リスク遮断を重視する場合に選択される手法です。
事業譲渡と株式譲渡の比較
| 項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|
| 移転対象 | 個別資産・負債 | 会社全体 |
| 簿外債務 | 承継しない | 承継する |
| 許認可 | 再取得必要 | 原則承継 |
| 従業員 | 個別同意必要 | 自動承継 |
| 消費税 | 課税対象 | 非課税 |
会社分割
会社分割は、会社の事業に関する権利義務を他の会社に包括的に承継させる組織再編手法です。新設分割(新会社設立)と吸収分割(既存会社へ承継)があります。労働契約承継法により従業員保護が図られ、適格要件を満たせば税務上の繰延べも可能です。事業の切り出しや持株会社化、グループ内再編に活用され、柔軟な組織設計が可能です。
会社分割の種類
新設分割
新会社設立
事業承継
新会社設立
事業承継
⇄
吸収分割
既存会社へ
事業承継
既存会社へ
事業承継
対価の種類
分割型
株主に交付
株主に交付
⇄
分社型
会社に交付
会社に交付
株式交換
株式交換は、既存の会社を完全子会社化するための組織再編手法です。子会社となる会社の株主が保有株式を親会社株式と交換し、100%の親子関係を構築します。現金を使わずに買収でき、少数株主を強制的に排除(スクイーズアウト)できる利点があります。上場維持や段階的統合を図る場合に有効で、グループ再編でも頻繁に活用されます。
株式交換の仕組み
対象会社
株主
株主
株式
親会社
株式交付
株式交付
→
完全子会社化
100%保有
100%保有
株式移転
株式移転は、新たに設立する持株会社の完全子会社となる組織再編手法です。既存会社の株主は、その株式と引き換えに新設持株会社の株式を取得します。経営統合や持株会社体制への移行に用いられ、複数企業の同時統合も可能です。対等な統合を演出しやすく、ガバナンス体制の再構築と事業会社の独立性維持を両立できる手法です。
株式移転による持株会社設立
A社・B社
既存会社
既存会社
→
持株会社
新設
新設
→
A社・B社
完全子会社
完全子会社
株式交付
株式交付は、2021年施行の会社法改正で導入された新しい組織再編手法です。他社を子会社(50%超取得)にする際、対価として自社株式を交付できる制度です。部分的な買収でも自社株式を対価にでき、現金を使わずに子会社化が可能です。完全子会社化を求めない場合や段階的な統合を計画する際に有効で、買収の選択肢が広がりました。
株式交付の特徴
| 項目 | 株式交付 | 株式交換 |
|---|---|---|
| 取得割合 | 50%超 | 100% |
| 対価 | 自社株式(+現金等) | 自社株式 |
| 少数株主 | 残存可能 | 排除 |
三角合併
三角合併は、買収会社の親会社株式を対価として行う合併です。外国企業が日本子会社を通じて日本企業を買収する際に活用されます。2007年に解禁され、クロスボーダーM&Aの手法として注目されています。買収会社自体は消滅しますが、親会社の株式を取得できるため、グローバル企業グループへの参画が可能となります。税制適格要件の充足が課題です。
三角合併のスキーム
外国親会社
株式提供
株式提供
↓
日本子会社
合併実施
合併実施
→
対象会社
吸収合併
吸収合併
カーブアウト
カーブアウトは、企業グループから特定の事業部門や子会社を切り出す手法です。ノンコア事業の売却、事業の選択と集中、資金調達などを目的とします。売却(セルアウト)、独立(スピンオフ)、合弁会社設立など様々な形態があります。切り出し事業の独立性確保と、適正な事業価値評価が重要で、大企業の事業ポートフォリオ再構築で多用されます。
カーブアウトの手法
事業売却
第三者へ
第三者へ
→
スピンオフ
独立上場
独立上場
→
JV設立
共同事業化
共同事業化
スピンオフ
スピンオフは、企業が特定事業を分離独立させ、その株式を既存株主に比例配分する手法です。株主構成を維持したまま事業を独立させられ、親会社・分離会社双方の企業価値向上を図れます。米国では一般的ですが、日本では2017年の税制改正で実質解禁されました。事業の独立性が高く、異なる成長戦略が必要な場合に有効な手法です。
スピンオフの効果
親会社
コア事業集中
コア事業集中
+
SpinCo
独立経営
独立経営
=
株主価値
最大化
最大化
ホワイトナイト
ホワイトナイトは、敵対的買収から企業を守る友好的な買収者のことです。対象企業が自ら選定し、より良い条件での買収や資本提携を提案してもらいます。既存経営陣の維持、従業員の雇用保護、企業文化の継承などを条件とすることが多く、敵対的買収者に対抗する有力な防衛策です。日本では業界再編の文脈で活用される事例が増えています。
ホワイトナイトの役割
敵対的買収者
攻撃
攻撃
⚔
対象企業
防御
防御
🛡
ホワイトナイト
救済
救済
メリット
- 経営陣の維持
- 雇用の保護
- 企業文化の継承
- 敵対的買収の回避
留意点
- 株主利益の最大化
- 価格の妥当性
- 時間的制約
- 適切な候補者の選定